第5話五日目

僕はスーラと共に図書館にでかけた。図書館でクラシックのCDを借りるためだ。お金のない僕にとって図書館という存在はありがたい。

スーラを2リットルのペットボトルにいれてそれをリュックにいれる。肩にずっしりとくるがスーラを部屋に置いていく気にはなれなかった。

僕はこの奇妙な生物かどうかさえわからない存在に愛着を持つようになっていた。


図書館で本を読み、時間をつぶす。

本を読んでいる間だけは将来の不安なんかを忘れさせてくれる。

部屋に帰ったらスーラに本を読み聞かせてあげよう。僕はそのために児童書を何冊か借りた。児童書とスーラのため、リュックはかなり重い。でもスーラがうれしそうに揺れる姿を想像するとそれも苦にはならない。


僕はバスに乗り、帰宅する。

交通系のカードをタッチしてバスを降りる。

僕の後ろでおばあさんが現金で運賃を支払っていた。そしてゆっくりとした足取りでバスの階段を降りる。

「なにもたもたしてるんだ、邪魔だババア!!」

激しい怒声と共にスーツを着た男性が急いでバスを降りる。おばあさんの体を押しのけたので、彼女はアスファルトの地面に転がってしまった。

僕は大丈夫ですかとおばあさんに駆け寄る。

「ちょっとひどいじゃないですか」

僕はそのサラリーマン風の男性に声をかけた。

「そいつがノロマだからだろ」

サラリーマン風の男性は足早にその場を去ろうとする。

この身勝手な男に僕は正直腹をたてた。

本当になんて言い草だ。

おばあさんは痛そうに顔を歪めている。


その時、背中のリュックが激しく動いた。ペットボトルがリュックから飛び出し、キャップが外れる。

中にいたスーラが極細の紐となってサラリーマン風の男性に襲いかかる。

そいつは絵に描いたように驚愕している。

次の瞬間、悲鳴をあげる。

なんとスーラがその男の右耳を切りとってしまったのだ。真っ赤な血を流して、男は倒れこむ。

さらにスーラはその地面に落ちた右耳を吸収してしまった。

「スーラ逃げるぞ」

僕はスーラをペットボトルに入れてその場を走り去る。背中のスーラは熱湯のように熱かった。

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