52/いまの彼にとってなら





 そうして彼女は、穏やかに目を覚ました。


 ひとときの深い休息。

 長かった夢見の名残を微かに胸へ抱きながら。


「…………、」


 ぼうっと天井を見詰める。


 一度落ち着いたからだろう。

 朝に比べて身体の調子はぜんぜん良い。


 全快とまではいかないが、普通に過ごすには申し分ないぐらいだ。

 程度でいうならいつもより悪いけれど、過去における最低値にはまだ届かない。


 少なくとも彩斗おとうとが死んだあとの自分よりかはずっと元気。


(……いま、って――――)


 ゆっくりとベッドから起き上がる。


 カーテンに仕切られた空間は室内なのもあって時間も曖昧だった。

 直ぐ傍で脱ぎ揃えられていた靴を履いて、渚はそっと顔を出してみる。


 彼女を除いて保健室のなかに人の気配はひとつだけ。


 わずかな物音を聞いたそのひとは、キィ、と椅子を鳴らして少女のほうを向く。


「あら、起きた?」

「――は、はい……」

「大丈夫? 凄い魘されてたけど」

「だ、大丈夫……です……」


 そう? と柔らかく微笑む白衣の女性。


 この保健室の主。


 学園において生徒の健康を一手に担う一大人物。

 ゆるふわロングの金髪をたなびかせる学内随一の美人教師。


 彼女こそが星辰奏学園の養護教諭、見雨良みうら深殊みことである。


「今朝のコト覚えてる? あなたクラスメートの男の子に担がれて来たのよ。お姫さま抱っこで」

「…………覚えて、ない、です……っ」

「うん。記憶はたしかっぽいわね。顔色もよくなってるし」

「――――――っ」



 〝あの野郎マジ〟



 メラメラと燃え立つ衝動的な渚の復讐心。

 が、それは直ぐさま勢いを弱くしてブスブスと燻りだした。



 〝――――あのヤロウもうマジ……っ〟



 悲しいかな、土砂降りのあとに残された薪は湿って使い物にならない。

 火を起こしたとしても気持ちよく燃料になってはくれないのだ。


 そのあたり渚の心はもうびしゃびしゃ。


 下手すれば湿度百パーセントいくかどうかという、よもや水そのものな湿地帯で煙はたたなかった。


「いま、ちょうど昼休みだから。大丈夫そうならご飯食べておいで。キツかったら無理しないで午後からも来て良いからね」

「っ、すいません……」

「良いから良いから。謝る必要なんてないのよー」

「……ありがとう、ございます……」

「ん、よろしい」


 満足げにうなずく見雨良教諭に見送られて、「失礼しました」と渚は保健室を後にする。


 言われたとおり日はまだ中天にのぼったところだった。


 校舎には授業中とは違う、一時の解放による喧噪が溢れている。

 廊下はまったく明るい。


 そこにどこかほっと胸をなで下ろす。


(……とりあえず、教室行かなきゃ……)


 ……鞄は手元になかった。


 記憶がたしかであれば、どこぞの誰かさんに掬われた際に取られた気がする。

 おそらくは気を遣って持って行ってくれたのだろう。


 わざわざそこまでしなくても良いのに、と思うのは過去ぜんせの距離感か現在イマの感情か。


 どちらにせよ疑う心情がないあたり相当なものだ。


「――――――、」


 コツコツと靴音を鳴らして廊下を進んでいく。


 歩くのにこれといった支障はない。


 彼に保健室へ押し込まれたのは登校した直後だ。

 眠っていたのはそれから今まで。


 だとすればなるほど、時間でいえば十分なぐらいだった。


 四時間ちょっとの睡眠はそれ相応に心と体を整えている。


「………………、」


 反面、悩みの種は明らかになったところで対処のしようもなかった。


 気付かなかったこれまでと、気付いてしまったこれから。

 かれ彩斗かれを別で考えていた時間と、かれ彩斗かれも同じだと認識した未来。


 たったそれだけのコトだけれど――いや、それだけのコトだからこそ――まったく同じとはいかない。


 なにより違いを容認できるほどの余裕を渚は持てないでいる。


 築いてきた関係性は言うまでもなく壊れていた。

 渚の認識でソレは間違いようもない事実。



(――――わかっ、てるの……かな……)



