第3話 「追いかける」
上能:おい、深瀬!! 戻れよ! 深瀬!!
三宅:神弥! ダメだよ、戻ったら!!
上能:離せよ! 深瀬を「見殺し」にするのかよ!?
三宅:僕らじゃ太刀打ちできないよ!! 逃げるしか──。
式町:大丈夫、玲?!
綿中:う、うん、私は大丈夫。でも、ゆ、「結実」と津田くんが。
式町:──え?
三宅:神弥! 行こう。戻ったら、君まで。
式町:三宅くん! 上能くん!! 早く!
上能:(舌打ち)クソォ!!
綿中:第三話「追いかける」
三宅:(荒い息)
式町:(荒い息)
綿中:(泣きながら)江里夏。結実。
上能:うるせぇ、泣くな、綿中。お前の声は耳障りだ。
綿中:ご、ごめん。
式町:なんでそんなこと言うの、上能くん!! 意味分かんない。やめてよ。
三宅:津田と佐熊と深瀬、か。
上能:おい、死んだ奴らを数えんじゃねぇよ、気味悪ぃ。なんなら、お前も死ん
じまえば良かったのにな、柊真。
三宅:(少し笑って)冗談が過ぎるよ、神弥。
綿中:「死んだ」とか言わないで! まだ、まだ分かんないだから!! 生きて
るかもしれないんだよ?!
式町:そうだよ! 勝手に死んだことにしないでよ! 今頃、国の人が助け
に──!
上能:はぁ? だったら、なんで俺らはこんな倉庫みてぇなとこに隠れなきゃな
んねぇんだよ! 分かってんだろ、そんなのは来ねぇって!
綿中:それは。
上能:俺らは死んだも同然なんだよ!! それもこれも、何もかもお前が悪いんだ
からな、綿中。
綿中:──え。
上能:お前が──。
式町:もう、やめてよ!!
三宅:神弥。僕らだけでも助かって良かったんだ。生き残った僕らがケンカなん
てしてる場合じゃないでしょ? むしろ、協力しないと、ね?
上能:(鼻であしらう)協力なんてな、口先で言うのは簡単なんだよ。言うのは
な。
綿中:ありがとう、万耶。庇ってくれて。
式町:ううん。落ち着いて。ゆっくりでいいから。
綿中:うん。分かった。(嗚咽しながら)
上能:俺はこんな奴らとは協力できなそうだ。柊真、こんな奴らは置いて、俺と
二人で逃げねぇか? その方が生き残れる可能性は高いぞ? どうだ?
綿中:上能くん? な、何を言って。
式町:三宅くんが今「協力しなきゃ」って言ったところだよ?! 何聞いてたの?!
この中で一番協調性に欠けてるのは上能くんなんじゃないの?!
上能:はぁ? うるせぇよ!! お前らなんかと協──!
三宅:やめて。
上能:なんだよ、柊真。お前も綿中らの肩を持つってのか? ああ?
三宅:あれは誰も悪くなかったと思う。綿中さんはもちろん、神弥も、僕も式町
さんも、ここにいる「みんな」。ただ、タイミングが悪かったんだよ。
式町:三宅くん。
上能:タイミングが悪かった、だあ?! タイミングだけで三人も死ぬわけねぇだ
ろ!? あの状況はどう考えても、コイツが悪いだろうがよ!!
綿中:え、な、なんで?! だ、だってあの時は頭が真っ白になって、どうしてい
いか分からなくなったんだもん!! 私だって、考えて──!
上能:考えて考えてそれかよ!! パニックに乗じて俺らのダチを殺したんだよな
あ、お前は!! 俺はこんな「殺人者」とは協力なんてできねぇぞ、柊真!!
お前もそう思ってんだろ?! 「友達なんかじゃねぇ」って!
綿中:そ、そんなこと言われても、(涙ぐんで)私だって、あんな。あんな!
式町:あ、あれは! 玲は悪くない! ね? 玲は悪くないから!! たまたまゾ
ンビが──!
