第2話 ヒーローの背中を追って


「春馬!起きなさい!今日こそダンジョンの登録に行くんでしょ!」


 母さんの起こす声で俺――青木春馬は目が覚めた。

『IVStars』に助けられた後、長い年月を経てダンジョンのに挑戦する資格を得た俺達は遂に、昨日ダンジョンへ赴いた。

 だがそこでは、残酷な真実があり……いや、ちょっとした諸事情で俺達は帰ってきた。

 真相を家族に話した俺達はそれぞれの家族に死ぬほど笑われた、俺も笑われすぎて昨日の夜ご飯が思い出せない。

 まあそんなこともあった、そして今日、リベンジする。

 昨日と同じ道を辿り、仲間たちと合流する。


「皆、聞いてくれ。俺は昨日帰ってから、悔しさのあまりトレーニングを30分別のことに費やしてしまった……」


「「「なっ!?」」」


 龍蔵の発言に俺含め3人が驚く。

 龍蔵はこれまでトレーニングをサボることは1日としてなかった。骨折しようが、40度を超える熱が出ようが、どれだけ辛くてもトレーニングを欠かさなかったし減らしもしなかった、そんな男が30分もトレーニングを休んだのは俺達にとっては驚愕以外の何者でもなかった。


「龍蔵、その30分は何をしていたんだ……?」


「調べ物だ、死に物狂いでダンジョン初心者がすることを調べていた。」


「そ、そういう事か……驚かせるなよ」


「いいから聞くんだ、登録仕立てのルーキー、俺達のような奴のことだが……登録初日でダンジョンに潜ることは禁止されているらしい」


「「「そ、そんな!?」」」


「更に今日、俺達がしなければいけないことは、『適性検査』というものと、『初心者講習』を受けなければ行けないらしい。」


「初心者講習……?ってなんだ?」


「詳しくは俺のデータにも無いが、これを受けた後1週間の訓練を受けて初めてダンジョンに潜れるそうだ」


「えっと、ていうことは僕達はあと少しで高校が始まっちゃうけど……始まる前にダンジョンには行けない!?」


「俺のデータはそう言っている」


「お前はデータデータうるせえよっ!……それでもだいぶ俺達の計画が崩れるな、どうする?春馬」


 和哉が俺に聞いたと同時に2人も俺の事を見てくる。

 俺達の立てた計画、それは……『新たな場所で探索者としてチヤホヤされよう作戦』だ。

 だが、スタートダッシュを決めれない限り、この作戦はもう頓挫したに等しい。中学校でのテストの成績30位の頭脳が高速回転する。


「とりあえず、登録しようか……」


 何1つ、いい案は思いつかなかった。


 ――――


「こちらの登録用紙に記入をお願いします」


 今日の受付のお姉さんは違う人だったが、やっぱり綺麗な人だった。周りをよく見てみると同じ服を来た綺麗なお姉さん、お姉さん、お姉さん、漢、お姉さんが見えた。

 不純物は多分偉い人だろ、きっとそうだ。


「春馬、なに青い顔してんだ、早く記入終わらせて、検査と講習受けに行こうぜ」


「え、あ、おう」


 和哉に正気に戻され、俺達は無事に登録を済ませた。

 登録時に受付の人に案内され場所に行って見ると、少し雰囲気の変わった場所に出た。


「ここは、病院……いや、ここが検査場か」


「適性検査って言ってたよね、僕は何を検査するか知らないんだけど、龍蔵君は知ってるの?」


「ああ、俺のデータによると、得意な魔法の属性を教えてくれるらしい」


「へー、でも属性がわかったところで、習得する魔導書がないだろ、初級すら使えないんじゃな」


 和哉、望、龍蔵の話を聞いていた俺は、ワクワクが止まらなかった。

 昔、この国にダンジョンというものは無かった。ダンジョンが発生した年は教科書にものっているし、義務教育をしっかりと受けていれば知らないはずは無い知識の1つになる。

 そしてダンジョンが発生したと同時にモンスターが世界各地に現れるようになった、その時から専門家や評論家のような人達が、異界がどーの、異世界の云々を討論していた。

 一般人の注目を引いたのは、魔法だった。

 魔法もダンジョンの発生と同時に才ある人達がどんどんと使用できるようになっていった。ダンジョンで魔導書という物もたまに手に入るため、それで覚える人も少なくない。

 何はともあれ、小学生から探索者を目指してきた俺達にとってはワクワクを止められないのだ。

 その証拠に、和哉も望も、龍蔵ですら少し目がキラキラしている。


「本日の適性検査を始めます、本日の受付で渡された番号を見て、列に並んでください」


受付で渡された番号を確認して、列に並ぶ。連番だから同じ列だろ、と思っていたのだが、1個ずつ横に並んでいくタイプで、話はできても結果は後で教え合う形になりそうだった。


