第6話 ぼっち飯の危機


昨日は入学式の後、ダンジョンに潜り第1層を攻略してご飯を食べて帰った。

 そして今日からは第2層の攻略と、授業の開始だ。今日から始まる授業のことを考えるととても憂鬱なのだが、学生なのだから仕方ないと割り切るしかない。

 

「春馬、昨日はダンジョンどうだったんだ?」


「んー、なんか思ったよりって感じだったかな」


「あんまり油断とかしないでよ?お父さんもこんな平静を装ってるけど、昨日はあんたから連絡が来るまでずっとリビングで携帯とにらめっこしてたんだから」


 あ、父さんがむせた。そりゃ、子供の前じゃカッコつけたいよな、俺も自分の子供が出来たらいい所見せたいから分かる。それでも父さんと母さんが心配してくれたってのが分かってなんだか嬉しかった。


「大丈夫だよ、ダンジョンの怖さを俺達は知ってるから」


「まあ、そうね……あの時は本当に心臓が止まるかと思ったわ」


「だから、大丈夫。もう父さんと母さんに心配をさせるようなことにはならないようにするから」


 あの時の、死にかけた時の2人の顔は今でも思い出せる。親不孝にならなくて良かったって今でも思う。


「ごちそうさま、学校行ってくる」


「行ってらっしゃい、夜ご飯は今日はいるの?」


「うん!今日はダンジョン行くけど、多分すぐ買えると思うから」


「分かった、気をつけるのよ」


「……気をつけてな」


「行ってきます!」


 俺は元気に家のドアを開け、学校へ向かった。


 ――――


 ガラガラ――1年Aクラスのドアを開け、まだ誰もいない教室で自分の席へ真っ直ぐに向かう。なんだか教室に一番乗りした時ってちょっと嬉しいよな。

 俺が日課のダンジョン情報を収集してから10分くらいだろうか、だんだんとクラスメイト達が登校してきた。


「じゃ、また後でね愛梨ちゃん」


「夏乃もまた後でね、今日の放課後もだからね」


「分かってるよ〜」


 藍沢さんの声が聞こえた、その瞬間に俺の脳はダンジョンモードから切り替わった。俺はどうかしてしまったのか、とりあえず気持ちを切り替えるために廊下に出て歩こう。


「はぁ……ん?なんだこれ」


 俺がドアから出ると廊下に何か落ちている。近づいて拾ってみるとそれは女物のハンカチだった。とりあえず職員室に届ければいいか。そう思った時に予鈴がなってしまった。ハンカチをポケットにしまい、急いで自分の席に戻る。まあハンカチなら1時間目が終わったあとの休みで大丈夫だろう。


「うぃ〜おはようお前ら、出席とるぞ」


 幹二先生が入ってきた瞬間に教室は静まった。


「まずは……青木」


「ひゃいっ!?」


「どうした、そんなにびっくりして」


「「「お前が人殺しのような目で見ながら名前を言うからだよ」」」


 クラスの気持ちは一致した。


「はあ、まあいいか、次――」


 少しだけ恥をかくことになったが、まあ絡みやすいやつとでもクラスの人に思ってもらえればいいだろう。今日から普通の授業がある、そこで発生する問題とはペアワークだ。俺はこのクラスに友達はいない、というかこの学校に和哉達以外に知り合いすらいない。つまり、ここでスタートダッシュを決めなければ俺はクラスでぼっち生活を送らなければいけなくなる。後で和哉達に笑われるのは勘弁だ、だから俺は友達を作るッ!!


「今日の1時間目の授業、俺が受け持つ数学なんだが……まずは授業に入る前に、レクリエーションのようなものをしようと思う」


 幹二先生……いやカンちゃん…………!!俺の心を読んだかのような嬉しいイベントをしてくれるじゃないか!


「くじ引きで決めたペアの人と今日は色々やってもらうことになる、1学期の俺の授業と学校のイベント系でのペアは今日のペアで組ませてもらうから、喧嘩するとめんどくさいぞ」


 なんてことだ……初動をミスったら終わってしまう、ダンジョンなんかより俺は友達作りの方が大変なのかもしれない。


「あと1つ、言い忘れていたが……男女混合でくじ引きするからな」


 ザワザワッ!?


 クラスの男子全員がこの言葉を聞いた瞬間に、オーラを放ち始めた。男女混合ということは男同士、男女、女同士の3通りのペアができるわけだが……このクラスには藍沢さんがいる。男子は藍沢さんとのペアになろうと必死に神に祈っている。俺もなれればいいなくらいには思っているが、そんなことよりもクラスで浮くことの方に恐怖を抱いている俺には気にする暇もなかった。


「じゃあ、授業が始まる前にこのクジを引いてペア作っといてくれ」


 そう言ってカンちゃんはクラスから去っていった。


 その瞬間男子達は我先にとクジを引きに行った。そして俺は少し考え事をして出遅れてしまったせいで引くタイミングが遅れてしまった。既に女子も半分ほど引き終えているところだった。


