第22話
その後、無事街まで戻ってきた俺達は集めた三つの素材を持って合成屋に向かった。
占い魔女の言う通り、その三つを合成して新たに生まれるアイテムは『ゲート・オブ・ディメンション』というものだった。
このアイテムの使用目的として上げられるのは、異世界間の移動を行うものでは当然ない。
使用者の記憶からその場所を導き出し、二つの場所をゲートで繋げるというものらしい。本来はそういう移動を目的として使われている。だから、比較的簡単な素材で生み出すことができるんだとか。
その原理で、俺達の記憶から元の世界への道を創り出し、この世界と元の世界をゲートで繋ぐというのが唯一の帰る手段となった。
「アイテムも手に入れたし、さっさと帰るか?」
合成屋からの帰り道、俺は隣を歩くサクラに尋ねる。
「まあ、そうね。そう言いたいところだけど、せっかくだし美味しいもの食べようよ」
「そういやそんな話もしてたな。確かに、ようやく全部終わったんだし、最後くらい贅沢しても許されるよな」
「そうよ。あるお金全部遣っちゃいましょう! どうせ持って帰っても使えないんだから」
「よっしゃ、そういうことならパアッといくか! 残高どれくらいあんの?」
「え、私のは前祝いで遣ったからないよ。あんたが持ってるでしょ?」
「え、俺のも前祝いでほぼなくなったよ?」
お互いに嘘でしょという顔で見合う。
どうやら前祝いが盛り上がり過ぎたらしく、俺達の残高は今日のロードランナーのレンタル費などを差し引くとほぼゼロだった。
「じゃあ食べれないじゃん」
「そうだな」
「えー、最後の晩餐くらい豪勢にいきたいんですけど!」
ぶーぶーと駄々をこねるサクラ。そんな彼女にかける言葉は一つしか思い浮かばない。
「下着売るか?」
「売るわけ無いでしょ! 二度とあんな真似はしない!」
「なら諦めて帰るしかないな」
「えー」
お金がないんだからどうしようもない。
「しょうがないなあ」
と、サクラは諦めたようにつぶやく。
「なにが?」
「ほら、行くわよ」
「どこに?」
「あのお店よ。私、イベントの終わりはパーッとしたいタイプなの」
「あのお店って、お前まさか」
「この世界とも今日でお別れなんだもん。下着くらいくれてやるわ!」
そう言ったサクラの顔はどこかキラキラしているというか、ワクワクしているようにも見えた。
もしかしてこの子、下着を売ることに快感を覚えてしまったのでは?
なんて、そんなはずはない。
いつかのあの日、下着を売って得たお金は相当なものだった。
それを思い出しているのだろう。
あれだけのお金があれば夜通し贅沢してもお釣りがくるだろうし。
「最後は私の奢りでいいわよ。あんたは、ほら、いろいろと頑張ってくれたしね」
「なんか、そこまで優しいと逆に怖いな」
そんなわけで俺たちは例のお店まで移動する。
都合よくあのスペースが空いていたので早速販売の準備をする。
販売開始から数分、すぐに買い手は訪れた。
「一着限定のパンツ、まだあるかな。ブヒヒ」
おお、ふ。
この人には見覚えがある。
この人あれだよ。
初めてのお客さんだよ。お金の羽振りがめちゃくちゃいい金持ちクソ変態。
「え、ええ」
「チミィ、久しぶりに見るね。そういえば、以前にチミから買ったパンツ、あれはよかったよ。いいにおいしたし、これまで買った中で最上級に興奮した」
「そ、それはよかったです」
「さ、新しいものをおくれ。もうこの前のパンツは使い物にならなくてね」
「と、言いますと?」
パンツって使い物にならなくなることあるの?
「もうボロボロさ。舐めてしゃぶってぶっかけて。洗濯してももう彼女のにおいがしなくなってしまったんだ」
「へ、へえ」
俺でも普通に引くわ。
というわけで一度、サクラのところに戻る。
「……」
分かりやすく、うげぇと嫌そうな顔をしていた。
まあ、気持ちはわかるけどさ。
「なんで同じ人が買いに来るわけ? 私のストーカーかなにか?」
「いや、この店の常連ってだけだろ」
「急に嫌になるわぁ。めちゃくちゃ気持ち悪くない?」
「聞こえないように小声にする配慮ができるなら、いっそのことそんな文句言わないでおこうか」
「言わずにこんなことやってられるか」
まあ、そうですよね。
「まだかい?」
「ああ、いえ、ただいま」
そんなわけで二度目にして最後になるサクラのストリップショーが始まる。
こんなもの今後見ることは一生ないだろうから、俺もしっかりとこの目に焼き付けておこう。仮にこのあとボコボコにされたとしても見る価値はある。
服に手を入れ、もぞもぞとブラを外す。
上手い具合に脱ぐもんだなあ。
着ている服は動きやすさを重視していることと、今が寒い時期ではないこともあって薄地だ。
なので、ブラを外すことで胸元の膨らみには小さな突起が現れる。
さらに彼女はスカートの中に手を入れて、片方ずつ足を上げてパンツを脱いでいく。
その際に見える太ももがなんともまあ堪りませんこと。
隣でストリップショーを目を見開いて鑑賞しているブタ野郎は息を荒くしている。これは気持ち悪いですねえ。俺も大して変わらないけど。
そして、全てを脱ぎ終えたところで、それがブタ野郎に手渡しされる。
「ブヒヒ。いい買い物をしたよ」
「毎度どうも」
ブタ野郎が行ってしまったところでサクラが盛大な溜息を漏らす。
「辛かったああああああ」
「お疲れさん。おかげで豪華な晩飯が食えるよ」
「そうよ。感謝なさい」
こっちに来たときの彼女からは想像もできない成長だな。
これを成長と言っていいのかは分からないけれども。
「さ、それじゃ飯を食いに行こうぜ!」
「下着買いに行くわよ!」
□
というわけで、急遽俺達は元の世界に帰ることになった。
せっかくだから最後に異世界を楽しみたいと思っていたのだが、こういう展開になってしまうとは非常に残念である。惜しむ気持ちを振り払い、俺達はひと気のない裏路地に向かう。
「ねえねえ」
それではアイテムを使いますかというタイミングでサクラが聞いてくる。
「この世界の魔法を持って帰ったらお金持ちになれるんじゃないの?」
よくある話だ。
確かに持って帰ることはできるだろうけど、そんなことをすれば元の世界で大ニュースになる。科学的な要素のない完全ファンタジーな代物となれば尚更だ。同じものを生み出せないとなると、そこまで爆発的なものを得られるとは思えないが。
「まあ、そうなのかもしれないけど、止めといた方がいいだろうな。お互いの世界の為にも。あと、俺達の為にも」
「私達のため?」
サクラの問いかけに俺はこくりと頷いて見せた。
「俺達はようやく、これまでの平穏な暮らしに戻れるんだぞ? 魔法なんて持って帰ったらマスコミやら科学者やらに追いかけられる毎日が続くかもしれない。それどころか、悪の組織に命を狙われるかも……」
俺が冗談めかして言うと、サクラはぷぷっと笑う。
なんだよ、という視線を向けると彼女はおかしそうにこんなことを言った。
「そんな漫画みたいなことあるわけないでしょ」
と。
そして、俺達はアイテムが作り出した光の中へと入っていく。その先にあるのが、元の世界だと信じて。
こうして。
俺と彼女の、異世界旅行は幕を閉じた。
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