 こつん、と階段を踏みながら考え込む。


 彼のコトはよく知っている。

 でもいまの彼はよく分からない。


 昔ならちょっとした声色や表情の微細な変化、些細な動作で透き通るように読み取れた。


 肇との間にそういったコトはあっただろうか。


 ……彼女自身、それはあまり無かったように思う。


 だから通じない。

 たぶん、きっとそうはいかない。


(………………私は……)


 苦虫を噛み潰したみたいに渚は顔を顰める。

 思い浮かんだのは最悪な未来と最低な考え方。


 ……優希之渚が翅崎陽嫁だと気付かれていたとして。


 自分のすべてを告白すればどうなるか。

 彼は一体どんな反応をするのか。




 ――――もし。


 仮に。


 そう、例えば、このように。



『失望したよ、優希之さん姉さん



 なんて言われた日にはもう立ち直れない。


 彼女は二度と空を見上げる権利を失うコトだろう。

 それほどのショックは余裕で受ける自信があった。


 なんならこの首にかけてもいいぐらいだ。


 主に罵倒直後に吊るのではないかという想像も込みで。


(――――ダメだ)


 がくん、と膝を折りながら足を止める渚。

 なにがダメかなんて言うまでもない。


(想像しただけで私もう生きてけない……っ)


 両目からポロポロと涙がこぼれてくる。


 最愛の家族に拒絶されたショックと、好いた相手にすげなくされる絶望感。


 肇と彩斗は別々に捉えているのに――いや、別々で捉えているからこそ――こういう場合に限っては衝撃は掛け合わされていた。


 彼はちょっと一度、あねに対する破壊力を計算し直したほうが良いかもしれない。


(違うって思ってた。私は大丈夫って。でも、でもさぁ……っ)


 ――見下ろすような蔑む瞳。


 冷め切った表情と色のない声。

 淡々と告げられる否定の言葉。


 そんな彼の姿を思い描くだけで渚は死にたくなった。


 自分でも驚くぐらい。

 それだけでたぶん十回はれる。



(無理だよだって中身彩斗だもん肇くんだもん! そんなん嫌だよぉ! だって元家族で好きで恋してて愛しくて好きで優しくて好きで惚れてて好きで好きで好きであぁぁぁああぁあああああ――――!!!!)



 ――ちなみに公共の施設における階段で崩れ落ちる行為は大変危険です。


 例え多大な精神的ダメージを負っていたとしてもやめましょう。

 説明するまでもなく彼女は悪いお手本なので。


(死にたい…………!)


 ぷるぷると震える渚はさながら弱小生物のごとく。


 気力を取り戻してもその根本的な実力は変わらなかったらしい。

 端的にいって彼女は対水桶肇関連において徹底的に弱いのだ。


 それがピンポイントでウィークポイントを突かれているのだからそれはもう大変。


 実に面倒くさい生き物である。


 なおそんなコトはそうそう起きないだろうが、実際に「面倒くさい」と肇から面と向かっていわれると病む模様。


 もはや何も言うまい。


(……かといって)


 彼女が姉だと気付かれていないとすればそれはそれで複雑で。


 そのまま正体を隠して彼と付き合っていけるかといえば――到底無理だ。


 いまでさえ結構かなりギリギリだというのにこれ以上は不味い。

 罪悪感が倍々ゲームで押し潰してくる。


 その場合も同じように最終的な行き着く先で首を吊る姿を幻視した。



 ――――どうしよう。



 渚はどうなっても死ぬ未来しか見えない。


(えっほんとに私は肇くんになにされても心折れる気しかしないけど。えっえっ)


