第16話、第二回裁判

 第二回裁判


 またややこしいことになった。二回目の、王に対する死亡給付金請求の裁判である。裁判官、検事、告訴人三者とも前回と同じメンバーだ。

 真ん中にフン・ペグル、左にヌコタ・リ、右にコト・ト・ピキョ、まだ若いヌコタ・リは、なにやらそわそわして、完全に浮き足立っている。右の老齢の裁判官コト・ト・ピキョは、耳に補聴器、目にはぶ厚い眼鏡、風邪でもひいたのか口にマスクをしている。  

 フン・ペグルは被告人席を見た。そこには、この裁判の被告人、つまりこの国の王が座っているはずなのだが、別の男が来ていた。第一検事局長トリケ・トレスだ。第一検事局長といえば、王の叔父に当たる人物である。そんな人物がなぜこんなところにいるのかというと、彼は王の代理人としてきたのだ。二度目の告訴状に答えたのである。またややこしいことになってしまった。フン・ペグルはため息をついた。

 

 傍聴席

   

 傍聴席は前回より人が増えていた。ヨン・ピキナの同業者である新聞記者も増え、噂を聞きつけた一般人もいた。何人か、目つきの鋭い人物がいた。ひょっとしたら、城の関係者が、監視に来たのではないかと、ヨン・ピキナは内心びくついた。

 

 検察

   

 ニコ・テ・パパコは、資料の確認をしていた。横には、依頼人のカカ・カが座っている。やはり被告人席に王はいない。その代わりに代理人の第一検事局長が座っていた。

 この国のメディアは腰抜けだ。何一つ真実を語ろうとはしない。だからこそ、人づての話というものが大切になる。よきにしろ悪きにしろ、人づての話には、人を動かす力がある。ニコ・テ・パパコは、金を使って、裁判のことを広めた。検事として、その手の裏家業の人間に少し伝があった。王を訴えた男が居る。王を訴えた男を支える敏腕検事が居ると、情報を広めた。

 それは圧力となって、首都ゾドンから北東の丘の上にある城に伝わり、揺れ動いているに違いない。その成果がこれだ。第一検事局長トリケ・トレス、王に近い人物を見事裁判に引きずり出すことに成功したのだ。それだけ私が、脅威だということだろう。ニコ・テ・パパコは、自分の価値の高まりを感じていた。


「では、開廷いたします」

 フン・ペグルは言った。第二回死亡給付金請求の法廷は始まった。

「裁判長」

 低い落ち着いた声で、王の代理人である第一検事局長が声を出した。

「なんですか」

「私は被告の代理人として、被告というのも妙な話ですが、代理人として、本件、死亡給付金請求の訴訟そのものの是非を問うため、本件そのものに対して、訴訟を行いたいと思います」

 第一検事局長は、書類を裁判長の下へ提出した。逆訴訟である。

 この国の裁判制度には、弁護士はいない。基本的に訴えられた側が不利になる。そこで考え出されたのが、逆訴訟だ。これは、訴訟人の訴訟に対して、被告人が訴訟自体の正当性を問い訴える制度である。訴訟側の検事と逆訴訟側の検事が裁判で訴訟内容を争う。つまり弁護士と弁護士が争う民事裁判のようなものである。

 この方法は誰にもできるというものではない。訴訟ができるのは検事だけだ。検事を味方にするだけの金と権力がなければ、成立しない。金も権力もない一般市民には通常このようなことは行えない。金持ちか、王族同士の争いに逆訴訟は使われる。今回カカ・カが訴えているのは王だ。逆訴訟を行える権力は当然ある。


 記者


 ヨン・ピキナは驚いた。

 てっきり王は、このまま裁判を無視すると考えていたのだが、真っ向から受けて立つとは思わなかった。しかも出てきたのは、第一検事局長だ。逆訴訟自体はそれほど珍しいものではない。王族同士の争いや金持ち同士の争いの取材で何度か見たことがある。その逆訴訟を第一検事局長が行うとは、思わなかった。王のかなり近い王族だったはずだ。それが出てくると言うことは、この裁判に王はかなりの力を注いでいると言うことになる。メイドが一人死に、その兄が起こした死亡給付金請求の裁判でこんな大物が出てくるとは、なぜそこまで力を使うのか。知りたい。書いてみたい。嘘偽りなく自分の感じたまま、この裁判の行方を書いてみたい。ヨン・ピキナはそうおもったが、実際記事に書くとしたらこんな感じになる。

『頼もしき王の守護神ともいえる第一検事局長は、逆訴訟という正義の大鉈をふるい、給付金請求という理不尽な要求を切り裂いた。告訴人の金欲にまみれた男は、ぶるぶると震え、その威厳に膝をくっせんとばかり、わなないた。』という感じになる。

 

 裁判官 


「休廷します」

 裁判長のフン・ペグルは、力なくいった。

 その後、協議の結果、一週間後に死亡給付金請求訴訟とそれに対する逆訴訟の裁判が行われることになった。

 




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