上能:だから、言ってんだろ! たまたまゾンビが現れただけで、三人も──。
三宅:もう、やめろよ! いつまで、グチグチグチグチ言ってんだよ!! そんな
こと言ったって、現状は変わんないだろ!!
綿中:(泣きながら)ごめんなさい。でも、私が足手まといだってことも、変わ
んないし。
三宅:綿中さんも、もういいよ。
綿中:でも──。
三宅:僕も悪いんだ。
綿中:え、三宅くんは──。
上能:はぁ? お前は何も悪くねぇだろ。
三宅:いや、あの時、僕が戦況を見誤って前に出たのがそもそもいけなかったん
だ。後ろに残って、後ろを援護するべきだったんだ。
上能:いや、違ぇ! 前には柊真の援護が必要だったろ?! お前がいなきゃ
先頭は全滅だったんだぞ?! 俺と式町が生きてられてんのは、お前のおか
げだろ?!
式町:そうだよ!! 私は三宅くんに助けられたようなものなんだから、三宅くん
が自分を責めるなんて、おかしいよ!
上能:それに、後ろには津田と佐熊がいて、戦力的にも耐えられるはずだった。
それなのに、なぁ、綿中?
綿中:(怯えたように)し、知らないよ。
式町:玲は悪くないって! 上能くんだって何もできずにここまで逃げてきたん
じゃん!! そんなに言うなら、上能くんがみんなを助けてあげればよかっ
たんでしょ?!
上能:はぁ?! それはお前にも言えんだろ!! そんなことで張り合ってくんじゃ
ねぇよ!!
式町:なら、玲にもそんなこと言わないで! 馬鹿じゃないの?!
三宅:綿中さん、綿中さんは意図的にあんなことしたわけじゃないんだよね?
綿中:そ、そんな、違う!! 絶対に違う! 本当! 私はただ怖くて、一心不乱
に逃げて、それだけ!! 本当にそれだけ!! それで、気付いたら。
上能:そいつは嘘だな。お前は津田を突き飛ばして、佐熊を故意に転ばせた。そ
うすりゃあ、自分は助かるって思ったんだろ?! そうだよなぁ?! どうな
んだよ!
綿中:(小さく)ち、違う、もん。私は、私は──。
式町:いつまで玲に粘着するつもりなの?! 気が動転してたんだって、言ってる
じゃん!! もういいでしょ?!
上能:気が動転してたら、人を殺してもいいってのかよ!! 立派な殺人だろうが
よ!!
三宅:綿中さんが「違う」って言ってるんだから! 仲間の言葉を信じようよ、
神弥。その心をまだ僕は失って欲しくないな。
上能:(強い溜め息)アイツらが街を彷徨き始める前から、お前のことは嫌い
だったが、柊真のお人好し加減に免じて、これ以上は何も言わずにいてや
るよ。
綿中:ありがとう、三宅君、万耶。ごめん。
式町:大丈夫だよ、玲。私が上能くんを玲に近寄らせないから、絶対。だから、
安心して。
綿中:え。あ、ありがと──!
式町が抱きしめる
綿中:あ、ああ──(泣き始める)
綿中の泣き声が響く中
三宅:僕らはまだこんな場所でくたばってる場合じゃない。津田と佐熊と深
瀬、この三人のためにも「みんな」で生き残らなきゃいけないんだよ。
上能:ふん。三人のためったって、碌な協力関係もでき上がっちゃいねぇんだ
ぞ? どうやって生き残るつもりなんだよ、ここから。
式町:それは上能くんが勝手にその「協力関係」を拒絶してるからしょ? 私は
三宅くんの力も上能くんの力も必要だと思ってるよ。もちろん、私達も
頑張らなくちゃいけない、って。「協力」って、そういうことじゃない?
