第8話 期待してはいけない
妹は母に似て、かなり美人である。
私の結婚式でも、夫の親族から「あんな美人見たことない。アナウンサーか何か?」と言われ、少し不貞腐れた私。
早くから母が他の母親とは違うことに気が付いて、ずっと観察してきた私とは違い、素直な妹は私より母に傷つけられることが多かったように思う。
家庭が荒れているとどうしても女の子は早熟になり、よくない彼氏を作って堕落していくのは、誰もが見ていると思う。
見てくれが良かった妹は、中学で悪い男子グループに目を付けられてしまった。
十代後半はそのグループに纏わりつかれて、ストーカー化した元カレから逃亡するのに数百キロ離れた他県に身を隠していたこともある。
そんな大変な目に遭っている妹にも母は常に辛辣であった。
身を挺して守ろうとか、何としても探し出そうとかいうこともなく、警察へ捜索願を出そうという私にも「面倒だから」と怒り狂った。
父は「お前(私)の結婚もあるから、お母さんはお母さんで大事にしたくないんだ」と庇っていたが、ただ本当に「面倒」だったのだと思う。
妹は無事、元カレから逃げきってから、実家にいる。
家事を担っているが、母から体調を気遣われることもなく、感謝されることもなく、ただ自分を否定し続ける言葉をぶつけられる日々に悲しくなり、私に泣きながら電話をくれたことがあった。
「これだけ尽くしたら、きちんと私に情がわくと思ったのに。」と泣き崩れる妹。
気持ちはわかる。私も本当に小さい頃に期待を持っていて、母の望む手のかからないいい子でいればいいのではないかと思い行動したが、愛情を感じることはなかった。
「無理だよ。感謝なんか、あの人はしないよ。都合がいいってだけ。」
「そこまで悪い人だとは思っていなかった。辛い。」
「期待したら辛いから、期待しちゃダメなんだよ。普通の人の感情を持っていないんだから。」
どこか胸の中ではわかっているのだとは思う。
自分の実の母親がこんなに冷淡である事実を受け入れるのは辛い。
自分も同類になりえるのではないかという恐怖と、他人から同類だと思われる心配と。
今は自分の世話をしてくれる人間が側にいて、文句を言わずに働いてくれたらそれでよいだけ。その人間に気持ちが存在することは母にはわからない。
末っ子で甘やかされて育った母は、与えられることが当たり前で、与えることはしたくない。思いやる心もない。
「お姉ちゃん(私)は、いつお母さんに期待しないって決めたの?」
「小学校へ上がる前。お父さんしか頼れないってわかってしまってたから。」
ずっと期待してきた妹は愚かかもしれないが、優しい。
母に似ているのに、似ていない。
優しいということは辛いことでもある。
期待することをやめて、なんとか傷つかないで欲しいと願う姉である。
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