第3話 倉庫の中で音は鳴る
練習初日。
今日は放課後、私はすぐに家に帰って、ギターを用意して彼の家に向かうことになっている。
私はネットで練習する曲の楽譜を買って、自分の家で印刷したものを手に彼の家の倉庫に向かった。
私と彼は倉庫のコンクリートにあぐらをかいて、練習を始めた。
まずは楽譜を手になじませる作業だ。単純な作業ではある。
しかし、少しずつ曲の形になっていく感覚が私をとても楽しませてくれる。何回も、何曲分も繰り返した作業だが、楽しいものは何回やっても楽しい。
スバルは面白いほど真顔で、音を確かめている。
もっと上手い人は分からないが、少なくとも私やスバルのようなギタリストにとっては、時間が掛かるものなので、今日の終わりに合わせることを目的に各自で練習を進めることになった。
途中でコンクリートに当たり続けた体が痛くなってきたので、スバルに頼んで座布団を持って来てもらったり、喉が乾いたので飲み物を持ってきてもらったりして、だいたい二時間の練習時間を終えた。
予定通り、私とスバルのギターとタブレットから流れてくる音とで演奏を合わせる。
やはり上手だ。
筋肉量の差なのであろうか、力強い演奏でとても惹きつけられる。
演奏が終わったあとの彼は演奏にとても満足しているようだった。
そして、鋭い目をして、私に言ってきた。
「どうせやるなら、世界一を目指そう」
ん?セカイイチ?私は一瞬彼が何を言ったのか分からなかった。
混乱している私に彼は矢継ぎ早に話す。
「目標を持たないまま練習するよりも、目標を持っている状態で練習したほうが上達しやすいと思うし、そっちのほうが楽しいと思う」
確かに。でも、
「なんで世界一なの」
私が問うと、彼は、
「なんとなく。目指すなら世界一だと思って」
私は終始、完全には理解していない状態で、否定もできなくて、
「じゃあ、決定ね」
との彼の一言に終わり、私達は世界一を目指すことになった。
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