真の天才は全てを見抜く

学生でござるマン

天才と愚才

「............新たな【天才】が発見された」

「では、すぐに保護の準備をしましょう」

「そうだな............ただこいつは、何の【天才】なのかわかっていない」

「それは今から」





「............」


 陰キャ、か? 俺は。

 少なくとも、周りの人と積極的に絡みたいとは思わない。


「オォーイ! アクトォ! おはよォ!」

「俺、トイレ行ってくるわ」


 しかし、それを許してくれないのだ。神っていうのは。


 陽キャ中の陽キャ、神 英雄かみ あきと。あだ名はアキ。

 俺にダル絡みしてくるから適当にあしらっておく。


 面倒ごとは避けるのが一番だ。


「じゃあ俺もついていくわ!」

「帰れ」

「えぇ............」


 アキは男女問わず人気だから、数秒経つと誰かに話しかけられている。

 告白も絶えない。


 別に彼女とか彼氏が欲しいわけでもないのだが............女子に睨まれるのはもう嫌だ。自分、そんな趣味はないです。


「............ああ。嫌な予感がする」


 俺は【天才】だ。

 あまり知られていないが............


 というか、俺の存在自体知っているやつが少ない。


「............学校はめんどくさいんだよなぁ............」


 解けない問題はないし。ひけない楽器はないし。なんでもできる俺にとっては無駄な時間だ。


「............ん?」


 外の様子でも見ていると、黒くて豪華な車が学校の前に止まる。

 金髪の男、黒スーツ、黒スーツ、黒スーツ............何人いるんだ?



 23人が学校に入ってから2分ほど。

 ドアが開かれ、さっきの金髪と黒スーツが入ってくる。


 そして、俺と視線が合う。

 そんな見つめられると、私............


 なわけあるかバカが。こちとら乙女の正反対と呼ばれた男だわ。


「君が眞縞 握斗まじま あくとくんかい?」

「ああそうだ」

「君は【天才】に選ばれた。国に保護してもらう権利が君にはある」


 ザワッ、と。

 いつも騒がしいクラスであるが、一層盛り上がる。


 そもそも、【天才】の顔を見れることが珍しいのだ。

【天才】は国に保護されてから、メディアに一切出れない。


 だから、【天才】を見るためには............【天才】のすぐ近くにいるしかない。


「アクト............お前、よかったな............」


 アキ。泣くな。キモい。


 まぁ、俺の答えは決まっている。



 もう話している時間すら惜しく、雲の形から連想していくゲームを再開する。

 あれはヘッドフォンみたいだな............ヘッドフォンといえば新しいものが最近出たんだよな............会社は安心のトーマスだから、そういえばトーマスといえばゲーミングチェアが............


「............なぜだ!?」

「............アキ。俺はこの手のものに引っ掛からない男だ」


 黒スーツと金髪を睨む。


「そもそも、名乗らないやつを信用できると思うか? お前ら誰だよ。一人一人、三分くらいにまとめて自己紹介しろ。ではまず金髪から」

新垣 鳥羽しんがき とばと言う。天才を見抜く【天才】だ」


 ほぅ。それはさすがに驚いたな。

【天才】がここまで来るとは。


「さて。お前はなぜ拒む?」

「そうだな。なんやかんや言ってこの学校生活が楽しいから............ではダメなのか?」

「このままだったら汗水流して働くことになるぞ?」

「それでいいじゃないか。人並みの人生を過ごし、人並みに働き、人並みの幸せを受けとる............それで満足だ」


【天才】だろうがなかろうが、興味はない。

 俺は俺のしたいことをするのみ。


「俺の思想からすると、国についたほうが損するんだよ」

「............よく考えておくがいい」


 黒スーツと金髪は、帰っていった。


「どうするのが一番良いのか............」


 ククク。それがお前らの本性か。

 まぁ、今の情勢を知るいいきっかけになったな。


「アクト............なぜ............」

「言ったろ。普通に生きたいって」


 この世界は良くも悪くも、【天才】を優遇しすぎている。

 それが長く持つとは思えない。どこかで軋轢が生じ、どちらかが滅ぶ。


 なんで平和にならないのかね............


「あと、アキが寂しそうにしていたから............では不十分か?」

「............アクト............」

「抱きつくな。暑い」


 ............まぁ、この日常を過ごしていたいな。

 なにも起こらずに............




 っていうのは不可能だ。


 国は【天才】をなんとかものにしようとするからな。

 相手が武力行使で来たなら、勝ち目はほぼない............


「と、いうわけで作戦会議だ」

「私、別にあなたがいなくなってもいいのだけど」

「いや、アクトがいなくなったら寂しいだろ!?」

「「全然」」


 うぐ。俺のメンタルに八千ダメージ。


 ここはアキ家だ。


【天才】特権を振りかざし、箝口令をひいた俺は、こうやって、僅かな人材を集めて会議をすることにした。


 国に頼らなくても、口外禁止くらいはできる。

 都合のいい世界だよ。本当に............


