第一話
「お兄ちゃん?」
「んあ?」
「お兄ちゃんはいつまで炬燵でぬくぬくしてるの? いい加減働かないと、いつまでたってもニートだよ?」
「まて、俺はまだ昨日の今日で整理がついてないんだ」
「整理?」
小首を傾げながら、炬燵で亀になっている俺を見下ろしてくる黒髪ツーサイドアップの少女――トンガリ帽子にローブ、おまけに杖を持った彼女こそは俺をこの世界に召喚した魔法使いにして、このミーニャ魔法用品店の店主だ。
どうやら彼女は一人なのが寂しくて、昔から兄に憧れていたらしい。
だから魔法を使って俺を召喚した。
なんて言われても信じられるだろうか?
いや、そんなとんでもない事を信じられるわけがない。もしもそんな妄言を言われて信じられる奴が居たら、是非とも俺の前に連れてきてほしい。
だが、一日かけてこの店の周囲を見回ってみたが、確かにここは地球でもなければ日本でもないらしい――理由は単純、地球に存在する全ての言語をマスターした俺が、店先の看板に書いてある字などを読めないのだから。
こうして喋っている言葉もおそらく、召喚時の魔法的アシストのおかげで勝手にこの世界の言葉に翻訳されているのだろう。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
「いや、なんかもうお兄ちゃん嫌になっちゃった」
「何が?」
そんなの決まっている。
今まで必至に勉強してきた全ての知識がほぼ無駄になり、いきなり経験値ゼロの状態でこんな世界に放り込まれたら嫌になるに決まっている。
でもいいのだろうか。
このままこうして腐ってしまっていいのだろうか。
否、腐っていいはずがない。
よく考えてみたら、まだ嫌になるのは早い。
いつか元の世界に戻る方法を見つけるのも大事だが、取りあえずはこの世界でニートの立場から脱却する。そして、元の世界同様にトップクラスと言われるキャリアを取り戻せば、俺はこの世界においてもある程度安泰の世界を送れるのではないだろうか。
俺は嫌なのだ。
他人より下に位置するという事が。
「よし、お兄ちゃんはちょっと出かけてくる」
「どこに行くの?」
「そうだな……」
取りあえずはどこかで働こう、昔から素晴らしいと評判である俺の順応力の高さをもってすれば、なんとかなるはずである。
働く場所を見つけて、ニートから脱却するのだ。
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