第14話  大陸滅亡の危機と幽霊と 2

 女戦士のエリアさんは、顔は美しいし巨乳だし、話し方は男そのもので結構気さくな性格をしているという事もあって、男女ともに大変モテるのですよ。

 カリスマ性があるんですかね?パッと人の目を引く力をお持ちなのです。

 大勢の部下を連れてやってきたダミアンさんっていう団長さんも、最初は渋い顔をした完全なるイケオジって感じだったんですけど、エリアさんを見た途端に、道端に這いつくばる犬状態ですよ。


 突如の求婚劇は放置して、私は男の子の霊についてこの場を離れる事にしました。

 求婚ははっきり言ってどうでもいい、私にはやるべき事があるのです。


 幽霊の少年はかなり昔の人物のようで、亜麻布で出来たキトンを身に纏っており(四角の布を繋ぎ合わせたものを頭からかぶるようにして着て、ベルトで固定しているだけの衣服)足元は編み上げのサンダルを履いているので、無茶苦茶昔の幽霊だって事がわかります。きっと、この土地に昔々に住んでいた人物なのでしょう。


 お姉ちゃんと呼んでいた人物は領主の娘さんだったので、この地を治めるアメンタ家に縁がある幽霊なのでしょうね。


遠隔で物が見える彼が言うには、もうすぐ領主夫妻が馬車でここまでやって来るそうなのです。そんな訳で、忙しそうに行き来する人々の間をすり抜けて救護棟の方へと向かって行くと、一台の馬車が目の前に停まりました。


 馬車から降りて来たのは中年のご夫婦で、身なりから判断するに、領主夫妻という事になるのでしょう。

 救護棟の中にある個室へとご夫婦は移動すると、そこで身を横たえるジュディッタ嬢を泣きながら夫人の方が抱きしめました。令嬢は衰弱が酷くて、今は意識が戻っていないのです。直接話を聞くことが出来ない状態のため、不安と焦燥に駆られている感じですね。


「カタンザーロの領主であるティモテオ・アメンタ様」


 巡礼者そのものの姿をした私は、護衛の兵士たちも気にしていない様子だったので、まんまと領主様に近づく事が出来ました。

 本来なら身分が下の人間から話しかける事はタブーとされているのですが、今の私は聖地を巡礼中の巡礼者。無礼講って事で許してもらいましょう。


「お嬢様の体は純潔が守られています」

 私の言葉に、小太りで人の良さそうな顔をした領主様が体をぴくりと動かしました。


 貞淑が求められる貴族社会では、今後、嫁ぐ予定となる令嬢が純潔かどうかっていうのは非常に重要になってくるんですよね。

「なぜ、君にそんな事がわかるんだ?」

 不快感と疑惑の瞳で私を見下ろしてきた領主様は、見た目は人の良いおじさまそのものなのに、体から溢れ出る殺気が物凄い事になっています。

 私が誘拐犯の一味なんじゃないかと疑っているのでしょうね。


「彼女の守護霊が言っているからわかるのです」

 本当に彼女の守護霊なのかどうかは分かりませんが、金髪の少年の幽霊は胸を張って顎をそびやかしています。

「誘拐犯の目的は女性を供物として捧げる事であって、女性が純潔であればあるほど、報酬が高くなるのだそうです。だから、捕まえた女性たちには一切の手出しはしていないと言っています」

「山岳の部族が誘拐に関わっていると聞いたが?」

「指導役はパルマ人で、誘拐された女性たちは聖都で生贄とされる予定でした。パルマ公国はロンバルディアの神官に協力する事で、カタンザーロへの侵略戦争を協力すると約束をしていますし、山岳民族の方々は、パルマ公国に協力をする事で、カタンザーロの領地の一部を貰って部族間で分け合う予定でいるわけです」

「お前は・・敵の間諜じゃないのか?」


 領主様の疑いの目がどんどん鋭くなっていくので、思わずため息を吐き出してしまいました。

「だから、お嬢様の守護霊が私にそう教えてくれるんです。守護霊は他にも私に教えてくれましたよ?」

「一体何を教えてくれたというんだ?」

「なんでもお嬢様は、お父様の誕生日プレゼントを内緒で購入しようと考えたようで、侍従のサムエルと共に街へと出かける事にしたそうです。自分の目でプレゼントを探したいと言ってこっそり屋敷を抜け出す事にしたのですが、それを手伝ったのがサムエルです。このサムエルはパルマ公国の間諜だったので、うっかり敵の甘言に乗ってしまったという事にもなるんですけど、アメンタ家の令嬢は生贄としてとても優れているので、この街の教会で働く神官たちも大喜びとなったみたいです」


「なんだって!」

領主様の怒りが物凄い事になっていますけど、私に向けられたものじゃないのでどうでも良い事にしてしまいましょう。

「聖都の人間が裏切っているので、カタンザーロの神官たちも同様に裏切り者です。アメンタ家の人間は特別な血が流れているというのは裏では有名な話のため、特別な生贄って話にも信憑性があるかなって思います」


 領主様は怒り心頭なんですけど、娘の髪の毛を撫でながら声をかけている奥様の方は全くこちらの方を振り返りません。

 私が古代遺物である金色のペンをくるくる回している間は、こちらの話は聞こえないし、周りも私たちに興味が持てないようになっているのです。


「ロンバルディアが裏切り、パルマ公国がカタンザーロに進軍を開始し、自分たちの住み暮らす場所を広げるために、山岳の民族たちはカタンザーロへの襲撃に参加する事でしょう。城壁の門を全て閉ざしたって無駄ですよ、城壁の中にいる聖教会の信者たちが街に火を放って歩くでしょうからね」


「な・・なんてことだ・・・」


 領主様、真っ青な顔になってあんぐりと口を開けています。

 そりゃそうですよね、今まで聖地巡礼にも協力してきたわけですし、ロンバルディアの神官とオストラヴァ王国は良好な関係を維持してきたわけです。


オストラヴァ王国とパルマ公国は、両国の間にある聖都を緩衝地帯として互いに不可侵のものとして、宗教的聖地を互いに守ると約定を結んでいるわけですよ。だというのに、聖都が王国を裏切っていたっていうんですからね?

さてさて、一体どうしようって感じですよ。

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