「ではまず自己紹介から。先読みの【天才】、握斗だ」

「その親友の、神 英雄!」

「親友じゃなく、悪友だ」

「なんだよー。恥ずかしがってんのかぁ?」


 このアキが。嘘言いやがって!


「私は、生徒会書記、戸井 円香とい まどかです。よろしく」

「私は光月 海音こうげつ あまね。よろしくね!」

「............と、いうわけでこの会議の議題ですが............」


 間を大きく取り、声を1オクターブ下げる。


「もうすぐ、我らの学校が取り潰しになる」

「「「え?」」」

「100パー取り潰しになる」


 アキの筆箱から、鉛筆を取り出す。

 それを垂直に立てた。


「【天才】の俺を、国は支配したがっている。しかし俺は行かないと言った」

「うんうん」

「さて、国はどうする?」

「............諦める!」


 バカは置いておいて............話を進める。


「自分から生きたいと思うようにする。なら、周りの人間をすべて消せばいい」

「え?」

「人を求める【天才】に、国が呼び掛ける。保護されれば人と暮らせるぞ............と」


 やっていることは完全なマッチポンプだ。

 しかし、その誘惑に逆らえるやつは少ないだろう。


 拒んだやつは、これを毎回やらせているのだろう。


「いつかはわからないが、学校は間違いなく潰れる。これが俺の《先読み》だ」


 俺は、鉛筆を折った。


「俺もこうなる。100パーな」


 これだから【天才】とバレないようにしてきたが............天才を見抜く【天才】には敵わないな。


 まぁ、ここまで来たらしかたない。


「お前ら。この学校が潰れるのは嫌だよな?」

「うん。この学校は中学時代超頑張ってやっと受かった学校だもん」

「そうね。私もこの学校は捨てられないわ」

「俺だって!」

「だったら答えは1つ............」


 俺は、筆箱を叩き壊す。


「国を破綻させる」





 準備はすぐに始まる。

 まず、学校の人たちに説明。賛同を得たものは学校に残ってもらう。


 教師が2人も残ってくれたのは想定外だ。


 俺のリアルマネーを使い、大量の廃材を買い込む。


 窓には鉄板を嵌め、正門と裏門は厳重に。

 屋上には物見やぐらを作り、辺りを監視してもらう。


「............夜が明けるな」


 たった一夜にして出来上がった城塞。

 俺たちはここで、戦う。


 武器らしい武器はないが............まぁ、俺一人で十分だ。


 まさか国民に手をあげるとは............思わ............ない。


「ありがとな。アキ。お前がいなかったらこんなことはできなかった」

「俺も、お前がいなくなるのは寂しいのでな............」


 問題は、賛同しなかったものたちだ。

 国に報告するやつが一人、二人いてもおかしくない。


 爆速で作ったが、まだ補強は終わっていない。

 あくまで外見だけだ。


 中まで作り終えるには、あと1日くらいかかる。


「今日は............今日は来ないでくれ............」


 俺は初めて神に祈った。



 しかし、現実は残酷だ。




「............来たか」


 やぐらから見えたのは、黒スーツの集団。金髪は............いた。

 他に2台、車が止まる。


「やれやれ。お前がそこまでやるとは............

「............お前にそのことは言っていないはず」

「バカですか? 盗聴だよ盗聴! お前の親友につけさせて貰いました」


 ............アキぃ。


「じゃあ、全部バレているってことか?」

「そうだね。早く投降してくれませんか?」


 黒スーツの集団が、銃を取り出す。

 それが、学校を取り囲んだ。


「悪いが............」


 メガネ越しにやつを覗く。


 ............隙がない。訓練されているな。


「............お前らに負ける可能性は0パーだ」


 地面を蹴る。

 そして、殴る────寸前、ブレーキをかけた。


「............残念ですよ。本当に残念」


 風が吹き、腹に激痛が走る。


 ............速い。


「こんな有用な人材を消すことになるなんて」

「お前............【天才】じゃないな?」

「人聞き悪いなぁ。【天才】ですよ? だけど」


 嘘ついていやがったか!

 これは読めなかった。


 ただ、国が抱き込んでいる人のなかに『天才を見抜く【天才】』がいるのは本当だろう。じゃなきゃ名乗るとは思えない。


「頭しか取り柄のない青二才には勝てないよ」

「やってみなきゃわかんねぇだろが!」


 吐き気をなんとか押さえ込む。

 あばら骨が折れたような気がする。苦しい。


「がっ!」

「どう? 仲間になる気はある?」

「んなもんねぇよ!」


 及ばない。

 あと一歩。だが、その一歩が果てしなく遠い。


 可能性は今も増えていき、俺の視界を埋め尽くす。


「............もう声も出せないかな?」

「............」


 出すものが全て出る。

 勝てない。勝つことができない。


 これが、【天才】............


