第28話、記者、検事

 記者

 

 ヨン・ピキナは、来年建設される工場の取材をおこなっていた。港近くの工場特区に、車の部品工場が建てられる。外国の企業が建てるそうだ。この部品工場がうまくいけば、次は車を一式組み立てて、それを出荷することもできるようになると、工場の広報が言っていた。

 裁判所の帰りにあったとツム・ホレンの話によると、メイドがバラバラになって兄の元に返ってきた前夜、城では、外国の会社の社員を招いての晩餐会が開かれていたらしい。王も出席していたそうだ。調べてみると、その社員が、部品工場建設の責任者であったようだ。あの二人の話は事実だった。その外国から来た責任者に話を聞きたかったのだが、契約をすませるとすぐに自国へ帰ったそうだ。あわてた様子だったそうだが、なにかあったのだろうか。

 その晩餐会に例のメイドが、いたのだろう。そこで鶏肉を落とした。鶏肉を落としたぐらいで、メイドを殺すなんて、そんなことをするだろうか。


 検事

 

 検事のニコ・テ・パパコが、朝目を覚ますと、横で寝ているはずの妻がいなかった。

「おはよう」と、台所にいる妻に声をかけた。

「どうしたんだ! その顔」

 振り返ったニコ・テ・パパコの妻の鼻には青黒いアザがあり、鼻の穴にはティッシュが詰められていた。

「誰にやられた!」

 ひょっとしたら、王の脅迫か! ニコ・テ・パパコは辺りを見渡した。

「あなたよ」

 妻はいった。

「えっ」

 何を言っているんだ。

「あなた寝てるときに急に、暴れ出したのよ。手を上にあげて、めちゃくちゃにふり出したの、それから足をばたつかせたの。それで、あなたの手が私の鼻に当たったのよ」

 妻は心配そうな顔で、ニコ・テ・パパコを見つめた。手を上にあげ、そうか、思い出した。夢の中で私は、オープンカーの座席に立ち民衆に手を振っていた。人々は飛び上がり、私の足に触ろうとした。それを振り払おうと、何度も飛び上がった。

「そ、そうなのか、すまない。怪我は、あるな。大丈夫なのか?」

「ええ、それより、あなたの方こそ大丈夫なの、お仕事大変なんでしょ」

 妻が心配そうな顔をした。鼻が腫れているため少し滑稽だ。

「ああ、しかし大丈夫だ」

「そう、あなた、寝ぼけているとき、まるで水の中で溺れているみたいだったわ」   

「溺れてって」

 よりによってそんな勘違いをするとは、絶好調だというのに、ニコ・テ・パパコは苦笑した。

「心配だわ。あなた夢中になると周りが見えなくなる人だから」


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