第7話 女の子が望目当てじゃない!?

「ちょっと待って、青木くん」


 昼ご飯へと立ち上がろうとした俺を止めたのは、今日ペアになった藍沢さんだった。

 なんだなんだ!?これはもしかして、昼ご飯のお誘いか?だとしたら、和哉達……すまん、俺は美少女とご飯を食べるのが夢だったから……。


「あー!どこか行こうとしてる!待っててって言ったでしょ!」


「え?木村さん?」


「愛梨ちゃん、同じクラスだからって私に頼まないでよ、同じペアの人だからよかったけど」


「夏乃、ごめんね!どうしても早くお礼がしたくて、無理言っちゃった」


「別にいいんだけどね、私もちょっと青木くんの事気になってたし」


 俺達4人は固まってしまった、いきなり目の前に美少女が現れ、そして望ではなく、目当てが俺に来ていたのだから。


「お、おい!春馬、こんな可愛い子達と知り合っておいて黙ってたのか!?」


「俺のデータには春馬が女子の友達がいたというデータはないんだが……」


「春馬くん、君もこっち側にならないか」


「ちげぇよ!俺だってよくわかんねーよ、2人とも今日知り合ったみたいなもんだし」


「じゃあなんでお前の事気になってたり、お礼したりとかするんだよ?」


「それは、まあ色々と…………」


 動き出した和哉が、2人に聞こえないように小声で凄んできた。龍蔵と望も困惑しているようだ。いやこれ、望は仲間を見つけた目をしてるだけだな。


「いいかな?青木くん、まずはお礼させて、私のハンカチを拾ってくれてありがとう。あのハンカチは両親に貰った大事な物だったから……。お礼のジュースあげるね。」


「うん、ありがとう」


 そんな大事なものだったら拾っておいて本当に良かったな、渡されたジュースがプリン味なのはすごい気になるけど。


「引き止めちゃったみたいでごめんね、お礼も出来たし、お昼ご飯私達も食べるから、もう大丈夫だよ」


「気にしなくていいよ、別に大したことしたわけじゃないからね」


「ありがとう!これも何かの縁だし、連絡先交換しない?」


 連絡先の……交換だと?

 その言葉を聞いた瞬間、俺達に稲妻が走った(俺、和哉、龍蔵)。女の子に連絡先を聞かれるのは初めてでどうしていいか分からなかったが、とりあえずスマホを差し出した。


「うん、これでいいね、ついでに夏乃の連絡先も入れておいたから、何かあったら連絡してね!」


「ちょ、ちょっと、なんでそんなっ」


「さっき、気になるって言ってたでしょ?学校で聞けないこともラインでなら聞けるでしょ」


「そうだけど……」


「それに、春馬って名前、昨日聞いたでしょ?もしかしたら同業の人かもしれないし」


「確かに、勝手に連絡先を追加されたのは困るけど、それで気になってたのは本当だし……それにしてもよくわかったね?」


「もちろん、私は夏乃の親友だからね」


 藍沢さんの連絡先まで入っているとの事で、携帯を確認したら本当に入っていた、木村さんにはもう足を向けて寝られないな。

 その後の会話は急に小声になり、耳打ちのような感じになっていたので分からないが、あまり聞かれたくないことなんだろう、嫌われたくないので深入りするのはやめた。


「ごめん、俺達そろそろどっかで食べないと時間無さそうだから」


「うん、ありがとうね、青木くん」


「私からも、愛梨ちゃんのハンカチを見つけてくれてありがとう」


 2人からお礼を受けて、俺は昼ご飯を食べに行った。


 ――――


 終業のチャイムがなり、まちにまった放課後になった。

 今日は2層から行けるところまで行こうということになっていた。


「春馬、もうみんな揃ってるぜ」


「よし、行くか!早くランクをあげて上のところ目指そうぜ」


 俺達はそのままダンジョンに向かった。え?荷物はどうしたかって?

 探索者協会にはランクDになるまでは自分の装備を金庫に預けられるシステムがあるため、それを使ってダンジョンに行く時だけ装備できるようにしている。

 ちなみに協会にはロッカーとシャワーも少ないが付いていて、探索から帰ってきてすぐに汗を流すことも出来る。そしてそんなシステムがある理由だが、一般的に探索者ランクDから1人前の探索者として扱われる。武器を普段から使うべき時に使うことも許されるしその分責任も発生する。

 つまりはEランクまでは武器の持ち運び等めんどくさいのでみんな預けるシステムを使っているのだ。


「今日の目標はどうする?」


「う〜ん、僕は行ける所まで行きたいな、自分の実力も知りたいし」


「そうだな、俺も望に賛成だぜ」


「俺のデータによると10層から下が過酷らしい」


「あれ、ここって何層まであったっけ?」


「たしか、20層とかじゃなかったか」


「僕も20だった気がするから、春馬くんので合ってると思うよ」


「俺のデータ……」


 データキャラな所を無理やり活かそうとしてくる龍蔵のセリフを奪ってしまったため、龍蔵がしょげていた。


「次は――」


「よしっ、着いたな」

 

「じゃあ着替えてさくっと探索して帰ろうぜ」


 協会まで着いたので、預けていた装備を装着しダンジョンの前に集まった。


「2層の階段目指していくぞ!」


 1時間後……


「おい〜、1層は狭いから大丈夫だろとか言ったのは誰だよ」


「やっぱりマップ買ってくるべきだったね」


 攻略されたダンジョンにはマップが置かれていることが多く、低いクラスのダンジョンであればあるほどマップは安い。


「一応、僕は今日のはマッピングしてるから戻ってマップ買って、ダッシュで2層向かおうか」


「そうだな」


「俺のデータが言っている、こっちの方に階段があると……」


「おい、龍蔵どうしたんだよ急に」


「俺に着いてきてくれ、こっちに階段がある」


「分かるのか!?」


 龍蔵は道がわかっているかのように、走っていく。

 まさか、道がわかるような魔法だったのか?空間魔法というのは。


「いや、何となくだが、絶対にある」


「「「おい!」」」


「なんとなくって、まだ帰り道がわかるからいいけど、そんな適当に進むなよ」


「これを見てくれ、階段だ」


「そんなことあるわけが……えええええ!?」


「なんだか、ある気がしたんだ、頭に浮かんできたんだ」


「それ、魔法なんじゃないか?」


 和哉がそう言うと、龍蔵はハッとした顔で集中し始めた。


「どうやら、俺の空間魔法は行ったことのない場所でも把握出来るようだ、俺たちのパーティにマップは要らないかもしれないぞ」


「なら隊列とかも変更だな、龍蔵が先頭になってくれ」


「了解した」


 まさかここに来て謎の覚醒を見せた龍蔵のおかげで時間が大幅に短縮された。


「龍蔵のおかげでまだまだ行けるぞ、気合い入れて2層に挑戦だ!」


「「「おう!!」」」

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