第1話 美しい人である
私は母には似ていない。
父にそっくりだと小さい頃から言われて育っている。
父の実家近くを歩いていると、「〇〇ちゃんの娘さんだね」とすぐわかるくらいによく似ているそうだ。
今も父と一緒にいると「娘さんですね」と言われる。
母はどこでも美人だと評判になる人だ。
良くいえば、宝塚の娘役みたいな大人しい清楚な感じ。
友達にも「あなたのお母さんは美人ね」
学校の先生にも「あなたのお母さんは綺麗だね」
買い物に行っても口のうまいお店の人なんかには
「奥さんキレイだね、サービスしておくね」と言われていた。
謙遜しながらにっこり。
母は自分が美人であることが唯一のプライドなのだ。
そんなことないですよと言いながら、家でこんなこと言われたのよと
にやついて話す姿が嫌いだった。
無視すると殴られるから、「そうなんだ」と一応返事はしておく。
「私、昔からいつもそういうこと言われるの」
何度聞いたことか。鬱陶しい。
私が小学校高学年になって、南方系の顔立ちの父のおかげで
「大きくなったらカッコイイ美人になりそうだね」と言われてから
母の機嫌はみるみる悪くなってきた。
髪を伸ばすことは許されない。
着る洋服に母からは女子らしいかわいらしいものは与えられない。
「あなたには似合わないから」とずっと言っていた。
実際そうであろうが、一度くらい試す権利くらいあっただろうに。
学校の先生や習い事の先生に「かわいくなったね」みたいなことを
お世辞でも言われると、「この子は大人に媚を売る売春婦みたいな子だ」と
裏で酷く叱られた。殴られた。
反対に母に似た妹は、かわいらしい恰好をさせていた。
自分を投影していたのだろう。
私は男子と間違われるくらい短く髪を切られ、洋服はポロシャツにズボンというような恰好をさせられていた。
色もハッキリしたもので、パステルカラーなんてとんでもない。
女子だと思われないと母に文句を言ったこともあるが、「いいじゃない。それで。」とそれだけ。
スカートやワンピースなどは、祖母や叔母が年一回の帰省の際に私にくれたが、母はいい顔をしなかった。
姿かたちは美しいが、私には醜い人であった。
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