「やべ、早く俺も引かないと……」


 クジの箱から残り少ない紙を1枚取り出して、書いてあった番号は……


「えっと、15……」


 藍沢さんはどうやら15番だったようだ、クラスを見回しながら自分の相手を探している。

 番号が聞こえた男子達はみな揃って地面を叩いていた。外れたんだろうな……南無。

 さっさと自分の番号を確認しようと紙を開こうとした時にカンちゃんがやって来て、見る時間が無くなってしまった。


「よし、クジは全部なくなってるな、じゃあこの番号が書いてある席順に席替えしてくれ番号の同じ人が隣になるようにしてあるからな」


 そうか、まあ席替えしないといちいち移動するのは面倒くさいもんな。


「俺の番号は……っと、15か、…………15!?」


 反射で大きい声が出てしまった、そしてその声に反応するのは1人の女子と俺以外の男子。

 明らかに敵意の籠った視線が男子たちから注がれる。この席替えのせいで、俺の学校生活は友達ができるか怪しくなってしまった。


 ――――


 俺は今、緊張していた。横の席には藍沢さんが座っている。ちなみに席の場所としては、藍沢さんが所謂主人公席で、俺がヒロイン席だ。逆だろ。


「青木……くんでいいかな?机くっつけよっか」


「う、うん、これからよろしく」


「こちらこそ、よろしくね」


 藍沢さんが笑って返してくれた。その笑顔がかわいくて少しだけ惚けてしまったが、カンちゃんの言葉で現実に戻ってこれた。


「よし、みんな机はくっつけたみたいだな、まずはこれから10分間自己紹介として2人でなんか雑談してくれ。お互いのことをあまり知らないのにペアワークなんて出来ないしな」


 おいおい、マジかよ……女の子が楽しめるような会話スキルなんて俺にはないぞ?

 俺が1人で考えていると藍沢さんから話しかけてきた。


「青木くんってさ、私の記憶が間違えてなければ探索者のこととかって詳しい?」


「え、う、うん、そこそこ詳しい方だとは思うけど……」


「やっぱりそうなんだ!昨日の自己紹介の時に好きなものがダンジョンって言ってたから……私も結構くわしいのよ?」


「あー、たしか藍沢さんも自己紹介の時に言ってたもんね」


「そう!私、『頂の空』に憧れてて、青木くんは憧れてる探索者とかいるの?」


「俺は、やっぱり『IVStars』かな、最近も最年少でクラス6ダンジョンを攻略してるしかっこいいから」


「IVStarsもいいよね〜、私達と同じ歳でデビューしてたっていうのもいいよね!」


 藍沢さんとはそれから10分間ダンジョンの話しかしなかった。ちなみに藍沢さんの好きなチームの『頂の空』はパーティ全員が女子で構成されている。男性探索者はもちろん、女性探索者からの人気が凄いパーティだ。IVStarsの1つ上の2位に位置しており、強さも美しさも兼ね備えたパーティだ。


「よし、みんなそこそこ仲良くなったみたいだな?」


「なら次は――」


 そこからは普通に小テストをやり、実力をチェックするような時間だった。採点はペア同士で付けることになっていた。ちなみに俺は50点満点中45点だった。結構取れたと思っていたが、藍沢さんは満点だった……頭もいいのか。


「これで今日の俺の授業は終わりだ、みんなこの後の授業の準備を忘れずにな」


「「「はーい!」」」


 授業終わりのチャイムが鳴り、カンちゃんが教室から出ていき、休み時間になった。


「あ、ハンカチ……」


 俺は、忘れかけていた落し物のハンカチを届けに職員室に向かった。


 ――――


「すみませーん、落し物届けに来た――」


「失礼します!落し物届いてないですか!?」


 職員室に入った俺の後ろから焦ったような声が聞こえてきた。なんか、聞き覚えがあるような……。


「どうしたの木村さん、そんなに慌てて」


「落し物をしてしまって……あ、ごめんなさい後ろから割って入っちゃって……」


「いや、それは大丈夫ですけど」


「木村さんはちょっとまっててね、それで君は何の用かしら?」


「落し物を届けに来たんですけど……」


 そう言って制服のポケットからハンカチを取り出して、先生に見せると


「あっ!それ私のハンカチ!」


 木村さんと呼ばれた女の子が、そのハンカチを見て声を上げた。


「ありがとう!君が拾っててくれたんだね!今日家出た時は絶対あったから学校になかったらどうしようって思ってたんだ……」


 木村さんはすごいグイグイ来るタイプだった、よくよく見るとこの子もすごい美少女じゃないか。

 漫画の世界から出てきたのかっていう金髪に、髪型はツインテール、藍沢さんと比べると少しだけ幼く見えてしまう体型だが年相応とも見れる。


「とりあえず解決したようですね、あと少しで次の授業が始まってしまうので、2人ともまずは教室に戻りなさい」


「げっ、もうそんな時間か」


「失礼しました!」


 俺と木村さんは職員室から出てそれぞれの教室に向かう、その途中で


「えっと、君は名前なんて言うのかな?ネクタイの色からして同じ1年生だよね?」


 今気づいたが木村さんも1年生か、いきなりの事すぎて敬語を使っていた。


「俺は青木春馬、1年Aクラスだよ」


「1年Aクラスの青木くんね!後でお礼しに行くから!」


 そう残して木村さんは自分の教室の方に戻って行った。


 ――――


 その後の授業は特に何かが起こるわけでもなく、昼休みになった。ここで発生する問題は、どうにかぼっち飯を回避することだ。周りを見渡してみると、既に何組かは机をくっつけて弁当を開いている。スタートダッシュは失敗かっ!


「おーい、春馬!飯食おうぜ!」


 入口の方から大きい声が聞こえてきたのでそちらの方を見てみると


「和哉!望に龍蔵も、いいのか?」


「何がだ?」


「いや、クラスの友達と食べるとかしないのかなって」


「そんな友達まだいる訳ないだろ?」


 和哉は変なところで臆病だしな……。


「僕のクラスでももともと中学校が一緒とかそんな人達がご飯食べたりしてるしそんなものだよ」


「俺のデータにもそう出ている!今更遠慮する関係でもないだろう?俺たちは」


「お前ら……やっぱ持つべきものは友達だよな!よっしゃ、飯行こうぜ」


 仲間に熱い言葉を言われ気分よく昼ごはんを食べに行こうと席を立ち上が――


「ちょっと待って、青木くん」


 ることはできないみたいだった。







 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る