第9話 お出かけ

母と娘が仲良くショッピングをしたり、甘い物を食べに出かけたり、父親抜きで旅行に出たり、そんな話を見聞きする。


ここまでの話でお分かりのとおり、私や妹にはそういうことはない。

普通に高校へ行ったり、大学へ行ったりしたら、母と娘は仲が良いという型にはめられて

「お母さんにお願いしたら?」「お母さんに相談するといいよ」

なんて話も出てくる。

ニッコリ笑って「そうだね」とは返すが、無理な話なのである。


私や妹が小学生だった頃、父と三人で定期的に遊びに出かけた。

父の休みが日曜と重なった時に、遊園地や動物園なんかに連れていってもらった。

当時はコンビニがなかったので、おにぎりやお弁当を扱っているお店で好きなものを買ってもらってから出かけるというのも楽しみだったなあ。


夫には「お母さんは行かなかったの?お母さんにお弁当とか作ってもらわなかったの?」と不思議がられたが、母は私たちと一緒に出掛けるのは嫌で家に居たし、おにぎりさえも作っては貰っていない。

父としても母の負担を減らそうと、お昼ご飯を母に用意させないと決めていたのだろう。


父の車に乗って、学校の話をしながら目的地に向かう。

父は私たち姉妹の話をよく聞いてくれた。


家族サービスというのは、父親が子どもたちを外へ遊びに連れ出すことだと、大きくなるまで誤解したままだったよ。

本当は、家族みんなで出かけたり、共通の思い出を作ることなんだね。


私が大学生になって一人暮らしを始めて、実家に帰省する度に父がアパートまで車で送ってくれたのだが、なぜだかその時は母が車に乗り込んできていた。

私が居ない間に夫婦の仲が良好になったのか、こんなことが起こるんだなと正直驚いた。

帰りにどこのPAでお土産を買うんだ、それは母が好物なんだと父が嬉しそうだった。


母は出身地から遠い場所に住んで、子どもともほとんど出かけていないのだから、未だに土地に馴染みはないとは思う。

本来なら子どもが産まれる前や子どもが小さいうちに一緒にあちこちを巡って、土地をよく知って、土地に対する情みたいなものを育てていくのがいいのだろう。

それがないからか、母は住んでいる土地にも私たち家族にも情を持てなかったのかもしれない。


口を開けば、出身地の方がよかった、出身地の方が美味しい物があったと言う。

人も優しくない、いやだいやだと私が生まれ育った所のことを悪し様に言いまくる。

自分や自分の周りを否定されると、どう考えるのかというのが抜けているのだろう。

母は家族からも距離をとられ、新しい場所で新しい友人もできなかった。


私たち姉妹も、この先母とどこか出かけたいという気持ちは全くない。

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