第12話 霊感少女と巨乳戦士  6

 幽霊が見えるだなんて最高にエキサイティングだし、幽霊と話すことまで出来るっていうんだから、ワクワクドキドキが止まらない状態だったんだけど、異次元収納から弓矢を取り出すわ、挙げ句の果てには剣まで取り出して射かけられた矢を切断するわ、射手を落下させてあっという間に絶命させるわ、おいおいおいおい、お前は幽霊を見る能力を捨てるために聖都まで古代遺物を探しに行くというだけの霊感少女じゃなかったのか?


 あまりの手練れぶりに他国からのスパイなのかと警戒したのだが、

「いやいや、まさか、そういう事じゃないんですよ」

アンジェラは真っ青な顔で首を横に何度も振り続けた。


 息がある誘拐犯は縄で縛り付けて荷台に押し込めた僕たちは、誘拐された女性達を乗せたまま、誘拐犯が使っていた馬車でカタンザーロの街に移動する事にした。


 ちなみに借りた馬も、敵の馬も馬車に繋いで連れて歩いている。意外におとなしい馬たちだったようで、問題なくついてくるようだから助かった。


 ラゴア草原に近づくにつれ人の姿が少なくなってくるような土地柄だけに、カタンザーロ周辺の森は人の手が入らず原生林のまま放置されている。

 本来、鬱蒼と生い茂る木々が何処までも続く森のはずなのに、先ほど馬を走らせている時にも気がついたのだが、倒木をして切り出した道が縦横無尽に張り巡らされているのだ。


 この原生林の中にこれほどの道があるという事は、誘拐産業に手を出しているロンバルディアの神官どもが長い年月をかけて利用しているということなのか。

 神官である彼らは自由にオストラヴァ王国と聖都ロンバルディアを行き来できるため、彼らが仕組んだ事であるとするのなら十分に理解できる。


 隣国パルマも敵、ロンバルディアも敵、山岳民族ももちろん敵で、更には無害な霊能少女だと思っていたこいつまで・・・と殺気が溢れる事態に陥ったところ、慌てた様子でアンジェラは自分の素性をあっさりと吐き出す事にしたらしい。


「わ・・わ・・私の名前はアンジェラ・マルサラと申しまして、マルサラ辺境伯の長女って事になります!エリアさんも、きっと何処かの貴族の三女とか四女で、色々あって家を飛び出して、女戦士なんて家業を現在やっているかと思うんですけど、私もそれなりの理由があって家を飛び出してきた貴族令嬢という事になるわけなんです」

 御者台に座るアンジェラはそんなことを言い出しながら、自分がマルサラ辺境伯の娘だと告白した。彼女の説明を聞いた僕は呆れ返らずにはいられなかったね!


「君のお母さんが亡くなって、お父上が連れ子と一緒に素性がはっきりしない女を連れて来て後妻として、結果、跡取りとして育てられていた君が外に放逐されて、君の婚約者と連れ子の女が結婚して辺境伯を継ぐつもりだと?」

全くもって、呆れてものも言えない事実。


 今はカタンザーロの街に向かっているのだが、街に着くのは日が暮れた頃になるだろう。いくら道が誘拐犯によって整備されているとはいえ、安い馬車だから尻が跳ね飛ぶように移動する。

 森から差し込む木漏れ日を浴びながら、アンジェラは遠くを見るような眼差しとなりながら、手先に一本のペンを転がしている。


「私、物心ついた時から幽霊が見えるし、このオカルト体質を何とかしたいって元々思っていたところもあったんです。そこで、聖都には幽霊が見えなくなる古代遺物があるって聞いた事があるって言われていた事を思い出して、巡礼の旅に出る事を決意したわけなのです。だから、絶対に他国のスパイとかそういうのじゃないんです!」 

「事情はわかったけど・・・」


 今ある話にはいろいろな問題点が浮き彫りとなっているのだが、まず、第一の問題は、辺境伯が良くわからない女と結婚した上に、その連れ子の方を実子と偽り、爵位を継承させようとしているところ。


 王国の北方に位置するマルサラはパヴィアナ山脈の尾根の部分に位置しており、パルマ公国と北東に位置するクシャダス帝国の国境に位置する国防の要だ。

 そんな場所に、連れ子に爵位を継承とは、王家への裏切り以外の何ものでもない。とにもかくにも、大大大問題と言える。


 そもそもアンジェラの元婚約者というのもどうなんだ?常軌を逸しているように思えるのだが。


「そのアホみたいな君の元婚約者は何処の誰なんだ?」

「アバッティーニ侯爵家の次男の方で、名前はマルセロ様といいます」


 騎士団長の息子じゃないか、これは色々と問題大ありなんじゃないのか?