 馬鹿げた話、ちょっとだけ余命宣告された彩斗かれの心を知れた気がする。


 もちろん冗談で。

 たぶん半分ぐらい。


 ……まあ、ともかく結論として。


(わかんない)


 やっぱりただその一言に尽きるわけで。


(わかんないよ……ぜんぜん……)


 ほう、とひとつため息をつきながら歩を進める。


 なんにせよ彼女が知ってしまった時点でもう後戻りもできなかった。


 気付いているなら姉弟。

 気付いていないなら他人。


 ……そんな簡単な話で済む問題でもないだろう。


 割り切れているのならともかく、渚の心はまだ混戦状態だ。


 姉と知って過去の所業を知られて嫌われたら。

 ――泣く。


 姉弟だからと親愛の情でしかない対応をされたら。

 ――それも泣く。


 ぜんぜんなんとも想っていないと打ち明けられたら。

 ――当然泣く。


 泣く、泣く、泣く。


 ――――心が、辛い。


(ああっ……! 知らないだけで女の子を泣かせるクソボケめぇ……っ、お姉ちゃんはそんな子に育てた覚えはないよっ!!)


 無論、半分ほどブーメランであるのは過去の所業からして明らかだ。


 渚はここに来てもまた自分の行動を棚上げしたらしい。


 必然的に他人との関わりが薄くなっていった彼へ過剰なまでのスキンシップを敢行し、見事距離感をぶっ壊した元凶は一体誰なのか。

 事件の謎は深まるばかりである。


(…………意趣返し、なのかな。それとも、本心……?)


 夢に見たいつかの言葉を思い出す渚。


 見上げた夜空は流れる川のような群青。

 きらめく星は光を弾くみたいに。


 頭上に浮かぶ月にかけられた言葉は鮮明に胸を打つ。


 あなたのコトが大好きなのだと。


 彼にそう教えたのは誰でもない彼女だった。

 だからこそ、深く考えれば考えるほど思考はぐるぐると迷路を回る。



(ああ、もう……ずっと悩んでばっかりだ、私……彼のコト、で……)




