第18話、会合、検事、記者

 会合


「逆訴訟か、城は法的に対処するということなのか」

 老人がつぶやいた。薄暗い部屋だ。老人のほかに三人の若い男がいた。

「それは、まだわかりませんね。城の連中もいろいろ動いてるみたいです」

 出版社のホー・トトンと名乗っていた男が言った。

「例の自殺した男の件か。そいつに罪をなすりつける気か」

 老人は不快な表情を浮かべた。

「その件に関しては、刑事が捜査しているみたいですよ」

 ツム・ホレンと名乗った印刷所の男が言った。

「どんな男だ」

「割と骨のある男みたいです。フウ・グの自殺に疑問を持っているようです。あと、末端ですが王族の一員みたいです」

「そのまま捜査を続ければ、おそらく裁判に関わってくることになるだろうな。検事はどんなやつなんだ。告訴人側の検事、ニコ・テ・パパコだったかな」

「ちょっと変わったやつみたいですね。優秀だそうですが。しかし、告訴人には若干振り回されているようです」

「告訴人のカカ・カはなぜ王を訴えたのだ。何か、政治的な目的があるのか」

「いえ、それはないようです。ですか、正直言って何を考えているのか、よくわかりませんね。身重の妻と病気の父親がいます。やけっぱちになっているのか、単純に正義を求めているのか。おそらく、城側も困惑しているのではないでしょうか」

「王のお膝元だ。ひょっとしたらひょっとするぞ」

 老人はうれしそうに笑った。

「暴動、ですか」

「そういやな顔をするな。あそこは首都だ。軍隊も、うかつには手をだせん。それに一人見込みのありそうなやつもいる。プフ・ケケン、いや、今はペーと名乗っているのだったな。引き続きカカ・カの監視を頼む。城の連中に殺させるな」

「了解、船長」

 ホームレスのペーと名乗る男が言った。

「そろそろ、新聞も報道を始める頃だ。その前に話をばらまくんだ。火種を絶やすな」

「了解」


 検事


 検事のニコ・テ・パパコは、許可が下りたので城に行くことにした。

 城が見えた。学生の頃一度城に来たことがある。その頃を思い出し、少し懐かしい気分になった。

 五代前の王がこの城を建てた。当時長雨の影響で、水害が発生していた。王の住居も例外ではなく、浸水の被害に遭っていた。そこで王は考えた。高いところに住もう。そうすれば水害に遭うことはない。と、山を切り開き作られたのが、この城、ドブゾドンゾ城だ。城の見張り台からは、この国のすべてを見渡すことができる。この国のすべての国民を見守り、慈愛の目を向ける。五代前の王は、この国の礎を作った人物と王政君親書にたたえられているが、水害の上に労働に狩り出され、大勢の人間が亡くなったそうだ。


 城の執事に案内され、ニコ・テ・パパコは城の中に入った。この城のどこかに王がいると思うと、ニコ・テ・パパコの目には、なにやらすべてに意味があるような気がした。

 執事に案内され、殺されたカカ・ミと顔見知りだったメイドを紹介してもらった。つい最近まで、カカ・ミが殺されたと言うことを知らなかったそうだ。なぜ知らなかったのか問うたところ、彼女たちメイドは、ほとんど城の外に出ないらしい。保安上の理由と、城の中の方が快適だからだそうだ。

 いろいろ聞いたが、彼女たちの言葉に、特に矛盾点がなかった。ただ、ニコ・テ・パパコの耳には、何度も練習したような、コーラスを聴いたように聞こえた。 

 その中で、おもしろい話を聞いた。城の中で自殺したパン職人がいるそうだ。しかも、そいつの部屋の中から、血のついた包丁が発見されたという。自殺したパン職人の事件を追いかけている刑事がいるそうだ。その刑事の名前を聞き出し、後で連絡することに決めた。



 記者


「取材の方はどうなっている」

 編集長がヨン・ピキナを呼んだ。例の裁判のことだ。

「ええ、取材は進んでます」

 ヨン・ピキナは眉をひそめた。ああ、また嘘を書かなくてはいけない。そんな気がしたからだ。

「そろそろ、大報新聞が記事を載せるという噂がある」

 大報新聞は、王族資本が一番大きく注入されている新聞社だ。おかしな話だが、この国には新聞世論というものが存在する。大報新聞はその新聞世論の基準になっている。

「わかりました。いくつか用意しておきます。情報があれば教えてください」

 情報とは、大報新聞のゲラ刷り前の原稿のことだ。つまり、新聞社同士歩調を合わせ同じ内容の記事を少し角度を変えて、各社横並びの報道を行うという、慣習がある。

「そうか」

 編集長は下を向いた。


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