上能:そうだとしても、責任の押しつけは御免だ。俺はそれでなくても、もう疲
れてんだよ。
綿中:私も頑張るよ。つ、次、アレと遭遇するようなことがあったら、私が最前
線に出るから。
三宅:──え?
綿中:で、アレを私が引きつけている間にみんなで逃げて。そしたら、津田君
や結実、江里夏の分も──。
三宅:ちょっと!!
綿中:──あ。
三宅:何言ってるの、綿中さん?
綿中:え? 何って、私も「みんな」が生き残る方法を考えて。
式町:「みんな」が生き残る、方法?
綿中:そう。次は私が「みんな」を守らなきゃ、償いきれないよ。だって、
私──。
上能:ほらな!? だから、「協力」なんてできねぇって言ってんだ、柊真!!
分かんだろ?! 俺はコイツが大嫌いだ!! なんで、お前が生き残ったんだ
よ、なぁ!! 優也や深瀬、佐熊が生き残った方が、現状は良かったな!
そう思うだろ、柊真!
三宅:神弥。
綿中:だって、──。
上能:「だって」、何だ?! また、言い訳か?! そうやって俺らまで殺すのか?!
式町:上能くん!! もう玲のこと責めないって、さっき約束したじゃん!
上能:はぁ?! コイツが環を乱すからだろ!?
綿中:(少しずつ力の入って)私だってその時その時、ずっと真剣に考えて、考
えて、考えてるよ! でも、分からないんだから仕方ないじゃん!! (少
し落ち着いて)あの時も、「逃げなきゃ」って思ったら、それ以外分かん
なくなって。(強く)上能くんほど私、頭良くないから!! 馬鹿でごめん
なさい!! ごめんなさい! (涙声になり)ごめんなさい。
三宅:綿中さん。
上能:(溜め息)
式町:上能くん、最低。なんで、お前は生き残ったの?
上能:はあ?
三宅:違うよ、式町さん、綿中さん。
式町:何が違うって言うの? 人をここまで追い詰めて、陥れて。これが最低じ
ゃないなら、何なの? それとも、今までのこと全部冗談だって? だと
しても、笑えないけど。
三宅:そうじゃなくて、僕はさっき「みんな」で生き残ろう、って話したんだ。
そう、この「四人」でね。なのに、綿中さんの言う「みんな」には綿中さ
んがいなかった。まるで、自分以外のことを指す「みんな」だったん
だ。だから、神弥は怒った。まぁ、神弥は言葉遣いが怖いから、誤解はあ
るかもしれないけど。
式町:え、それじゃあ。
上能:あーあ、余計なこと言うんじゃねぇよ、柊真。俺は腹が立ったから怒鳴っ
ただけだ。コイツが嫌いだってのは変わりねぇ。なんで生き残ってるのか
疑問だってのは本音だからな。
三宅:三人のためにも「みんな」で生きるって決めたんだ。誰かを犠牲にし
て、誰かが助かるなんてダメだ。僕と神弥は何としてでも二人を守る。だ
から 「死ぬ」なんて言わないでね? 「みんな」で生きよう? ね、綿
中さん?
綿中:(長めのむせび泣き)三宅くん。
上能:泣き虫はチームに要らねぇぞ? 戦いの邪魔だ。
式町:上能くん! 同じチームなんだから、言葉遣いも考えてよ! チームに上
下関係なんてないでしょ?!
三宅:そうだね。今は綿中さんも心の整理が着いてないんだから、大目に見てあ
げてよ、神弥。
上能:はぁ? (溜め息)お前、本っ当にお人好しだよな。いつか後悔する
ぞ。
しばらく経って
上能:ほら、これからどうすんだよ、柊真。ずっとこのまま、こんな倉庫に閉じ
篭ってるつもりか?
綿中:そ、その方が、安全なんじゃないの? (鼻をすする)扉も閉まるし。
式町:大丈夫、玲?
綿中:え? あ、う、うん。
三宅:いや、確かにここに篭ってれば安全だとは思う。だけど、ここは密閉され
た空間だし、窓もないでしょ?
