第四章 第二節
≫ホテル 04:34:16
海の向こうの地平線が、ちょうど明るくなり始める頃、目が覚めた。
初めは、自分が覚醒したことにも気づかなかった。
それどころか、自分がいつ眠ったのかも、わからなかった。
いつも以上にぼんやりと靄のかかる頭をかき回し、体を起こして辺りを見渡す。
自分が宿泊している部屋だ。しかし、何かが欠落している。
ひょっとしたら、自分はまだ起きていないのかもしれない。
そう思い、しかし違和感を覚える。
昨日の、あの夢は。
いつものように、夢を見ていた。その記憶はある。
しかし、詳細な内容を思い出せなかった。夢を見たのかも曖昧である。
布団から出て、リビングに向かい、夢の中の肉体感覚のままコーヒーを淹れる。
コーヒーメーカーから沸き立つ匂いに、ふと、その違和感の正体に気付いた。
「――を――あの子を見ていない……?」
寝起きの視界に映るあの少女が、今日はいない。
体が疲労しきっているわけでも無く、吐き気もない。
「おはよう少尉、早起きだね」
と、声を掛けられて振り向くと、そこにまだ目覚めきっていない声の少佐が立っていた。
その割に、自室でシャワーを浴びてきたのだろうか。非人間的な銀髪は湯気を立てて艶やかに光っている。
「おはようございます。眠そうですね」
「ほんらいは、この時間に起きるつもりはなかったからね。仕事は夜から――ふあぁ」
「コーヒー、飲みますか?」
「うーん……うん、そうだね、もらうよ」
昨日の睡眠薬がまだ抜けきっていないのだろうか、やけにふわふわとした呂律で応えた。
「どうぞ」
「ありがとう」
とは言え、きっと銃を構えて殺意を向ければすぐにいつもの少佐に戻るだろう。
しかし、両手でマグカップを持ち、下着にワイシャツ姿の少佐は、あまり見ることができない貴重な少佐。
少尉はぼんやりと、そのままの少佐を眺めることにした。
「ふぅ……はぁ……随分、いつになく不思議な顔をしているね」
「そうですか?」
「ああ。まるで――なんだろう――何と言うか、こう、久しぶりに目覚ましより早く起きたような顔だ」
勘はいつも通り鋭いのに、その例えは纏った雰囲気のままだった。
「そう、ですね。少佐の言う通りかもしれません」
「ふふふ、だろう?」
少佐は若い少女のように朗らかに笑う。両手に持ったコップから漂う湯気を吹いて遊んでいる。
「……それで、この後は?」
「わたしは、もうひと眠りするよ。君もそうするといい」
「……はい、そうします」
≫仮作戦管制室 18:29:00
指令は大型のハイエースの車内で、大きく深呼吸をした。
作戦管制室として改造を施した車内は身動きが取りづらく息苦しい。
でも、胸にかかる重圧はその狭さから来るものではなかった。
そんな指令を、作戦指揮補助に着いた若い男性オペレーターが緊張の眼差しで見つめていた。彼自身、ここまでの大仕事を任されるのは初めてだ。キーボードに置いた手が震えている。
そして、指令は全体通信用のマイクスイッチに指を懸けた。まるで、核発射ボタンに触れているような気分だ。
手に持った懐中時計を見る。残り二十秒。
ゆっくりと目を閉じ、それからチチチと懐中時計が鳴らす機構音に耳を澄まし、その合間を縫って流れる秒針のリズムを感じ取る。
目を開いた時、指の震えは止まっていた。
「通信チェック――」
ボタンを押し、声を出す。その傍ら、隣に座る若い男に目を落とした。
彼は、ゆっくりと頷いた。
「各自問題ないな。諸君、まずはこの人類未曽有の危機に集まってくれたことに感謝する。これが最後の作戦だ。この作戦の失敗は、人類に防ぎようのない脅威を生み出すことになる」
『――作戦を確認する』
『――まず、二〇〇〇にテロリストによる襲撃が発生する』
少尉と少佐の二人は、ホテルの自分の寝室で指令の声を聴いていた。
『――テロリスト襲撃の対象には、対象αも含まれている。しかし対象αには昨晩時点で護衛に二名の作戦要員が潜入している。二人には、襲撃が発生した段階でαを保護してもらう。以下三名を〈パッケージ〉と呼称する』
少尉はイギリス製のダブルのスーツに防弾プレートを挿入しながら通信を聞く。ジャケットの裏地にはケブラー(※防弾繊維)が縫い付けられている。
『――警備隊に潜入したチームには、極力テロリストとの戦闘を避けつつ〈パッケージ〉を回収、秘密裏に持ち出してもらいたい』
次に用意した発煙手榴弾をヴェクターの入ったアタッシュケースに仕舞い、丸眼鏡をかける。
起動すると、ムムから通信チェックが入り、レンズに拡張情報が表示された。
『――しかし、作戦通りに行く可能性はないと断言していいだろう』
同じ頃、少佐も準備を進めていた。
少佐が纏っているのは体のラインを強調するワンピースのようなドレス。艶のある黒一色でもちろん素材はケブラーメイン。首から手首までしっかりと覆っている。腰には真紅のリボンが巻かれて、長い髪は高い位置で一つに束ねている。
『――彼らは最新兵器に身を包んでいる可能性が高い。繰り返しになるが、真正面からの戦闘はできる限り避けてくれ』
そして、袖の先端に付けられた指輪を中指にはめると、手の甲全体をドレスの袖が覆った。その手で、机の上に置かれた幾何学的陳腐な小型銃を愛おしそうに撫でる。
『――私兵は、恐らくはテロリストに紛れ込む可能性が高いと思われる。テロリストの予想侵入ルートは三つ』
同じ頃、ザムザはホテル前の海沿い、転落防止用の柵に体重を預けながら通信を聞いていた。辺りには自分と同じ完全装備状態の警備隊員が行き交い、輸送車も何台か停車している。
『――まず、上階からの会場へラペリング突入。次にホテル正面からの突入。最後に、各部屋らから出現する可能性。そして――』
拳銃をスライドして、飛び出した弾丸をキャッチしては再装填を繰り返していた。
『――それら全てが同時に起こる可能性』
そんな手慰みをしていると、パンサーが隣に来る。彼は何も言わずに、柵にもたれ掛かる。
『――テロリストだけなら、君たちも苦労はしないだろう。だが、αの私兵は強力で、連携も取れる』
気づけば、同じ分隊になった名前も知らぬ組織のメンバーも近くに立っていた。
『――何よりも、各分隊の柔軟性と分隊間の連携が重要だ。こちらも最大限のサポートをする』
誰も、何も言わない。ただ皆が目を合わせ、頷いた。
『――この作戦の成功は、あくまで最低条件だ。皆の決死の覚悟を期待する。通信終了――』
************************
部屋を出た二人は、エレベーターに乗るまで無言だった。
だからと言って、二人の間に緊張化が漂うこともなく。 二人はいつものまま、エレベーターに乗り込んだ。
「……結局、あの後は寝れたのかい」
「いいえ。眠れなかったので、本を読んでいました」
「へぇ、どんな?」
「オスカー・ワイルドの短編集です」
「……私が貸したやつかい? ずいぶん古典だね」
「ええ、古典です」
それから少し、沈黙が続いた。
「……そうだ。ジョナサン?」
少佐がジョナサンに呼びかけると、耳に着けたイヤリングから返って来る。
『――はい』
「念の為、ヘリの準備をしておいてくれないかな」
『――――かしこまりました。いつでも出動できるようにしておきます』
「ノイズが多いね。ムム、通信状況はどうだい?」
『――――そレが、さッキから妙ナ反応ガアる。下に行クにつレテ霧みたイナのに――』
「ムム――ムム?」
二人は顔を見合わせた。
「やはり、一筋縄ではいかなさそうですね」
「トラブルは付き物か。やれやれだね」
同じタイミングで、エレベーターが目的地の三階に到着したことをベルが知らせた。ゴウン、とエレベーターの停止する音が重く圧し掛かる。
扉が開くと奥のホールに人だかりができているのが確認できた。その中心にいるのはボートだ。すでに何人かの警備隊員が展開している。
「昨日いた護衛も、東南アジアで少佐が録画した兵士もいません」