「............じゃあ、死のうか............」

「............やっとだ」


 血を吐く。


 遠くから、たくさんの車が走ってくる。


「やっと、平等に戦える」

「なにをした?」


 俺は、ポケットからボロボロになったスマホを取り出す。


「お前ら、普通の人のことを考えてないよな............」

「なにを言っている?」

「好きでもない男に抱かれるっていうのが、どれだけ苦しいことなのかわかってねぇ。自分が辛い思いをして働いてるのに、楽して金を貰っているやつがいる理不尽な現実を見ていねぇ」


 恨み、呪い、それを華麗にコントロールする。

 俺は、この国に革命を起こす。


「数の暴力だ。お前らに勝てるか?」


 数は正義。数は正しい。


 流れ込んできた人は、黒スーツを取り囲みボコボコにする。

 こうなってしまえば、圧倒的な力を持つものも無力化できる。


 たった一人以外は。


「甘いよ。兵法のへの字も知らないような雑兵に、負けるわけないじゃん」

「だろうな」


 こいつは俺が抑える。いや違うな。俺が倒す。


「お前ら。手を出すなよ」

「はい!」


「触ることすらできなかったのに、なにを言っているんだい?」

「こう............」


 一気に距離を詰める。

 そして、拳を放つ。


「がっ............」

「どうだ? 【天才】さんよ。目に追えたか?」


 爪を隠していたのはお前だけじゃねぇ............


「【天才】殺しの【天才】。握斗だ」


【天才】を殺すという瞬間において、周りとは一線を画す力を生む。


 やつは武の【天才】だが、俺は【天才】だ。

【天才】を殺すという分野では、俺の独壇場。


 常人を狙えば俺は弱くなる。


「バカな............盗聴に気がついていただと............!?」

「それは地頭だ。ちょっと考えればわかること」


 先読みなんて力を持っているわけではない。

 普通に考えた。ただそれだけだ。


「自分で考えるということをやめたから地頭が弱る。考えろ」

「厄介だなぁ............ホント」


 入った感はあったのだが、さすが武の【天才】だ。立ち上がってくる。


「だったら、そこの人たちから」

「待て!」


 マズい!

 そこを攻められたら............終わる!


「お前ら! 逃げろ!」

「えっ............」

「君から」


 狙われたのは、一人のクラスメイト。


 ズドン!

 そんな音が聞こえた。


「............死にに来たのか?」

「...........アクトと並び立つには、これくらい必要だろ............」

「アキ!」


 アキが、命がけで守ってくれた。

 その数秒で十分だ!


「ハァッ!」

「チッ............」


 視線を俺から一瞬離し、集中を散らせてくる。

 やつにしかできない戦法。


「なぜそこまでして常人を庇う!? ただの駒だろう!?」

「バカだな............俺からしたら、全員が天才なんだよ!」


 委員長である円香を見た。


 心配そうな顔でこちらを見ている。


「あいつは人のために尽くす【天才】だ。あいつがいたから、士気を保てた」


 次に、海音を見た。


「あいつは人を応援する【天才】だ。あいつがいたから、1日で作れた」


 最後に、傷だらけのアキを見る。


「アキは人を思いやれる【天才】だ。あいつがいたから、学校生活を楽しいと思えるようになった。あいつがいたから、孤独にならずにすんだ」


 なんやかんや言って、俺はあいつに感謝している。

 あいつはあいつなりに、俺が孤独にならないよう話しかけたのだろう。


 ダル絡みとか悪友とか、色々言ったが、俺はあいつに感謝しかない。


「全ての人がなにかの【天才】だ! お前らのよくわからない物差しで、優遇したり突き落としたりするんじゃねぇよ!」


 ドォンッ!

 最後、俺の拳が突き刺さる。


「が............」

「墓は作ってやる。感謝して逝け」


 崩れ落ちた金髪は、そのまま二、三回痙攣し............完全に動きを止めた。


 これで、第一歩だ............


「さて、ここから【天才】を根絶やしにしていこう」





「............ふぅ」


【天才】は消えた。ただ一人俺を除いて。


【天才】が、ある遺伝子によるものだということもわかった。

 その遺伝子を持つものをすべて消した。


 これで、俺の思想は終わる。


 あと、俺が死ねば。


「さよなら。俺が愛した世界────」


 すべてが始まったあの学校。その屋上から身を投げる。


 地が迫った。


 そして、足が砕け、内臓が揺れ、脳が飛ぶ............


「............ん?」

「死なせるわけ、ないだろ」


 そこには、アキがいた。クラスメイトがいた。人々がいた。


「お前がなんと言おうと、ワシの娘は救われたんじゃ。死なせるわけにはいかないのだよ」

「そうそう。呪縛から抜け出せたんだしね」

「結構楽しかったよ? あの戦い」

「世界は平和に向け歩き出したんだ。平和の象徴が死ぬわけにはいかない」


 人を殺して平和の象徴............世も末だな。


「俺にせよならも告げずに逝くんじゃねぇよ。俺の気持ち考えたことあるのか?」

「あるわけない」

「まったくよぉ........................お前は、死ぬな。親友である俺が命ずる」

「いや、悪友だが」

「ばっきゃろぉ!」


 俺は、久しぶりに笑った。

 10年ぶり? 20年ぶり?


 でも、俺は思った。


 この笑顔の意味を、もっともっと知りたいと。

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