2
平安時代の貴族の男たちは蹴鞠をして楽しんでおり、その中に納言が交じって戯れていた。
そこへ光君という美男が通りかかる。彼は男共に混じって戯れる彼女に疑問に思い、彼女に声をかける。
「御主は女子であろう」
「これは光君殿、こんにちは」
「女子がそのような遊びをするものでない」
光君は注意する。
「はい、たしかにそうですが人生は一度っきりなので楽しまないと損です」
納言は引き続き、男たちと蹴鞠を楽しむ。
光君には妻がいるにも関わらず納言に好いているようだ。
蹴鞠を楽しんだ納言は自分の邸に戻ると農民が着る服に着替えると邸を飛び出して平安京を出ていく。
納言は村外れの畑で作業する世一という若い男のもとに向かう。
「世一」
「納言!また来たんか?」
この世一は納言が貴族である事実を唯一知っている幼馴染みである。
「手伝いに来た」
「貴族のお前に手伝わせることなんてねえよ!」
納言は小屋に立てかけてあった鍬を掴む。
「貴族は貴族で忙しいだろう」
「世一と仕事したい」
納言の言葉に世一は頬を赤く染める。
「勝手にしろ!」
仕事が一段落すると納言と世一は小屋の隅に座って茶を飲む。
「おめぇは本当に貴族の娘か?」
「私が手伝って迷惑?」
「べっ、別に迷惑って訳じゃない」
世一はまた頬を赤く染めて茶を飲む。
「世一は好きな人はいるの?」
世一は茶を吹き出す。
「いきなり何の質問をするっ!」
「夜這いしてまで好きな人はいるのかと思った」
「わしは恋に興味はない。そうゆうお前はどうじゃ?」
「世一じゃ」
納言は世一を見る。
世一は立ち上がる。
「おめぇは早くに帰れ。近くまで送ってやる」
照れる世一と共に納言は邸に戻る。
邸に戻ると丁度そこへ光君が客として参っていた。
「どこかへお出かけでしたか?」
「納言。何処に行っていた?」
「貴女は十六なのよ。もう少し貴族らしい振る舞いは出来ないの?」
父と母もいる。
「申し訳ありませんでした」
「光君殿はお前を妻にすると申しておる」
父の言葉に納言は一瞬理解できなかった。
「何をおっしゃってるのでしょう?」
「決めるのはお前次第だ」
父と母は毎日世一の処に行くのを知っていた。
「一晩考えさせて貰っても構いませんか?」
「私は構いません」
光君は優しく微笑んで告げる。
その晩。
納言は月を眺めている。
(光君はたしかに良い御方かもしれぬがあの人には葵様がおられる。私は人に恨まれることはしとぅない。そういえば式部は私を妬んでおったなぁ。人はいつの間にか恨まれる生物なのかもしれない)
翌日。
納言は光君に会いに行くと結婚の申し出を断る。
「私では不足か?」
光君は納言に問いかける。
「いえ、そういう訳ではありません。光君殿は身分も容姿も文武もあって美しい妻葵様も姿っておられるでしょう」
「それなら何故?私の求婚を断ったのは御主が初めてである」
「私は葵様のようになれませぬ。ですからどうか彼女を大事になさってください」
納言は深く頭を下げる。
光君はその納言の姿にどこか聖女に見えた。
光君の邸を後にした納言は自分の部に戻ると世一が立っている。
「世一。こんな処にいて平気なの?」
「おめぇの親父さんとお袋さんは知ってるから平気だろう。それより結婚を断ってどうすんだ!まさか貴族を捨てて農民にでもなるのか?」
「私は世一が傍にいてくれるなら構わない」
「わしはおめぇにいつも唐突で迷惑してんだ!わしは身分すらない」
世一は納言に貴族のまま幸せな生涯を願って敢えてきつく言ってしまう。
「私は世一のことが好きじゃ」
納言の告白に世一は溜め息をつく。
「障りだけしか知らないお前に農民なんて務まるはずがないじゃろう。わしはお前を不幸な生涯を歩ませたくない」
納言は世一の手を握る。
「私は悔いのある生き方をしとぅない」
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