第4話熱意と集中

三日目。


「どうせやるなら、世界一を目指そう」


 彼の世界一宣言があってから一晩明けた。


 今日は休日。学校も休み。


 少し落ち着いてきた脳みそだが、繰り返し

「世界一、世界一」


と頭の中で反復している。


 彼はあまりおしゃべりじゃないが、音楽に対する熱意があらゆる行動から伝わる。


 彼は本気で音楽に取り組んでいる。


 知り合ってから日が短いとはいえ、私は彼の仲間だ。


 仲間であるならどうするべきか。


 こっちも本気で音楽に取り組む。そうでなければ不誠実だ。


 そう思ったら段々と私も音楽に対する熱意が湧いてきた。


 私の脳みそは一瞬にして音楽に埋め尽くされた。


 昨日連絡先を交換し、通過儀礼のスタンプを相互に送り合ったのみのチャットアプリで、


「世界一を目指そう」


 と送った。


 何故だかわからないが、体の奥のほうから沸々と何か熱いものが湧き上がってきた。


 どうにかこの気持を消化させようと思ってギターを持つ。


 アンプをイヤホンにつなぐ。イヤホンを耳につなぐ。


 ギターを弾く。ギターを弾くたびに熱い気持ちが少しずつ落ち着いていくのが分かる。


 とにかく、気持ちのままにギターを弾く。


 今日は休日だから時間を気にしなくていい。

 こうなった私はバッテリーが切れるまで同じことをし続ける。生まれたときからの癖だ。


 幼稚園のときから、今までずっといい意味でも、悪い意味でもこの個性は私を支配し続けている。


 ずっと床に座っていて同じ体勢でお尻が痛くなったが、ソファーに座ることで対処した。


 頭が回らなくなってきたからチョコレートを服用し続けることで対処した。


 手首が痛くなっていたので、手のストレッチをした。


 汗をかいてきたので、シャワーを浴びた。クーラーをつけた。


 弟が、「お昼だぞー」とノックもなしにドアを開けてきたとき初めて、私の集中は切れた。そしてそのままお昼ごはんを食べた。


 食後、眠くなってきたし、頭も使いすぎてぼーっとするから、昼寝をした。


 三時間後、起きてシャワーを浴びる。寝たことで完全に正気に戻る。

 一分も勉強してないことに気づき、勉強に取り組む。


 片耳にイヤホンをつけて、スマホでお笑い芸人のネットラジオをつけた。


 夜までじっくりと宿題の数学Ⅰをやって、ご飯を食べて、風呂に入り、一日を終えた。

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