第51話、城、強敵
曲がり角からおびえた目をした人々が走ってきた。その角の奥に何かいるような気がした。
「強敵かい。いやだねぇ」
ソ・キ・ハナは傷だらけの頭をひとなでし、突撃棒片手に逃げる人々に逆らい歩いた。角を曲がる。
左手に手斧、右手に拳銃を持った男がいた。迎え撃つように立っている。
棒を持った男がゆっくりと歩いてきた。頭に無数の傷がある。
ずいぶん殺しやがったな。そう思いながら、ソ・キ・ハナは近づいた。
ただの棒じゃない。槍でもないな。あれは、突撃棒か、特殊武装隊の装備だったはずだが。テケン・ホ・メリ・ホは拳銃の重さを確かめた。残り五発。テケン・ホ・メリ・ホは慎重に狙いをつけた。
ふう、一つ呼吸し、ソ・キ・ハナは走った。体が重い。
テケン・ホ・メリ・ホは拳銃の引き金を絞った。二発、二発とも外れた。いや、避けたのか。こちらを見て、引き金を絞るタイミングを計って避けた。なぜそんなことが出来るんだ。距離が縮まる。
もうすぐ、俺の距離だ。ソ・キ・ハナは突撃棒を握りしめた。
後ろに下がれば、一撃目を避けられても、二撃三撃と連続で打ち込まれれば避けられなくなる。テケン・ホ・メリ・ホは踏み込んだ。
前に! ソ・キ・ハナの突きはタイミングを外された。
テケン・ホ・メリ・ホはソ・キ・ハナの突きを斧でいなし、すれ違った。再び向かい合う形になる。
銃を持っている相手に、間をあけてはいけない。踏み込み突きを放つ。
ソ・キ・ハナの突きをテケン・ホ・メリ・ホは斧で落とす。飛び込み、伸びてくる軌道の読みにくい突きを、体をひねり斧で払う、執拗に突いてくる。シャツが裂け、肉が削られる。これでは、銃を、ねらいを定められない。ああ、それから、シャツはあきらめるしかないな。
ソ・キ・ハナの突きが徐々に遅くなっていく。息が苦しい、足が震え、意識が点滅する。疲れたぜ。
ソ・キ・ハナの動きを見ながら、なぜ、先ほど、拳銃で撃ったとき、当たらなかったのだろうか。テケン・ホ・メリ・ホは考えていた。慎重に狙いをつけて、撃ったはずだ。動いているものを撃つ訓練は何度もしたし、生きて動く人間も撃った事がある。よけられるものではない。男を見た。頭に無数の傷、視線がなぜか一カ所に行くことに気がついた。頭だ。あの男の傷だらけの頭をどうしても見てしまう。頭を狙ったからか、頭を撃ってくるとわかれば、避けられるかもしれない。テケン・ホ・メリ・ホは背後に飛び、距離を取った。拳銃を構えた。だが、視線は下に、ソ・キ・ハナの足元を見た。こうすれば、頭を見ずに済む、腹に打ち込めば避けられないだろう。テケン・ホ・メリ・ホは指に力を入れた。
距離を取られた。追いかけようとしたが足が動かない。ソ・キ・ハナの足は止まった。一体何人の警備兵と戦ったことか。手になじみきったはずの突撃棒がやけに重い。足が震える。頭も痛い。もう疲れた。おまけに、こいつは強敵だ。ソ・キ・ハナは突撃棒を左手に持ち替え、右手を懐に入れ、警備兵から奪い取った拳銃でテケン・ホ・メリ・ホを撃った。なぜか下を向いていたらしく、こちらの動きに全く気づかずテケン・ホ・メリ・ホは胸を撃たれて死んだ。
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