第8話 霊感少女と巨乳戦士  2

 私は普段から幽霊が見えるけど、その幽霊は人に憑いている場合もあれば道に落っこちている(地縛霊となっているともいう)場合もあって、それなりに力がある霊だったら私に話しかけて来る事も出来るし、この前のおばあさんみたいな強烈な霊だったら私に憑依する事も出来るわけ。


 普通、憑依までは絶対にさせないんだけど、孫を救いたい一念のおばあちゃんにちょっと気を許したのが仇となったのよね。まあ、無事に孫も呪いから解放されたし、義理の息子の命を狙っていた女の人も捕まったから結果オーライなんだけど、こんな調子だから巡礼の旅が本当に進まない。前に進んだ分は馬を使用してもいいよ〜みたいな風にしてくれればいいのに、聖地を目指すには徒歩でなくちゃいけないみたいなルール、何とかして欲しいものだわ。


「そういえば君、リエンツォ商会の会頭からカタンローザの領主への紹介状を書いてもらっていたみたいだけど、確かにあそこにはオカルティズムを刺激されるような何かが色々とありそうだよね!」


 王都ヴィアレッジョから聖地までを巡礼する王国民は多いし、犯罪を少しでも無くすために道も整備されているし、巡礼者は野盗を警戒して固まって歩くようにしているため、私達も巡礼者の後に続くようにして旅を進めている。


「あのですね、私は幽霊なんか見たくないんですよ」

「そう言っているよね、僕はオカルト大好きだからその気持ちがよくわからないんだけど」

「わからなくていいです、私は本当の本当に、幽霊なんか見たくもないし関わりたくもない。だけど、そうも言っていられない事態に陥っているのは間違いようのない事実なんです」

「はあ・・・」

「カタンローザはラルゴ草原の手前にある最後の大都市で、旱魃の時に民を救うため、聖女が湧き水を作り出したという伝説があるため、巡礼者はカタンローザの聖教会に参拝をする事になるんですけど、そもそもカタンローザは、隣国パルマの前身となるパルメイラ帝国や、山岳を超えて渡って来た異民族ユケイラに支配された過去がある場所なんです」


 今は亡き聖国ロンバルディアの支配地域だった事もあるし、この地を手にする者は世界を手にする事が出来るとも言われ(立地は悪いし、不便な場所だし、ここを手に入れて何故、世界を手にする事が出来ると思ったのか全く理解出来ないんだけど)王都なんかよりもよっぽど血生臭い歴史が残る場所とも言えるでしょう。


「実はある幽霊に、領主の館に行ってくれと言われていて」

「また幽霊か!」

 エリアさんは本当に幽霊の話が好きだよなぁ、今まで眠気まなこで歩いていたのに、目をぱっちり見開いて、ワクワクした顔で私を見下ろしてくる。

「それで?それで?」

「いや、私、何のツテもコネも持たない巡礼者ですよ?いきなり領主の館に行って、屋敷の中を見せてくださーいなんて言っても通してくれる訳がないじゃないですか?」

「そりゃあそうかもしれないけど」

「だから、今までカタンローザには3回入っているんですけど、3回とも、聖教会に参拝しただけで、次の場所へと移動したんですよね」

「3回も?何故?」

「だから前にも言ったじゃないですか!幽霊騒動にいっつも巻き込まれて、三歩進んでは二歩下がり、三歩進んでは五歩下がりで、次の街に移動しても、何かしらに巻き込まれて、前の街まで戻ってしまうんですよ。4回目にもなれば、もう分かりますよね?私、きっとカタンザーロの領主館に行かない限りは、聖地に辿り着けないんだと思うんです」


 リエンツォ商会は貴族位を持たないけれど、大商会だけあってカタンローザの領主に渡をつける術があるんじゃないかなあと思って尋ねてみたんだけど、あっさり紹介状を書いてくれたのには驚いた。


「カタンザーロは数多の国々が支配下に置いた歴史があるんですけど、今も使用されている領主館は約五百年前に建てられた建物をそのまま使っているのは有名な話ですよね?」

「あれだろ?一番古いのはパルメイラ帝国の支配下に置かれていた時のもので、巨大な石で作られた建物が基礎となって、その上に蛮族ユケイラが神殿を建てて、更にその後には聖国ロンバルディアが教会を建てたっていう」

「その教会の建物に改築工事を行なって大きな館としたのがオストラヴァ王国、カタンローザがオストラヴァ王国の物となって確か二百年、いや、三百年・・」

「今年で二百五十八年と歴史では語られているな」

 深紅の髪の毛を掻き上げたエリアさんが、こちらを見下ろしてニコリと笑いました。


 エリアさんは得体の知れない人でした。

 薬草に詳しく、ナイフを持って襲い掛かろうとしてきた侍従をあっさり失神される力があり、尚且つ、私が歌っていた言語がパタラヴィア神聖語であると即座に理解しました。

 滅びたとも言われる神聖語がすぐに分かるって、どういう頭をしているんですかね?私みたいに幽霊の意見を聞いてカンニングしている訳じゃないんですよ?


 今なんて、カタンザーロがオストラヴァ王国の支配下となって二百五十八年とかなり正確な事を言い出しましたけど、王国が今の領土まで拡大させたのは聖戦あってのものであり、これには滅びた聖国ロンバルディアが深く関わってくるため、多くを語る事は禁忌とされているんです。

 だから一般貴族は、我が国が今の国土の領域となって大体三百年くらい〜という覚え方しかさせない訳ですよ。

私が何でそんなに詳しい事を知っているのかというと、幽霊が教えてくれたからなんですけどね!


「君は歴史あるカタンローザの領主館を調べるつもりなんだろうけど、一体どの階層に興味がある訳?」

 階層とか言い出しちゃったよこの人。


 カタンザーロの屋敷には、下からパルメイラ帝国、蛮族ユケイラ、聖国ロンバルディア、オストラヴァ王国と地下深くに埋まっている建物が上に積み重なるようにして残っているんだけど、それもまた、一般では知られていない情報なんですよ〜?


「ロマンだよね?君を呼び寄せているのはパルメイラ帝国人の幽霊なのか、ユケイラ人の幽霊なのか、ロンバルディア人の幽霊なのか、オストラヴァ人の幽霊なのか。どの時代の何処の誰が呼び寄せているのか、その先には一体何があるのか、想像するだけで震え上がるほどの興奮を感じるよ」

「さいですか」

「本当は今すぐ、君が何の霊に頼まれたのか聞きたいところだけど、今はダメだ!今はまだ早い!楽しみは後に取っておかないともったいないじゃないか!」

「好きな食べ物は最後まで取っておく派なんですね?」

「そうだよ!僕はベリーが出た時には、どんな時だって最後まで取っておく。最後の最後に口の中に入れて、幸せを十分に噛み締めながら飲み込むんだ」

 美人なのに興奮すると小鼻が開くんだよな、この人。

 ふんす、ふんすと鼻息が荒くなっているエリアさんを見上げると、

「本当に幽霊が大好きなんですね?」

と、呆れた声を出してしまった。


 ちなみに私は幽霊なんて大嫌い。

 代われるものならこの能力、エリアさんに丸投げして放棄してやりたいくらい大嫌いなのだ。

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