第3話 裁縫

学校で習う以上のことができなくてもいいと思う。

ただ、ボタンをつけたり、ほつれている裾を直すくらいができればそれでいい。

子どもの小物なんかは買ってくればいい。


小さい頃、年に一度は祖母や叔母がやってきて、

二人が作ったかわいい手提げ袋をたくさんくれて、私や妹の肌着やスカートなど

メンテナンスして帰っていった。

母はボタンもまともにつけられないし、スカートのゴムを換えることも

できないから。


ある日うっかり中学の制服のスカートの裾がほつれてしまい

スカートと同じ色の細い糸を買ってきて、それで自分でちくちくと時間をかけて直した。

目も肩も疲れて、お風呂に入って回復をはかった。


お風呂から出てみると、きれいに直したスカートの裾がなぜか白いタコ糸と思うような太さの糸でざくざくと不揃いでガタガタに縫い直されていた。

私が時間をかけて直した糸を母が全部切ったらしい。

切る必要があったのか、いやない。


こういう嫌がらせはずっとされた。

「私がやってあげたのに、あの子ったら感謝もせずに怒鳴るの!!!」と言いたいだけ。

見たらわかる。

どうしてこんなことができるのかというくらい酷い手仕事だから。


体育大会なんかのゼッケンも自分でつけていたが、それも母の目に入る場所に置けば同じことをされるから、そういったものは母の目につかないよう全て隠した。


「私の方が上手いの。あの子が下手だから私が直したの。」とその度に父に言うけれど、父も私が器用なことを知っているから

「お前はなんで勝手に人のものを触るんだ。触るなと言われているのはみんな知ってるぞ。」と怒られる。

怒られると私に逆切れする流れ。

あんたが私を陥れる。頭だけいい卑怯な女だと。


学校に提出する雑巾でさえミシンでまともに縫えない母。

早くから期待するのをやめて、自分で何とかするようにした。


下手なのはいい。練習しなくてもいい。

ただ頼んでもいないのに手を出すのをやめてほしかった。

母の下手な手仕事を全部取り去って、もう一度やり直すことを何回しただろうな。


父もその度に「いい加減、できないことに手を出すな。頼まれてもいないくせに。」と母には言ってくれるのだが、「私(母)が(裁縫をしないなら)恥をかくでしょ」と怒り出す。


いや、別に母親ができないから娘の私本人が裾をなおしたりボタンをつける。

それを誰かに「お母さんがやってくれないから、私がやったの!」とかアピールでもすると思っていたのだろうか。

恥ずかしいから逆に言わない。

発想が狂っているなと思っていた。

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