第二話
「相変わらず凄いな」
建物の中から一歩でも外に出てみれば、そこはまさしく夢と魔法の国。これぞまさにファンタジーというのを地で行っている――顔がライオンな毛むくじゃら男が、ロープレで出てきそうな服を着て歩いていたり……というよりまず町並みがまさにロープレだ。
赤レンガとも何ともつかない物で建てられた煙突つきの建物、道は当然の様に舗装されていない土むき出し。
「まるでテ○ルズとか、ドラ○エの世界に来てしまったようだ」
でもこうしてみると純粋な人間って言うのが少ないように思える。
一見すると普通の人に見えても、耳が生えていたり羽が生えていたり……元の世界なら真っ先に研究所送りにされそうな奴らばかり歩いていて、全く落ち着かない。
「そう言えばミーニャも普通の人間ってわけではないのか、あいつは一応魔法使いという訳だし……いや、でも待てよ」
ひょっとしてあいつは普通の人間だが、勉強して魔法を使えるようになって魔法使いになったのだろうか。
つまり、魔法使いというのが種族ではなくジョブ的なアレだとしたら、
「ふむ、そう考えると色々と夢が膨らむな。なんせ俺も勉強したら魔法が使えるということになる」
魔法。
誰しも一回くらいは使ってみたいと思うだろう――手から炎を出したり、風を操ってみたり、はたまたエターナルでフォースな奴で相手を死なせてみたり。
最後のはともかく、一回くらいはそういう事をやってみたい。
「っと、下らない妄想はこの辺りにして、そろそろ真面目に働く場所を探すとするか」
俺は一度だけ今出てきたばかりの建物――ややメルヘンチックな木造建築に、ミーシャの魔法用品店という看板を掲げた家を見る。
最悪の場合はここで働くというのもありかもしれない。
「まぁ本当に最終手段だな」
いきなり出来た妹とはいえ、その妹に働かせてくださいと泣きつくのは、事情がどうあれどうかと思う。まぁ裏を返せば、まだ完全に妹という認識が出来上がっていない今の内が、頼める最後のチャンスと言えなくもない。
これから先あいつと一緒に長い間暮らし、本当の妹という認識が俺の中に出来上がってしまえば、今度こそ確実にプライド的な意味で頼む事は不可能になってしまうだろう。
「わぷっ!?」
「っと」
そんな事を考えて居ると、腰の辺りに衝撃。
見てみると黒で統一された豪華な装飾の施された服に、これまた豪華なマントを羽織った金髪碧眼の幼女(しかも狐耳と狐尻尾を完備した幼女だ)が、鼻がしらを抑えて涙目になっていた。
おぉ、リアル狐っ娘だ。
マントの下から時々覗くモフモフ尻尾がとても可愛らしいし、頭の上でピクンピクンと動くし耳もとても愛らしい。当然だが本物を見たのはこれが初めてなので、是非とも耳をくいくい尻尾をもふっとやってみたい。
くいくい。
もふもふ。
「うむ」
この何とも言えない感覚、プライスレス。
しかもまだ鼻が痛いのか、なされるがままに色々弄られている狐っ娘――生粋の狐好きである俺からすると、これほど幸せかつ幸福な時間はない。
その後も俺は往来の目を気にせず、ひたすらに狐っ娘をいじり倒す。くいくいもふもふ、触れば触るほど自分が狐スパイラルに陥っていくの分かる。
「えぇい! いつまで触っているんじゃ、おぬしは!」
「ぐぼっ!?」
蹴られた。
脛を凄い強さで蹴られた。
この狐っ娘――従順で大人しい安全狐かと思いきや、その実超攻撃的な狐ではないか。今この瞬間、俺の事を下から抉る様な上目づかいで睨みつけて居る様子など、まさしく野生の狐。人間などには決してこびねぇぞこら! という、真の野生が感じられる。
「だいたいなんじゃ! どうしてこんな道のど真ん中たっているのじゃ!? 邪魔じゃ、すごく邪魔じゃ! 我の鼻が無事だったからまだいいものの……もしも我の鼻がボキってなってたらどう責任とってくれたのじゃ!」
ボキってなんだろう。
すっごく和むわ。
何だかオーバーアクションを交えて怒声を上げる狐っ娘幼女。
これは確実にアレだ――どうやら俺はこの日、この世界に来てから初めてイチャモンをつけられているらしい。
でも可愛いからいいや。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます