第13話 大陸滅亡の危機と幽霊と 1
「ダミアンさん!大変な事になったんです!至急!東門まで来てください!」
「はあ?なんで俺が行かなくちゃなんないんだよ?巡礼者同士のトラブルだったらお前らでも解決できるだろう?」
「そうじゃないんです!そうじゃないんですよ!」
「何がそうじゃないんだよ?」
聖女が訪れ、民のために湧水を作り出したとされるカタンザーロの街は、幾度も異民族に襲撃を受けた歴史があるため、街全体が城壁ですっぽりと囲い込まれていた。東と南と北に城門が設置されており、東は巡礼者のみが使い南と北は商人や地域住民が使用する。パヴィアナ山脈側に位置する西門は現在、封鎖されていた。
地域住民とのトラブルを避ける目的もあって巡礼者のみが東門を使う事になっているのだが、盗賊に襲撃を受け、怪我をする事も多い巡礼者を、一時的に保護する目的もあって、東門のすぐ近くには救護所が設けられている。また、すぐ近くに教会もあるため、いつでも指示を仰げるようにしているのだった。
「ジュディッタお嬢様が見つかったんですよ!」
ジュディッタお嬢様とは、このカタンザーロを治める領主の娘であり、八日ほど前から行方不明となっている令嬢の事だ。捜査の範囲を広げるため、我が領主軍の精鋭も広範囲に散らばって捜索しているような状況だったのだが、そのジュディッタお嬢様が見つかった?
「サラハンの森に誘拐犯たちは潜伏していたみたいなんです。巡礼者の中に誘拐された女たちが連れて行かれる姿を見た者がいたそうで、すぐさま追いかけて救出してくれたそうで」
「手練れの護衛部隊が揃っていたのか?そんな奴らを揃えられるような商会や貴族はこの近辺を巡礼していないはずなんだがな」
聖地巡礼はオストラヴァ王国の王都ヴィアレッジョから聖女の足跡を辿る旅となるのだが、大勢の使用人を連れて歩くような場合は聖教会に、巡礼の予定や宿泊する場所などをあらかじめ提出しなければならない。
その情報はあらかじめ教会側から各領主へ提出される事が決まっていて、高位身分の貴族や、教会への多額の寄進を行っているような富豪の平民などの移動時には、場合によっては領主軍が護衛として出る場合もある。
最近は巡礼者の誘拐も多いため警ら隊を増やして巡回の範囲を広げていたのだが、原生林が生い茂るサラハンの森まで監視を広げてはいなかった。
そもそも、サハランの森は教会から『聖なる森』と認定を受けている事もあって、人の手が入る事が許されていないし、巡礼者は決められた場所を通過する事しか認められていない。
森の精霊を怒らせると、ラルゴ草原のように人が住み暮らす事が出来ない呪われた土地になるとも言われているため、地域住民ですら忌避する場所でもある。
「それで?お嬢様を誘拐した犯人は生け取りに出来たのか?」
「二人ほど殺してしまったそうなんですけど、生け捕りにした者は捕まえて来てくれました。そいつらを捕まえた御仁が、直接団長と話をしたいと言っていまして」
「わかった、すぐに向かおう!」
領兵団は街の西側にある小高い丘の上に駐屯をしているので、東門へと向かうには馬を利用した方が早い。十人ほどの部下を連れて街の中を移動すると、子どもたちが嬉しそうに手を振って走り出す。カタンザーロの領主は防衛のための金は惜しまない人であるため、我が領主軍の給料は他と比べても高い部類に入るだろう。
不思議な事に、高い給料と真っ当な訓練を行っていると、人は自分の仕事に誇りを持つようになる。領主軍や警ら隊といえば賄賂をもらって悪事を働くといったイメージが強いのだが、うちのような他部族との衝突も多い場所となると、悪事に対する嫌悪と忌避感が大きくなる。
裏切り者の存在は、即座に自分の生死関わる。つまりはそういう事なんだろう。
「団長!こちらです!」
助け出された女たちは救護棟の方へと運ばれているようだった。
救護棟には治癒師と共に修道女も多く働いているため、保護を受けた女たちの治療を行なってくれるだろう。
その救護棟の近くに警ら隊の派出所があり、その前には縄で縛られた男たちが六人、地面に転がされていた。背が低く、のっぺりとした顔立ちは山岳に住む部族の特徴そのものであり、彼らが巡礼者の誘拐に関わっていたという事は理解できる。
しかし、何故、パラヴィアナ山脈の反対側に位置するサラハンの森にいたのだろうか?