「春馬、望、龍蔵、俺達は4人で1つだ、適性検査の結果の隠し事は無しだぜ」


 全員が頷き、とうとう俺達4人の番になった。


 俺達の冒険がここから始まる。


 ●●●


 検査場の人に呼ばれ、いよいよ俺――青木春馬は適性検査を受けることになった。


「えーと、まずはこちらの機械に入ってください」


 目の前には人1人が入るのが丁度よさそうな大きさの機械があった。


「この機械ですか?」


「はい、そちらの機械であなたの魔力の属性適性を測ります。魔力量も分かるので結構便利ですよ」


「これが……」


 俺は促されるまま機械の中に入った。


『大丈夫ですか?職員の声が聞こえたら頷いてください』


 機械の中に音が響いて、俺は頷いた。

 心の中はドキドキとワクワクで胸がいっぱいだった。憧れのあの人たちと同じ場所まで来れたんだと、嬉しさを噛み締める。


『それでは検査を初めていきます、楽にしててくださいね。すぐ終わりますから』


 すると、機械の上部から霧のようなものが出てきて、俺を包んだ。

 その霧に包まれた時、不思議と懐かしさのような、どこかホッとするような感覚を覚えた。


『はい、終わりました!出てきていただいて結構ですよ』


「なんだか、あっという間でした。」


「みんな、そう言うよ。やっぱり検査って言うと仰々しい物を思い浮かべちゃうからね」


「そうですよね……。そういえば、検査結果ってどういう感じに分かるんですか?」


「ああ、それはね、あっちにいる職員に名前を言えば結果の紙を貰えるよ」


「分かりました!ありがとうございます!」


「あとは何か分からないこととかあるかい?」


「えっと……じゃあ、結果の凄さ、というか評価?みたいな物ってどんな感じなんですか?」


「自分も検査してるんだし、気になるよね。一応探索者の能力評価はアルファベットで表されるのは知ってるよね?魔力量等もそんな感じでSが1番上で、Gが1番下になるね。それでもGの魔力量は虫とか小さい動物位で、人間なら低くてもEかDはあると思うからそんなに心配しなくてもいいと思うよ。」


「うっ、その話を聞いてくるとだんだん怖くなってきました……」


「あっはっは、それもまた探索者の楽しみだよ、少年。今回の検査で1番上と下の魔力量の評価だけ教えてあげよう。どれどれ……ん!?S評価が5人!?」


「えっと、それは凄いんですか?」


「凄いなんてもんじゃないよ!あのⅣStarsの子達だってA評価が3人、Sが1人なんだよ!?その時の検査じゃSはリーダーの子だけだったし」


「すっごい熱意!!急に元気なりすぎだよこの人!というかとりあえず、下も教えてください!」


「ああ、それも忘れて……ってええぇ!!??最低評価B!?おいおいとんでもないぞ今日の検査は!」


「Bって、どれくらい凄いんですか?」


「難しいんだけどね、大体平均がCなんだ。それでもIVStars以外の最前線のチームにはC評価だった人達も沢山いるから、結局は努力なんだけどね。けど、Bから始まるって言うのはその人達より先から始められるんだ。直線の徒競走でハンデがあるようなものだよ。」


 職員の人はどんどんテンションが上がっていき、抑えられないのか、微妙な例えを出してきた。


「まあ、それなら良かったです。これで安心して自分の結果を見れます。職員さんありがとうございました!」

 俺は検査結果を貰うため、職員さんに感謝をして、その場を離れた。


「素直な目をしてたな、今の子……案外あんな子達が大きくなるんだよな」


 ◆◆◆


 春馬達と別れ、検査を受けた後、結果を貰った俺――沖田和哉は未だに結果を見れないでいた。

 春馬達以外の友達と喋る時や、普段の生活でこんなに弱い所は出さないのだが、テストや部活の大会などのプレッシャーがかかる場面では和哉は弱かった。元々、メンタルが強い方では無かったのだが性格が明るいこともあり友達は多かったが、傷つくこともそれなりにあった。

 そして、今目の前にある検査結果、これは今まで憧れて来た道の第1歩を左右する大事な物だ。これで俺だけ才能なかったりしたらどうしよう等と考え、まさに検査から30分が経とうとしていた。

