第10話 記憶の中に

母がイヤな人間だというのに、あまりやったことを詳細に書かない・書けないのは、思い出すと夢に見てしまうから、ギリギリ避けているのである。

起きている間に思い出しても「ケッ」としばらく忌々しい気持ちになるだけで済むが、夢だとダメージが大きくて辛い。

その日一日引きずってしまう。


嫌なことをしっかりと書かないと自分の中で消化・昇華できないだろうから、少しずつ出して記憶を整理して成仏させようとこれを書き綴っているのだが、できているようでできていなくて、もどかしい。

淡々と書いているが、心の中では七転八倒である。


箇条書きにしていくと


包丁をつきつけられた。

髪を鷲掴みされて、部屋の中を引きずり回された。

頬が腫れ上がるほど平手打ちされた。

血が出るくらい引っかかれた。

馬乗りで殴られた。

蹴られた。


「お前なんか産まれてこなければよかった」

「今すぐ死ね」

たくさん否定されてきた。


物を隠されたり、壊されたりした。


ざっくりそんな感じ。

暴言については、一番言われたら嫌なタイミングでピンポイントで切り付けてくるプロ。

母は他人の前でまともに気の利いた話もできないくせに、娘の心を傷つけるポイントはわかっているのだ。


こちらにも子どもなりにはプライドが存在していたから、絶対に潰されるもんか、自分にはちゃんと価値があるのだ、それを証明してやるぞと黒い炎を自分の中で燃やし続けていた。心がもう少し弱かったら、途中で命を落としていると思う。


大学を出て結婚して、子どもも大学にやって、今は夫婦で仲良く幸せに暮らしている。

それが母にとって私ができる一番の復讐だと思っている。


自分は九州へ里帰りなんかほとんどしなかったのに、お前は気軽にしてくる。憎い。生意気だ。

何日も自分の家を空けるなんて、旦那様(私の夫)にどういうつもりなんだ。

さっさと帰れ。お前がいると家事が増えるから迷惑なんだ。


父に請われて帰省しても、父が出勤している間にそんなことを朝から晩まで言ってくるから、お望みどおりに帰省もやめてしまった。



下手に関わると私が蓋をしている気持ちが出てくるので、極力母とは接触せずに暮らしている。

電話も1分以内に切る。それ以上経過すると確実に嫌な思いをするから。


自分の子どもがどちらも大人になって思うのは、子どもはかわいいものだということだった。

できることなら辛いことは自分が代わってやりたいし、楽しいことが多いといいなと思っている。願っている。

「死ね」とか「産まなければよかった」なんてことを考えることはなかった。


だからこそ、どうしても許せないのだ、母を。

理解できないのだ。

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