即座に、少尉のかけた眼鏡が映った人物をスキャンする。
「だろうね。この程度は想定の範囲内だ」
「準備中、ってところですかね」
ゆったりとボートの元に向かいながら、奥歯の通信機で会話をする。
「テロリストの襲撃はバレているかもしれないね」
「その想定で動いた方がいいかもしれません。パンサー? 指令――やはり繋がりません」
「合流場所は予め決めてある。問題は、無事にたどり着けるかだね」
少佐が警備隊員に目配せをすると、幾人かは通信機が使えないことをこっそりと示した。
「この会場周辺にEA(※電子攻撃)が仕掛けられているようだね」
「ええ、たった今ムムに貰った眼鏡が使えなくなりました」
オフラインと表示されたレンズに、接近に気付いたボートが視線を向けてきた。
「やあお二人とも、いい夜だね」
「こんばんは。今日はよろしくお願いします」
「私としては何も起きてほしくないがね……君とは初めてだね? 眼鏡をかけていたのか」
「……ええ、よろしくお願いします」
「はっはっは、あそこは暗かったからね、君の顔はよく見えなかったんだ」
言いながら、ボートは右手を差し出した。
ケースを持ち換えてその手を握ると、少尉はその掌の固い感覚を感じ取る。
間違いなく、銃を握ったことのある手だった。
************************
「――レグルス! オルニット! 駄目だ、通じない」
狭い作戦管制車の中で、指令は通信用ヘッドセットに話しかけていた。
「どうだ?」
「駄目です。あの会場一帯に霧がかかったみたいになっていて――」
「そっちは?」
『――駄目です! こっちもホテル内と通信が取れません』
返答するザムザの声にも焦りが見えていた。
「会場そのものが孤立したということか。現場の判断は?」
『――警備隊長は判断を迷っています。内部の警備を増やすかどうか。どちらにしても会場内部には関係者以外入れませんし、身動きも取りづらくなっています』
「身動きが取れない? どういう――」
『――よくわかりませんが、報道関係やらなんやらで、この辺り人が増えてるんです。その対応までこっちに回ってきたみたいで……』
それを聞いた指令の頬に冷や汗が一筋流れる。
「何を考えているビールクト・ボート……おい、どれでもいいからテレビを映せ」
「は、はい」
オペレーターがキーボードを操作して、端に配置されてモニターに地元テレビ局を映す。
『……今夜、このホテルの三階会場で重大な会議が開かれ、何か大きな発表が行われるということで、周辺にはたくさんのメディアが集中しています。現在は誰が会議に参加しているのか、何が発表されるのかも謎に包まれていますが、情報によると世界に大きな革新を与えるとして――』
映像を見た指令は激しく困惑した。
「な、何なんだこれは……」
作戦前とは違う意味で指が震えた。
何から何まで、情報があやふやなまま世界が踊らされている光景を目の当たりにして、思考が追いつかないのだ。
「今朝からSNSを中心にこの話題が盛り上がり、あらゆる情報が実しやかに錯綜して盛り上がったようです」
「情報の出どころは?」
「それが……ないんです」
「ない? わからないのではなく?」
「はい。今朝一斉に、世界中のあらゆるアカウントや情報サイトで発信されたようでして」
「情報戦略か……しかし何の意味が? いや、奴のどこにそれだけの戦力が?」
指令は腕を組んでしきりに人差し指で肘を叩いて思考する。
「ザムザ、ひとまず君たちの隊はいつでも動けるようにしておいてくれ」
『――わかってるさ』
「合流ポイントに変更はない。第二、第三のポイントへの移行も作戦通りに」
『――了解』
「それから隊長にホテル内に入れるよう申し出てくれ」
『――難しいと思うが了解だ』
「どちらにせよ、ホテル内にいる組織の隊がうまくサポートしてくれるはずだ」
『――今はどっちにしても、レグルスたちの成功を祈るしかないってことだな』
