音楽専門チャンネル

こぼねサワァ

第1話(完結)

 あたしの住んでるアパートの隣、お寺なんだけどね。

 住職さんは、法事の時にしかこないから、夜は誰もいないの。


 それなのに、この間、一晩中お寺の庭から若い女の人の声が響いてきて。

 なにを言ってるかは分からないけど「ぼそぼそぼそ……」って。

 ささやく声がずーっと明け方まで聞こえてたのよ。


 気味悪いでしょ?


 わたしの部屋、2階の角部屋で、ちょうどお寺の塀の上の真横に位置してるから。

 余計にピンポイントで声が響いたのよね。

 おそるおそる窓からのぞいてみたけど、お寺の庭には誰もいなかったわ。


 ゾッとするでしょ、ね?


 でね、わたし、次の朝早くに、思い切ってお寺の庭に行ってみたのよ。

 そしたらね、お寺の庭に、ラジオが1台、置っこちてたのよ。


 そういえばね、前の日にお寺の庭の木の剪定の業者さんが来てたの。

 きっと、その業者さんが作業中にラジオを聞いてて、そのまま置き忘れてっちゃったんだと思うわ。


 それで、スイッチも入れっぱなしだったから、一晩中ラジオの放送が流れっぱなしになって、明け方近くに電池が切れて自然と音も消えたのね。

 そうに違いないわ。


 試しに新しい電池を入れ替えてみたら、ちゃんと間違いなく放送中の音楽が流れてきたもの。

 あたしもお気に入りのラジオ局だから、よく知ってるの。

 24時間ずっとニギヤカな音楽を流してくれるから、作業用のBGMにピッタリなのよ。


 そのラジオ? めんどくさいからお寺の軒下に置いといたわ。

 学校から戻ってきて見たら、なくなってたから、業者さんが忘れ物に気付いて取りに来たんじゃないかしら。


 ホーント、拍子抜けしちゃった。

 なんたって、人間の思い込みほど怖いものはないわよね。




 おわり

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