第三話
マントの上からでもわかる程、尻尾をピンと立てて怒る狐っ娘幼女――略してロリ狐(コン)。
これで服装が巫女服であれば、なんだか凄く狐狐していてドストライクだったのだが……とかいう考え以前に、言動が全てを台無しにしてしまっている。
「聞いているのかおぬしは! 我は痛いといったのじゃ、誠意を見せて欲しいものじゃ誠意を!」
「誠意、誠意か」
なるほど確かに。
考えてみれば、ロリ狐が俺にぶつかったのは完全に俺のせいだ。なのに俺ときたら彼女を優しくねっとりと愛でるだけで、大したアクションをおこしていなかった。
こういう場面なら、まず真っ先に言うべきことがあるだろう――そんな事すらおろそかにしてしまうとは、我ながらまだまだである。
俺はロリ狐に目線を合わせるために中腰になり、彼女の頭に生える狐耳の間にポフっと手を乗せて言う。
「ごめんな、お嬢ちゃん。どこか怪我はなかった? 痛いの痛いの~飛んで――」
「舐めとるのかおぬしは!」
!?
「いってぇえええええええええええええええっ!」
か、噛みつきやがった。
野生の狐どころじゃない……こいつは超凶暴な野生の狐だ。
「ぺっ! まっずいのじゃ!」
などと唾を吐き捨てるヤサグレ狐。
なんだろう、全く可愛くない。外見はものすごく可愛らしいのに、どうしてこんなにも中身ががっかりなのだろう――狐っ娘とは本来アレではないのか? 純真で可愛らしい感じじゃないのか? 無論外見と中身の両方がである。
俺はクッキリと歯型のついた手から血が出ていない事を確認し、再び眼の前のロリ狐に視線を移す。というか、こいつから目を離すことは危険であると俺の本能が訴えている。仮にこいつから目を離してしまえば、一瞬のうちに殺られる。
こいつはそれほど凶暴な狐なのだ。
さすがはフィクションの異世界ではない、リアルな異世界――いっさいの手加減や甘えはないという事か。
「ふん、我をバカにするからそういう事になるじゃ!」
「お前な、黙っていればいい気になりやがって……ぶつかって痛そうにしてたから、わざわざお前の年相応の対応をしてやったんだろうが!」
なのにそれに対する返答がこれなのか。と、俺が手に残った歯型を見せると、ロリ狐はさらにエスカレートして怒りだす。
「年相応の対応じゃと!? ふざけるでないわ! 我の年齢は今年で三百を超えているのじゃ、もっともおぬしのような節穴では、見て年齢を判断する事などできなくて当然じゃがな」
どうだ驚いたか。と、ない胸を逸らすロリ狐。
年齢と体が全く一致していなくて、やはりホコホコとしたものを感じてしまう。
それにしても、これでこの少女……と言っていいのかはわからないが、とにかくこの少女が複数の属性を持ちあわせている事が判明したわけだ。
つまりロリババアと狐っ娘の二代属性だ。
「素晴らしいな」
さすがは異世界。
元の世界においてオタク文化にも精通していた俺をここまで感動させるとは、やはり異世界とは一筋縄では行かないようだ。そして何よりいい、凄く面白い――たった二日で俺の心をここまで魅了するとは、なかなかにやるではないか異世界!
「おぬし……何故また我の耳を触りだすのじゃ」
っ!
いけない、感動のあまりついつい体が勝手に動きだしてしまった。だがしかし、これくらいは勘弁してほしい。なんせ人生初の異世界なのだから。
あ、そういえば。
「お前の名前は何ていうんだ?」
「む、いきなり『お前』とは失礼なやつじゃな……まぁいいのじゃ。我の名前はマオ、よく覚えておくといいのじゃっと、そろそろ時間なのじゃ。我は忙しいのでこれで失礼するのじゃ、今度からは道のど真ん中で突っ立っておるでないぞ!」
「あ、おい!」
行ってしまった。
まだ俺の名前をまだ言っていないのに――けどまぁいいか、何だかマオとはまた会える気が凄くする。それに俺もこんなスタート地点で、いつまでも突っ立っているわけには行かない。なんせ俺は今から仕事を探しに行くところだったのだから。
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