「ああ、まずは第一段階の成功を祈るしかない」
『――了解』
そして、ザムザとの通信を終えたタイミングで、少女の声が通信に割り込む。
『――オ、繋がっタナ』
「うわっ! なんだっ! いつの間に⁉」
オペレーターが慌てて周辺機器を確認すると、ニュースを映していたモニターに『無霧』と表示されていた。
「君は、誰だね」
『――時間ガ無いノデ手短ニ、私は少佐――レグルス達の協力者ダ』
「なるほど君が、それで要件は何だ」
『――状況はどノクらい理解しテイる?』
「……君ほどでないことは確かだ」
「指令‼」
堪えていたオペレーターが声を出す。
「部外者ですよ⁉」
「彼女には心当たりがある。君の腕をバレずに突破し
た点を見ても、恐らくは東南アジアで秘密裏に回線を秘匿していた人物だろう」
『――ゴ明察』
「――クッ」
『――続けテいイカな』
「頼む」
指令がそう言うと、メインモニターにパッと緑の線で描かれたホテルの3Dモデルが表示される。
そして三階の部分が拡大された。
『――現状、通信が阻害さレテいルのは三階だケだ』
「それはわかってます。問題は原因が――」
『――原因ハわカッてル』
「な、なんだって?」
オペレーターはあからさまに困惑していた。
拡大した三階部分に黄色の光の粒がスプレーを吹きかけたように散らばる。
『――原因はこレダ』
「これは……まさかマイクロドローンか!」
『――さスが優等生。感ガイいな』
「数が多すぎないか?」
『――そノ通り、だカラ手伝っテホしい』
「この型式……小蠅レベルのサイズがざっと千ってところですか」
『――三千ダ』
「そ、そんなの無理ですよ……」
声が小さくなったオペレーターを見て、指令は顎を撫でながら問う。
「このEAを突破するのにどのくらいかかる?」
『――そコノ優等生君を借リて……四十五分ダ』
「……そ、そんな馬鹿な」
『――侵入ノ糸口は掴んデアる』
「できるか」
指令に見つめられ、オペレーターの若い男は震える手を握り締める。
それからぎゅっと瞑った目を開いた。
「や、やります!」
それを聞いた指令は彼の肩に手を置くと、警備隊チームに通信を繋ぐ。
「現在、ホテル内部との通信妨害を突破中。各員はいつでも動けるように――」
言葉の末尾は耳を劈く二重の轟音と車内を揺らす衝撃で遮られた。
「何だ! 何が起きた! 状況を報告しろ‼」
『――ザザッ――――ザザザッ! ――――』
「クソッ! そっちは?」
「わかりません! 通信が途絶しました!」
『――イや、こレヲ見ろ』
少女の声はモニターにニュース映像とホテル周辺の3Dデータを映した。
警備隊が待機していた位置に黄色い点が無数に表示されていく。
『――たった今、二台の車が群衆に向かっていく様子が確認されました! 大きな音です! きゃああ‼ ――』
ニュースは阿鼻叫喚な現場を映していたが、銃撃の音と共に途切れた。
「指令……」
「…………」
「指令‼」
「――襲撃者の、新たな通信妨害の規模は?」
「同じ型式のマイクロドローンが、およそ五百」
「……新手は後回しだ。とにかく内部の復旧を急いでくれ」
『――イいノか?』
「作戦目標が最優先だ」
『――――わかッタ』
************************
会場に入った二人はすぐにその違和感に気付いた。
「随分……人が多いですね」
「ああ。随分多い」
少尉の呟きに、感嘆したような声を上げるボート。
「ご招待した記憶は?」
「いいや。ないね」
少佐にはこう答えた。
(――少佐)(――ああ、恐らくね)
少尉はそれとなく見覚えのない人間達について示唆した。
特定の人間と距離をキープし、油断なく歩調を合わせて視線を交わす。
一定の歩幅。バランスの取れた加重移動。
「皆自分が命を狙われるという自信があるようですね」
「なるほど……傭兵を雇っていたのは私だけではないということか」