 ――――それは。


 唐突に、頭を刺すみたいな気付きだった。


 目の前の対処に精一杯な頭は過去の見落としも多い。

 だからだろう、忘れかけていた記憶の端に指の爪先が引っ掛かる。


 目の前の光景も身の回りの状況も忘れて、唯々思考に没頭する。

 我を忘れたような意識の暴走。


 しつこいぐらいに彼のコトで悩んでばかり。


 放っておいたらずっと、彼のコトを考えている。


 そんな状態を自覚したときが、以前の彼女には一度だけあって――――



 〝そう、まるで〟



「――――――――」


 きゅっと、階段をのぼりきった先で渚の足が止まった。

 保健室のある一階から特別教室の集まる二階へ。



 〝彼に恋でもしているみたい――――と〟



 一年生の教室がある五階まではあと三階分。


 間違えようもなく彼女の目的地はそこだ。

 昼食もなにも――それこそ財布すら――持っていない状態なのだから尚更。


 先ずは自教室へ顔を出さなくては腹ごしらえさえできない。


 ……けれど。


 やっぱりやめた、なんて。


 気分で行き先を変えたみたいに、渚は二階の奥へと進んだ。



「――――…………、」



 コツコツと踵を鳴らして、無言で廊下を歩いて行く。


 いまさら自覚しはじめた空腹も、

 人気のない雰囲気も彼女には関係ない。


 足を引っ張るにはそれらの要素は弱すぎた。


 ただ今は。

 なんだか無性に、彼の絵が見たくて。




 コツコツ、コツコツと。


 今日一番の元気が良い足取りで彼女は往く。


 ……授業の関係だろう。


 美術室は昼休み時でも開放されていた。

 出入り口の扉すら開けたままだ。


 それをなんとはなしにくぐり抜けて、室内をぐるりと見回す。



「…………、」



 肇の描いた絵は後方の、部員の作品を並べる場所に置かれてあった。

 彼だって立派な美術部の一員というコトだろう。


 淀みない動作で教室を縦断した渚は、そのままキャンバスの前でピタリと固まる。


 昨日はショックでまともに見られなかった一枚。

 記憶にある色彩は眼前のものと殆ど遜色ない。


 死の間際で描き上げられた――と彼女も思っていた――過去むかしの彼の集大成。

 天才、翅崎彩斗の生み出した最後の作品。



 ――澄み渡るような青い空と、風に揺れる深々と生い茂った緑の絨毯。


 ――その中で、薄手の白いシャツドレスに身を包んだ少女が手を合わせて祈っている。


 ――穏やかに、密やかに。


 ――いまの誰かだとは思えないほど眩しい笑顔で。



 その絵はいつかの彼女の名前を取って『陽嫁』と名付けられた。


 なればこそ、長い黒髪をなびかせて笑う絵画の女性は。

 遠く彼方の星に消えた、古く錆び付いた彼女自身の写しだ。


(………………、)