「団長!こちらの二人が誘拐されたジュディッタお嬢様と女たちを助けてくれた方々になります!」
「団長・・・」
「団長・・・・・?」
「う・・う・・美しい!」
転がされた男たちの近くに立つのは革鎧を身に纏った女戦士と巡礼者の少女だったのだが、輝くような真紅の髪を後一つに縛り上げた女戦士がこちらの方へと振り返る。
長いまつげの下に輝く琥珀色の瞳は芯の強さと聡明さを表し、形の良い鼻の下のふっくらとした唇は、今すぐ吸い付いてしまいたいほど魅力に満ちた薔薇の花びらのようだ。
すらりとした体格、だというのに胸が大きく、腰はコルセットは不要だと断じる事が出来るほどの細さ、そしてその下に繋がるまろやかなヒップラインが、まるでこちらを誘っているかのようじゃないか!
「私は領主軍を率いるダミアン団長と申します!あなた様のお名前は?」
馬を飛び降りた俺は、即座に彼女の前に跪き、剣を握っている割にはほっそりとした彼女の手を握って問いかける。
「僕の名前はエリア」
美人なのに、自分の事を僕呼び、萌える!
「護衛として巡礼者のアンジェラと旅を続けているのだが・・・」
鈴の鳴るような声まで美しい!
「サラハンの森を抜ける際に怪しい一行を見つけたので追跡をしたのだが、途中で衝突をする事となって二人ほど切り捨ててしまった。一人は部族の人間で、もう一人はパルマ人のように見えた。おそらくこのパルマ人の男が指示役を務めていたのだろうが、誤って殺してしまったんだ。すまなかったな」
その言葉を聞いて、巡礼者の少女が申し訳なさそうに顔を曇らせたのだが、そんな事には意向に気が付かない俺は、美しい女神しか見えない俺は、ほっそりとした手を握る手に思わず力を込めた。
「エリア殿、初対面でこんな事を言うのも不躾とは思いますが言わせてください!」
「なんだ?何を言うんだ?指示役を殺したのは申し訳ないとは思うが、こちらも余裕がなかった事は理解して欲しいのだが」
「そんな事はどうでも良いのです!」
「はあ?」
「突然こんな事を言って本気にされないかもしれませんが、俺はいたって本気です!俺と・・俺と・・結婚してください!」
美しい瞳は驚きで一瞬見開かれると、侮蔑と嘲笑を含んだ眼差しとなり、薔薇のような唇が皮肉な笑みを浮かべ出す。
おかしいな、突然の求婚に飛び上がって喜べとまでは言わないが、俺は結構見た目も良いし、女ウケは良いと思うのだが、思った反応が返ってこない。
「もしかして俺の強さがわからないから不安なんですか?不安なんですよね?だとしたら絶対にご不満など持たれる事はないことを証明します!俺はここでは一番の手練れとも言われているんです!ご希望であれば一戦交えるのも構いません!いや、これは卑猥な一戦と言う意味じゃなくて!剣と剣を重ねた一戦というやつで!もちろんご希望であれば、卑猥な方でも俺は全然構わないんですが!」
「おーーーい!誰か話がわかる奴を連れて来てくれ!ここの軍団の責任者は誰なんだ!トップとの話し合いを求める!」
「ですから俺がトップなんです!何でも聞きますから我が女神!」
「誰か他の奴を連れて来い!明かにおかしいだろこいつ!」
おかしいだろ判定を受けてしまった、何故?
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