第5話 母の幸せは娘の不幸
これはそのまま人に言うと、私がおかしいと思われるが、本当にそう。
私が成績がよくて運動もかなりできるということが判明すれば、それは母の自慢のバッジの一つになるだけで、私を褒めたりすることはなかった。
お宅の娘さんはよくできて、というようなことを言われて外ではニコニコしているが、帰ってみると「調子に乗るんじゃないわよ!」とぶったりする始末。
高校受験の前に、中学で担任と保護者と本人との三者面談があったのだが、
「なんでそんな面倒な席に私が出ないといけないの。勝手にすれば。」と言い、来なかったことがある。
来たところで私の進路にそれほど関心のない母だから、一度も検討もしたこともない学校を「この子の志望校です」と言い張り担任も困惑していた。
私の志望校は自宅から一番近くの県立の進学校だったのだが、母が担任に告げたのは工業高校と商業高校だった。偏差値的にも地理的にもありえないというような高校。
私も担任に「そんな話、家で一度もしたことない。嘘です。違います。」と訂正するのも疲れるから、最後の三者面談は「母が体調が悪くて、私一人でお願いします」ということにした。
こんな母なので、もちろん大学受験前もやってくれた。
私は理系であり生物系に進みたいと父には話してあって、だいたいの志望校は2年のうちに決まっていたのだが、自分だけが蚊帳の外になって相当腹が立っていたのだろう母はこれまた三者面談でやらかしたのだった。
「薬学部がいいと思うんですよ。就職も良さそうですしね。」
化学が好きでなかった私はそんなことは言わない。考えたこともない。
割と近くに国立の薬学部があったことが母に知れて、それで勝手に言い出したのだった。
「いや、先生。私は一度も薬学部なんて検討したこともないし、そういう話も家で出ていません。私の志望に変更はありません。変更しません。」
困った顔で担任は私を見つめていた。
楽しくなったのか母は三者面談の度に「薬学部が」と言い出して、うんざりした。
人の好い担任もうんざりしていただろう。
私は当所の志望を変えずに母の意見を無視していたから、何か報復をされるかもということで、受験に関するものはずっと学生カバンの見えづらい場所に隠し持っていた。
隠されたり破棄される可能性があった。私はそう考えていた。
「あんたが大学へ行ったら、高卒の自分をバカにするに決まってるから阻止してやる。
お金の無駄だからやめろ。」
と父のいない所で散々言われていたしね。
無事に大学へ進み、卒業して、結婚という段階の時にも
「あんたみたいな人間が幸せになるなんて許せない。
母親の私が結婚式に出なかったら台無しになるだろうから、私は参加しない。」と
ごねてくれたくらい潔い。
結局は参加したんだけどね。ニコニコして、「美人のお母さんね」とか言われて。
なんか悪態つかないと死んじゃう病気なのかな。
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