 他の3人は和哉をひたすら待っている、そろそろ迷子センターにまで行きそうな勢いだ。

 だが、和哉はそれに気づかない。気合を入れて、まずは時間を確認する。そこで気づく、既に30分も経っていることに。


「やっべ!アイツらめちゃくちゃ待ってるかもな……怖いけど、気合い入れて見るしかないか」


 恐る恐る、紙を上から見ていく


「才能がなくてもアイツらとは仲良くしていきたいな」


 検査結果

 名前 沖田和哉

 魔力量 A

 魔力属性 闇・光


 沖田和哉は、メンタルが弱い。それでもここまで頑張ってきた結果と、仲間達との強い想いがここに実を結んだ。


「よっしゃ!」


 和哉は小さくガッツポーズをして、仲間達と決めた集合場所に歩いていく。


 ■■■


 検査結果を確認して、集合場所に着いたのはいいんだけど、まだ誰も来てないんだよね……もしかして僕――琥珀望が場所を間違えた!?


「あれ、坊やどうしたの?」


「えっと、友達が来なくて……えへへ」


「そうなのね、お姉さんと一緒に待ってようか?」


「だ、大丈夫ですよ、僕これでも15歳なので」


 僕はだいぶ可愛い見た目をしている。

 自分ははコンプレックスに感じているのだが、学校の女子や街を歩いているお姉さん達はそうはいかない。

 学校ではおはようと共に頭を撫でられたりするし、街に買い物に行くと知らないお姉さんが何故か買い物を手伝ってくれる。僕は別におっちょこちょいだったり抜けているところがないのだけど、童顔と身長の低さも相まって少し幼く見られてしまう。

 なので、どこへ行ってもマスコット扱いされてしまう。探索者になって男らしい評価を得たいと思っているのは望の小さな秘密だ。


「はぁ……やっぱり最初はこんな扱いされちゃうよね」


 ちなみにこの扱いを受けていることを3人に愚痴ると、自慢か?と言われる。あの3人はこんな扱いを受けたことがないから分からないんだ!


「はあ、春馬君達早く来ないかなあ」


 この男、春馬が来るまでに5人の女の子に声をかけられた。


 検査結果

 名前 琥珀望

 魔力量 S

 魔力属性 水・風


 ▲▲▲


 俺――朝倉龍蔵は自分の検査結果に恐怖していた。

 和哉のようなビビりでは無いので、結果はしっかりと見ていたが、それならば何故恐怖しているかという疑問になる。

 龍蔵は自分に凄い才能があるとは思ったことが1度もなかった。周りに少し変わったヤツだと言われ、それでも嫌われるような事はなかったから良かったが、少しだけ気にしていた。何か誇れるような特技が1つでもあったらと思い、最近はキャラ作りに勤しんでいた。その一環がデータキャラである。

 しかし、そのデータキャラが意外にも馴染んでしまい、自分でもしっくり来てしまっている。だからこそ、自分の検査結果を見て思った事は、想像以上に自分に才能があったということ。

 つまり、龍蔵は自分の強さに恐怖していた。


「俺は……こんなにも、強かったのか……ふふふ」


「なんか、1人で笑ってる人いるぞ」

「おい、近づくな!襲われるかもしれん」

「何あの人、怖っ」


「ふふふ、データには無い力が、溢れてくるようだ」


 検査結果

 名前 朝倉龍蔵

 魔力量 S

 魔力属性 空間


 ――――


「あっ、やっと和哉君が来たよ!」


「おせーぞ、何してたんだよ」


「わり、ちょっと腹痛くなっちまってよ。そんなことより、結果……どうだったんだよ?」


 望の目線の先から、和哉が走ってきた。

 どうせいつものメンタルクソ雑魚タイムだったのだろうと思い、いつもと同じテンションで会話をする。和哉も適当なごまかしをして、本題に入った。

 検査結果だ、俺も自分のは確認してはいるけど、テストの点数を言い合う時みたいな高揚感がどこか漂っている。


「じゃあさ、皆で1人ずつ見ていこうよ、それならもっと面白いでしょ」


 望がニヤっとしながら言う。


「相変わらず、そのメンタルは見習いたいな、俺のデータには無いからな」


「それもうデータじゃなくて、お前自身の話だろ」


 そんな、緩い会話をしながら、近くのマックで結果を見せあった。


 検査結果

 名前 青木春馬

 魔力量 A

 魔力属性 火・土・星


 

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