少尉は他人の雇った護衛の中に、ボートの私兵がいないかそれとなく見回した。
その時だった。
「――ッ‼」
一組の眼鏡をかけた親子が目に入り、心臓がはち切れんばかりに脈打つ。
男だらけの会場で、女性の存在は目立つ。だからすぐに目に入った。
その親子に父親の存在は見当たらない。会社員風の女性と手を繋ぐ黒い髪の少女。
そう、黒い髪の少女。長髪をシニョンにして深紅のリボンでまとめているその姿は、一見してショートカットのように見えた。
「――――」
今の今まで忘れていた存在が、脳裏をよぎる。
「――――――」
忘れていた今朝の夢、そこにいたであろう少女が背後で微笑む気配を感じる。
「は、はあ……はッ、かっ、は――」
水の中で溺れたように気管が痙攣し、下手な呼吸が喉に引っかかる。
これから起こることは避けようのない出来事――そこに東南アジアのような選択の余地はない。
否――その選択は、世界を天秤にかける行為。その片方には微笑む自分がいるに違いない。
「オルニット――少尉」
「――は、はい」
振り向くと、少佐の顔が覗き込んでいた。
表情は曖昧で読み取れず無表情とも取れる。だが淡い黒の瞳は己が瞳の奥を覗き込んでいた。
「……大丈夫です」
「そうか。それならいい」
それだけ言うと、少佐はボートの元へ歩き出した。
今になって気づいたが、彼は少し離れた場所で著名人たちに囲まれてニコニコと話している。
親子がいた場所を見返すと、そこに眼鏡の二人組はいなかった。
「――まさかな」
あの二人が幻覚だと言うなら、あまりに記憶の彼女に似てなさすぎる。
選択は一先ず後回し。事が起きた時の自分に委ねる。歩き出した背後に、笑う悪魔が呟いた。
「ゲームは、難しければ難しいほど面白い」
************************
二人は、ひとしきり歓談を終えたボートと合流する。
人々はそれぞれの自由に集まり、食事を手にボーイからアルコールを受け取って個々のコミュニケーションを取り始めていた。
「どうでしたか」
「よい商談になりそうだよ」
「何を売り込んだんですか」
「まだ売り込んではいないさ」
言って、ボートは腕時計を見た。
「まだ?」
「ああ、この会場で絶対に面白いものが見れるからもう少し待っていてくれって」
その言葉に、少佐は少尉を見た。彼は、警戒状態特有の座った三白眼で首肯する。
(――何が起きてもおかしくない、か)
「なるほど。それは私達も楽しみにしています」
「ああ、きっと喜ぶよ」
ボートはしきりに腕時計を確認する。
「時間が気になりますか?」
少佐はその真意を探る。
「ああ、もうすぐだからね」
「サプライズが、ですか」
「そうさ――おっと、そろそろだ」
言いながら、ボートは会場正面の壇上へと向かう。
二人もそれに続き、手に持ったガンケースのロックを開錠する。
「ここで待っていていいよ」
壇上直前で二人を制止すると、ボートはステップを踏むように壇上に登り、マイクを手に。
『お集りの皆さま』
人差し指を頭上に掲げ衆目を集める。
少尉は時間を確認した。テロリストの襲撃が予想される二〇〇〇時まで残り三分。
「――まさか」
『本日は私の誘いに集まっていただきありがとう』
時計ちらちらと見ながら、ボートは続ける。
『招待した時から焦らしに焦らして申し訳ない』
『だがそれも、もう少しの辛抱だ』
『今夜私がお披露目するモノ。きっと幾人かが予想しているだろうが――』
『それは革命だ』
『これまで幾多のゲームチェンジャー兵器が生まれ、また新たな兵器によって淘汰されてきた。だが、今夜その思想は覆る』
『まあ、そう急かすな。もうすぐだ』
『これから皆様に、デモンストレーションして見せよう』
その言葉を最後に上げた左手で指を鳴らした。
激しく連続した銃声が鳴り響き、彼の背後に並ぶ大きな窓が砕けた。
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