式町:ほんとだ。ないね、窓。
上能:それが、どうしたってんだよ。
三宅:この倉庫、よく見たら出入口もそこの一つしかないし、つまり、どういう
ことか分かるよね?
綿中:今が何時なのかとかが分からない?
式町:密室だと空気感染の確率が高くなる、とか?
綿中:そもそも「空気感染」なの?
式町:あ、そっか。
上能:この倉庫の奥に追い込まれたら、死ぬしかねぇ。袋小路ってことか?
三宅:そう。
式町:な、なるほど。
綿中:え、それじゃあ、外の方が安全だって言うの? あんなのがいるところ
が?
三宅:ここより数倍は安全だと思うよ。逃げる方法や方向がたくさんあるし、い
ざとなれば。だから、ここは神弥の言うように「袋小路」なんだよ。
式町:で、でも、今日くらいはここにいてもいいんじゃない? もう夜も遅い
し、動くのは危ないと思う。
三宅:うーん。それもそうだね。みんな肉体的にも精神的にも疲れてるだろうか
ら、うん。じゃあ、今日はここで休もう。
式町:ありがとう、三宅くん。
上能:そんじゃあ、この倉庫は内側からでも鍵を閉められるようになってるよう
だが、念のためだ、俺はそこで寝る。退け、邪魔だ、柊真。
三宅:ああ、ごめん。
上能:よっこらせ、っと。
綿中:じゃあ、私はここにする。奥の方が安全そうだし、それにちょっと暖かい
から。いいよね、万耶? お願い。
式町:分かった。じゃあ、出入口付近は上能くんと三宅くんに任せて、私と玲は
棚を挟んだ奥で寝ることにしよっか。男女、分かれてる方が何かと都合が
いいでしょ?
綿中:何かって?
上能:好都合でしかねぇ。奥へ行ってろ。そんで、俺に二度とその面を見せる
な。
式町:あのねぇ!!
綿中:万耶! いいよ、相手しなくて! 私はもう大丈夫だから。
三宅:分かったよ、式町さん。奥でゆっくり休んで! それじゃあ、僕は、
──神弥と一緒か。
上能:あぁ? 何だよ。気に食わねぇのか? 色男。
三宅:いや。修学旅行の時みたいだな、って思って。
上能:はぁ? 六年の時の話か?
三宅:うん。あの時は楽しかったよね、怖い話とかして夜遅くまで起きてさ。先
生も混ざってたっけ。
式町:緊張感なさすぎだよ、三宅くん。
綿中:万耶! 万耶はこっちの毛布ね。私こっちだから、二人で並んで寝よ?
なんか、キャンプみたいだね、床に毛布を敷いただけのベッドって。
式町:ちょ、玲まで。キャンプって。
綿中:え? 何?
式町:ううん。なんでもない! 寝よっか!! あ、恋バナでもする?
綿中:え、恋バナ?! 万耶、好きな人いるの?! 誰、誰? 同じクラスの子?
式町:えー? 先、玲から話してよ!
綿中:なんで!? 話振ったのそっちでしょ? 万耶からだって!
入口の方では
上能:(小声)三人も欠けた、穴だらけのチームだってのに、よく騒ぐな。深
瀬、お前だけはまだ──。
三宅:どうしたの、神弥?
上能:あ? いや、何でもねぇよ。柊真、お前は早く寝ろ。
三宅:え? 僕もここで見張りを──。
上能:いや、夜中の三時にお前を起こす。それまでは寝て、体力を温存して
ろ。俺が見張ってる。で、三時になったら俺と代わって、朝まで見張れ。
その時、思う存分見張らしてやるから。
三宅:な、なるほど、交代制ってことね。分かった。ありがとう。何かあったら
すぐ呼んで。
上能:分かった。あ、寝る前にそこの水取ってくれ。
三宅:え、これ?