 そのマルセロって奴がただのアホ故の単独行動なら問題ないが、アバッティーニ家も公認の上でこんな事をやっているとするのなら、早々にこの国は終わることになるぞ。


「君の義理の母と連れ子は本当に素性が知れないのか?実は隣国パルマやクシャダス帝国の人間だったなんてオチが待ち構えているんじゃないのか?」

 帝国もパルマ公国も、肥沃な大地が広がる王国を手に入れたいと常に狙っているような状態だ。実子を放逐するようなトンマが辺境伯だと知った他国が、そこに付け入らない訳がない。


「何処の国の人間なのかわからないんですよ」

「はあ?」

「髪の毛が二人ともピンクブロンドなんです」

「なんだって?」


 聖女オリヴィエラは特別な存在で、彼女の髪色も鮮やかなピンクブロンドだったと伝承には残されている。

「我が王国にだって、聖女と同じ髪色の人間は生まれません。世界中、何処を探したって聖女と同じ髪色の人間なんて存在しないでしょう。だというのに、二人とも髪の毛が鮮やかなピンクブロンドで、領地の民も、聖女の再来だと喜んでいるような状態で」

「なんだよそれー〜」


 両手で顔を覆って天を仰ぎたいけど、手綱を握っているから不可能だ。

 明らかに胡散臭い親子が聖女と同じ髪色をしている?


 辺境伯は実子であるアンジェラを放逐して、彼女の婚約者であるベルトルト・アバッティーニは聖女と同じ髪色の義妹の手を取った。

 聖女の再来と結婚するんだから良いでしょうとでも言い出すつもりなのかもしれないが、

「ないないないない!ないないないないないない!完全なる王家への詐称、場合によっては国家を転覆させるかもしれない事態!その聖女もどきが他国からの間諜だったらどうするんだ?マルサラは捨てたようなものだろ?」

そこで僕はハッと気がついたわけだ。


「後ろの荷台に、誘拐された女の子達がいるよね?」

「そうですね」

「なんなら、誘拐犯達もぐるぐる巻きにしているよね?」

「そうですね」

「僕ら、ちょっとヤバイ話を大っぴらにしすぎてない?」


 国家を揺るがす話を御者台で大っぴらにするべきではない、周りは森に囲まれて人っ子一人見かける事はないが、後ろの荷台には最大限乗せ込めるだけの人間が、ぎゅうぎゅう詰めとなっているのだ。


「ああー〜、大丈夫ですよ。今持っているこのペンって我が家にあった古代遺物で、これを持っているだけで半径一メートル圏内に防音の魔法をかける事が出来るんですよ」

 防音の魔法が使えるらしいんですよ、じゃあねえよ。

「それって古代遺物だよね?王家に届け出は?」

「家としてはやっていますよ」


 代々、辺境の地を守り抜いてきたマルサラ家には、敵が落として行った古代遺物が倉庫の奥に押し込められているとは話に聞いたことがある。

 都度、王家に届出はされているものの目立った物がないため、辺境伯の管理下に置かれる事を認められていた。


 目立った物はないはずなのに、防音?異次元収納?一級品レベルが目立ったものではないに分類されるってこれいかに?

「王家の官吏がアホなのか?申請書類に不備があったのか?」

「書類で管理し始めたのが約百年ほど前からだって幽霊が言っていました」

「マジかよそれ」

 各家には定期的な棚卸しとか、古代遺物のチェックが必要って事なのか?それに百年前ってなんだよ、百年前って、百年以上前の申請がどうなっていたのかなんて、王都に帰っても調べようもないじゃないか。


 ああー〜―、呑気なオカルトの旅だったはずなのに、大分おかしな事になって来ているなー〜。

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