第11話 霊感少女と巨乳戦士  5

 私が幼い時から一緒に居てくれた幽霊のエリーナ様は、我が家の宝物庫の奥底からずた袋みたいな汚い袋を持ってきてくれたわけだ。

 普通、幽霊は実際にそこにあるものを運ぶなんて事は出来ないんだけど、エリーナ様は力のある幽霊だからそんな事も出来るらしい。

 実際にどうやって運んでいるのか尋ねた事もあるんだけど、

『うー〜―んと・・・気合い?』

と、小首を傾げながら答えていたけど、あのポーズがいわゆるあざと系というものに分類されるのでしょう。


 この世の中には、エリーナ様のように綺麗で可愛い系の幽霊も居るには居るんだけど、大概は黒い塊だったり、ドロドロとした物だったり、冷たくてひんやりする目玉の塊だったりするの。人の形を保っているものは生前の恨みつらみが残っているから、怨嗟の言葉を吐き散らしたり、暴言を吐いたりと、本当に煩いわけです。最近は、エリアさんの厳つい騎士の霊が側に居るから、うるさい系幽霊は近くに寄ってこないので助かるんだけど、騎士さんの威圧にも負けずに近づいてくる幽霊は、それなりに賢くって話も出来たりするレベルだから、余計に巻き込まれるペースが早くなっている気がするんだよね。


 色気を使ったのかお金を使ったのかはよく分からないけれど、馬二頭を調達してきたエリアさんと一緒に森を進み始めたんだけど、この周辺の森は人の手が入らない原生林なんだよね。

 要するに、馬を走らせるのに相当の技術が必要になるんだけど、隣で走っているエリアさんのお胸がバインバインと上下している様が見事すぎて、思わず目眩で倒れそう。

 翻って見るに、私のお胸の貧しさよ。馬に乗っても全然バインバインしないのは昔から現在に至るまで、全く変わらないの。大量にご飯を食べてものすごく太れば、私の胸も少しくらいはバインバインするのかしら。


『馬の蹄の音を聞きつけて、こっちを仕留めるためにと動き始めている。弓矢使いが居るから剣は出しておいた方がいいよ』


 私が跨る馬の前には小さな男の子(幽霊)が跨っているんだけど、こいつが先ほどから私に「お姉ちゃんを助けてくれ〜」としつこく訴える、かなり力がある系の幽霊なのだ。  敵の待ち伏せね、重要な情報を伝えてくるのは有り難いけど、離れた場所にいる人間の動きが何故わかる?


「幽霊に促されるこの状態は喜んで良いのか悪いのか、本当にわかんないんだけどー〜―」


 肩掛け鞄の中に入ったずた袋の中から、私は剣を引っ張り出した。自分用に誂えた剣なので、刀身は肘から指先程度の長さで、柄の部分には滑り止めの意味で革紐が何重にも結び付けられている。

『お姉さん!右!』

「わかってる!」

 馬に向かって射かけられているのはわかっていた。

 将を射んと欲するればまず馬を射よって奴?無粋よねー〜。


 柄の部分の革紐に差し込んでいた小刀を引き抜き、左手で矢を切り落としながら右手で小刀を投げつけると、男が木の上から落下していく。

 致命傷を与えたわけじゃない、驚いて落下しただけ。

 馬首を巡らせて落下した男の方へと戻ると、首を跳ね切ったため真っ赤な血が飛んだ。


『お姉さん強い!』

「油断しないで!」


 剣を引き抜いた男達がこちらの方へと向かってくる、騎馬2、歩兵3、幽霊が敵は八人いると言っていたから、六名をこちらに向かわせて、女達がいるところに二名置いてきたという事になるのだろう。


 女一人の値段よりも、馬の値段の方が高いのは当たり前。弓を構えていた男はここを戦場か何かと間違えているんじゃないのかな。

 騎馬の男は完全に私狙い、長剣を振り上げ、勢いをつけて振り降ろされる剣の刃の下を掻い潜りながら、男の腹を切り割った。


 馬と馬が指二本の隙間を作りながらすれ違うのは、私の剣が短いから。ああ、槍が欲しい。ずた袋に槍が入ればいいのに、自分の腰の高さよりも長いものは入らないのよねぇ。


 木々の合間に出来たわずかなスペースでは、馬を切り返すにも時間がかかる。ああ、なんと面倒な。そんな事を考えながら馬を走らせ、回転させるようにして元の位置まで戻っていくと、敵は全て倒れ伏している事に気がついた。


 馬から降りたのはエリアさんで、すらりとした長い足で男の背中を踏みつけながら、

「君、結構な手練じゃないか、ただの霊感少女ではないとは思ったけど、一体何処の出身の貴族令嬢な訳?俄然興味が湧いてきちゃったよ〜!」

と言い出した。


 森の中に出来た木と木の隙間と倒木で作られたスペースで、敵の馬を一切傷つける事なく相手を倒す技、しかも、相手にした男は失神しているだけで全員生きている。


「エリアさんだって劇強じゃないですか!私が馬をグルンってやっている間にこれですよ?あっという間じゃないですか!」

「君が居たから出来た事だよ〜」


 エリアさんが琥珀色の瞳を細めてにっこり笑っているけれど、目が笑っていない、目が笑っていないぞ?

「しかも君、異次元収納できる古代遺物を持っているんじゃないか。五日も一緒に居て気が付かないなんて僕は相当のバカだな」

「いやー〜、ただのボロクズのずた袋なんで!気がつかないのも当たり前というか?」

「古代遺物は王家の許可なしでは使えないのは知っているよね?」


 知っていまーす!その許可を取らずに、暗殺しようとしたり、魅了していたリエンツォ商会のルーツェさんはまんまと捕まっちゃいましたもんね!


「家として許可を貰っています!」

「家として?」

「はい!」

「それは何処の家なんだ?」

「それは・・それは・・あああ!女の人たちが襲われる!助けに行かなくちゃー〜!」

 怖い、怖すぎる!

 私は誘拐された女性達が押し込められているという馬車へと向かって、一目散に馬を走らせた(逃げ出した)のだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る