第6話6日目
あのサラリーマン風の男の苦しむ顔を思い出すと痛快な気分になる。あの男は自業自得なのだ。悪いことをすれば自分に帰ってくるのだ。僕は悪くない。スーラも悪くない。
あの男が体の一部分を失ったのは自分自身の行いのせいだ。おばあさんを突き飛ばしたりしたからああなったのだ。
その日は本をスーラに読み聞かせたり、クラシックなんかを聞いたりして過ごした。明後日にはこのアパートを出なければいけないけどなんのあてもない。
でもスーラがいれば僕にはそれだけで良かった。
スーラの体積はますます大きくなった。
ペットボトルには入りきらないのでホームセンターで灯油なんかをいれるポリタンクを購入し、それにスーラを入れた。
4リットルのポリタンクが満タンになった。
晩御飯を食べた僕はポリタンクをボストンバッグに入れて、夜の散歩に出かける。
行くあてもなくぶらぶらと夜の住宅街を歩く。月夜のもと歩く散歩は気持ちいい。肩に食い込むボストンバッグの紐もそのなかにスーラが入っていると思うと苦にはならない。
僕にはスーラしかいない。きっとスーラにも僕だけだと思う。
夜の散歩を楽しんでいたら、それを邪魔するような女性の悲鳴が聞こえてきた。
「やめてください、私はあなたなんか知りません!!」
気になった僕はその悲鳴の所に近づく。
そこにはあのかわいらしいコンビニ店員が立っていた。
彼女の向かいには背の高い男がいる。
「どうしてだ、僕たちはつきあっていたじゃないか」
その男はくぐもった声でいう。手にはサバイバルナイフが握られていた。
「あなたなんか知りません!!もう私につきまとわないで!!」
コンビニ店員の悲痛な声。
「おまえは俺のものになるんだ」
低い声で男は言うとコンビニ店員の豊かな胸にサバイバルナイフを突き刺した。
ぐはっと濁った声をあげると力なく彼女は倒れる。
背の高い男は何度も何度もサバイバルナイフを突き刺した。すぐに血の海が広がり、コンビニ店員の彼女はぴくぴくと痙攣したあと、うごかなくなった。
「これで
男はコンビニ店員の彼女の小指をサバイバルナイフで切り取り、持ち去っていった。
僕はその赤い血で染め上げられた彼女のもとに歩み寄る。死んだ彼女はまるで人形のようだった。ある種の美しさを感じとってしまった。
かわいそうにこんな姿になって。
僕がじっとその血の池に浮かぶ死体を眺めているとポリタンクのふたが勝手にあいた。
ぬるりぬるりとスーラが出てくる。
僕はその様子をじっと見る。
スーラは実にゆっくりとアスファルトの地面をはってついにコンビニ店員の彼女の口にたどり着く。スーラはその血の気のひいた唇をこじ開け、中に侵入する。スーラはそのぬるぬるした体のすべてを彼女の中に侵入させた。
すぐにぴくぴくと痙攣し、サバイバルナイフによって開けられたいくつもの穴が塞がっていく。切りとられた小指も生えてきている。
ばちくりと閉じていたまぶたが開く。
うーんと背をのばす。
「おはよう、私はスーラよ」
彼女は言った。
夜なのにおはようというのがどこかおかしかった。
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