 思えば、彼はどうしてこれを描こうと思ったのだろう。


 そのあたり渚も疑問に思うところがあったらしい。


 なにせ過去ぜんせで未完成だったとはいえ殆ど出来上がっていた作品だ。

 同じモノを再度描くというのは、理屈で筆を取らないあやとにとって気分の良いものでもなかったろう。


 夢中はなっていたけれど乗り気ではなかったハズ。


 ……それをどうして、わざわざ今になって描き上げたのか。


 たまたま足を運んだだけの彼女にあっさり「あげる」と言ったのか。

 かつての焼き直しみたいな言葉を選んで吐きかけたのか。


 それは。


 その答えは。


 おそらくは。


 疑うまでもなく――――











「君、そこでなにをしているんだ」


「…………、」



 こつ、と後ろから違う靴音が聞こえてくる。


 見れば渚が通ってきた出入り口の扉にもたれかかるようにして、ひとりの男子の姿があった。


 まったく知らない顔ではない。

 どころか、一時期は親の仇みたいに見ていた人物でもある。


「……潮槻くん」

「その絵がどうかしたのかい」

「……別に。貴方には関係ない」

「そんなコトはない。僕は美術部で、肇の友人だ」

「…………、」

「……なにか言いたげだね、優希之渚」


 その言葉に渚はあえて答えなかった。

 なんとでも言えはしたけれど、正直にいうのもどこか癪で。


「この分野に身を置いていると、色々人を見て分かるコトもある」

「……嘘みたいな話だね」

「嘘じゃないさ。実際、今だって僕は分かってるつもりだけど」

「なにが」

「そういうところだよ」


 彼女らしからぬ食い気味の解答に、馨からも似たような勢いで返される。


 ……本来の優希之渚と潮槻馨であったのならそんな空気はなかったに違いない。


 彼女は己の実力と才能で思い悩む少年の心を救って、

 少年はそんな彼女に並々ならぬ想いを抱く。


 ――そんな道筋も用意されていただろう。


 でも、ここで出会ったのはそんな前提を壊した複雑怪奇な少女だ。


「君、絵を燃やしたコトがあるだろう」

「――――――」

「分かるんだよ。そういう人は目に映るから。雰囲気で匂うんだ。酷いものだね。――作品の価値をまるで理解できてない、品のない目だ」

「…………だったら、なに」

「肇の絵を燃やすつもりじゃないの」

「……違う」

「信憑性のない言葉だね」


 ふん、と鼻で笑うようにして彼が歩き出す。


 彼我の距離は徒歩でさえ十秒もしないうちになくなる。


 渚は馨を。

 馨は渚を見詰めながら。


 背景に肇の絵を挟むようにしてふたりは対面した。


「僕は散々忠告したんだけどね」

「…………誰に」

「肇に。君とは距離を取った方が良いって」

「っ、そんなの――」

「ああ。彼の勝手だ。別にそれで腹を立ててるんじゃない。そこは勘違いしないでほしいな。何度も言っているけれど、気に入らないのは君だ。優希之渚」

「――私も貴方のこと、好きじゃない」


 ぎり、と視線をいっそうキツくする渚。

 それに返すように馨の表情だって急激に温度をなくしていた。


 お互いに一歩も引かない。

 譲ろうともしない明確な敵意のぶつけ合い。


 なにをそこまでムキになっているのかは、考えるまでもなくシンプルなモノだ。



「君は彼の才能を分かっていない」

「……少なくとも貴方の百倍分かってる」


「価値だって判断できてない」

「この世界の誰より知ってるよそんなの」


「それは君自身の感性による評価じゃないだろう」

「私の経験則から導き出してるのがそんなに悪い」



 ――ああ、今の今までぐちゃぐちゃになっていたけれど。

 不思議なコトに、こうなってくるとどうも火が付くようだった。


 それは水桶肇だけを見ていた彼女にはなかった感情の起こり。

 翅崎彩斗だと知ったが故の分かりやすい変化。


 根源的な部分に染み付いた衝動はストレートだ。


 ――彼のコトを知ったように他人が語るのは、どうにも。


「肇は気にしていないようだけれど、僕は君が彼に相応しいとは到底思えない」

「……なにを根拠に」

「だって君が見ているのはあくまで肇で、その絵はおまけとでも思っている」

「――――だったら、なに」


 語気は強かった。

 きっと、彼女自身次の言葉を半ば予想できたから。


「彼の才能を分からない人間がなにを望んでる?」

「たかだか絵の才能がそこまで偉い?」


 夢の中でも。

 遠い過去の世界でも。


 何度も何度も耳にした。


 聞き飽きるぐらい入ってきた彼の素質を肯定する言葉。


 それは偏に突出しすぎているがために、強大すぎるが故に目を焼く輝きの証明だ。


「……彼の才能をで済ませるあたりとくにそうだね」

「そうやって持ち上げて本人がどう思うかを考えないんだね、芸術人ゲイジュツジンって」

「君が肇を幸せにできるようには見えない」

「そんなの――――」






 ……と。


 そこまで威勢が良かった声は、その問答で一気に静まった。


 たった一瞬。

 ほんのひととき。


 彼を幸せにできるかどうかと真面目に考えてしまって。


 はっきりと、答えられるだけの根拠も勇気もないのに気付く。



「っ――――……そんなの。わからない、から」

「……そこで言い淀む時点で君は違う」

「違わない」

「君は彼になにができる」

「なんだって――」

「なにか出来た試しがあるのかい」


 過去むかしなら。


 沢山、それこそいっぱい世話を焼いていた。


 なにせ彩斗は身体が弱かった。

 誰かが手を貸さなくては生きていけないほど病弱だった。


 でもそれはそれ。

 昔は昔、今は今だ。


 現在いまの彼女が肇になにか出来たコトは。



「……結局」



 意地悪く吐き捨てて馨が踵を返す。


 渚は口を開けたまま二の句を告げない。


 なにか。

 なにか、肇に。

 思い返して出来ていたコトは。


 手伝えていたような、大事なコトは。



 …………あった、だろうかと。



「理屈どうこうの前に、いまの君じゃダメみたいだね」



 よく知りもしない他人の言葉なんてどうだっていい。

 関わり合いのない人間ならそも雑音と変わらない。


 だからそんな、去り際の馨が放った一言だって彼女にとっては意味のない戯れ言だ。


 ……問題は。


 戯れ言のはずのその一言が、心に思いっきり刺さったコトで。


「――――…………っ」


 知らず、拳を握り締める。


 暗さは消えた。

 陰鬱さは残っていない。


 彼女はいつの間にか普段の名残を取り戻している。




 ――代わりに、どこか拭いきれないモノと、正体不明の悔しさに焼かれながら。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る