謎の人、それは母

ねここ

(はじめに) どうもおかしいぞと気づく

物心ついた頃から、私は母に愛されていないことがわかっていた。

気分が悪ければ無視をされ、顔を平手打ちされ、髪をつかんで引きずり回す。

連日、「お前なんて産まなければよかった。死ねばいいのに。」と言われたら

ぼんやりしている私でもわかる。

躾ではなく、八つ当たり。

母親というのはこういうものなのかと思っていたら、よそのおうちのお母さんは

みんな優しいし、いろんなことができるとわかって動揺した。


夜寝る前にお布団でお母さんから絵本を読んでもらうというような記憶も

私にはない。

誰よりも早く字を覚えて書けるようにしろと、チラシの裏にたくさんひらがなを書かされたことなんかは覚えている。お腹が空いているのに食べさせてもらえずに

チラシの裏にすき間なく書きこみ終わるまで「遅い!」とぶたれたことは忘れない。


そのせいでひらがなは早くに覚えてしまい、読み聞かせをしない母を尻目に

読み聞かせ用に幼稚園で買った本を一人で読んでいた。

読み聞かせをする気はないが、読み聞かせをするいいお母さんのフリをするために

購入したのだろう。綺麗な状態で置きっぱなしだったのを、私が探し出したのだ。

自然と簡単な漢字も読めるようになっていった。


どうも母に好かれていない、大事にされていないことを外部の人に知られると

母だけでなく私にも何か問題があるように思われるのではないかという心配が出てきて、本当の母の姿については、自分の結婚が決まるまで地元の友人にほとんど話したことはない。


保身なんだろう。

母をかばっているのではなく、自分をかばっていたのだ。


すっかり大人になってから、自分の親が自分を傷つけてきたのだと声を上げる人を見て、なんだ今更何をいっているのだ? これまでにわかってるんだろうに今頃言い出すのはおかしいぞという人もいるが、当人はずっと傷ついてきて、それ以上傷つきたくなくて、直視してこなかったり言い出せなかっただけなのだ。


自分が子どもを育ててきてようやく

「あの時の母はやはり間違っていたのだ」と気づくことも多い。

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