上能:それ。
三宅:はい、どーぞ。
上能:サンキュー。
三宅:夜勤頑張ってね。
綿中:ねぇ、三宅くん、電気はどうする? 消しておいた方がいいかな?
式町:あ、話脱線させた!
上能:あー、悪かったな。消してやるよ。
入口付近のスイッチを押す
綿中:え、ちょ、ま、真っ暗!!
式町:なんで、真っ暗にするの?! 中間くらいのないの?! オレンジっぽい灯
り!!
三宅:灯りを点けてると見付けられ兼ねないから、完全に消しておくのがいいん
だよ。あ、ほら、綿中さんの近くに懐中電灯があるよ。それを点けるくら
いなら、大丈夫だから、それ使って。
式町:え、どこ?
綿中:わ、分かった。ありがとう、三宅くん。それじゃあ、おやすみ。
三宅:おやすみ、綿中さん、式町さん。
式町:お、おやすみ。
綿中:あれ? 万耶の好きな人ってさ。
式町:(誤魔化して)あーあー! おやすみ! 早く寝る!!
上能:うるせぇ!! 騒ぐな!! さっさと寝やがれ!!
綿中:うるさい!!
上能:うるせぇ!!
上能:柊真。おい、柊真! 起きろ! 柊真!
三宅:(寝ぼけながら)う、うーん。どうしたの? もう交代の時間? 早くな
い?
式町:起きて、三宅くん! もう「朝」だよ! 出発の時間だから、起きて!
綿中:起きてないの、三宅くんだけだよー? 移動しなくちゃいけないんだか
ら、早く支度して! ほら!
三宅:え、みんな起きてるの? あれ? 夜中の三時に見張りの交代は? 神弥
は寝てていいよ? あれ?
上能:何寝ぼけたこと言ってんだよ!!
三宅:え? どうなってるの? まだ、そんなに時間は経ってないはず、だよ
ね。見張りは。
上能:あまりにもよく寝てるから、起こさないでやったんだ。ってか、もう
「朝」だっての。外見ろよ。って、ここからじゃ見えねぇか。
式町:四時くらいに私が起きた時、上能くん、ものすごい顔で外見てたから、び
っくりしたよ。三宅くんのこと起こせずにずっと見張りしてたんだって。
綿中:でも、その時に上能くんは仮眠したんでしょ、一応? 万耶に見張り代
わってもらって。
上能:仮眠したって言っても三〇分程度だろうが! 寝たうちに入るかよ。むし
ろ、気分悪ぃ。
三宅:僕が、寝すぎた?
式町:とりあえず起きて、三宅くん! 出発するよ?
三宅:え、あ、あぁ、うん。分かった。
上能:ほらよ、お前の分のカバンだ。持ってろ。中身は食料と水だ。そこの棚に
あった分だけどな。ねぇよりはマシだろ。
三宅:あ、ありがとう。みんなも同じものを持ってるんだね。
式町:うん。みんな自分のカバンを作ったんだ。この倉庫内に似たカバンが四つ
もあったからね。
三宅:そうなんだ。
綿中:よし、それじゃあ、扉開けるよ? 大丈夫?
上能:ちょっと待て、バカ! ゆっくり開けろよ?! 勢いよく開けんじゃねぇ
ぞ? 分かってんだろうな?!
綿中:分かってるよ!! 私そこまでバカじゃないから! ケンカ売ってるの?!
上能:バカには違いねぇだろ!
式町:大丈夫、三宅くん? まだ眠たい?
三宅:え? まぁ、確かにまだちょっと頭は起きてないかも。けど、歩きながら
目を覚ましていくから大丈夫。ありがとう、式町さん。心配してくれて。
式町:え? あ、うん、こちらこそ。じゃあ、行こっか、三宅くん。
三宅:うん。
外へ出て
式町:それにしても、町の人達はどこに行ったんだろうね? 昨日まではたくさ
んいたはずなのに。何か、地球じゃないみたい。
上能:どこに行ったかって、どうせ逃げたんだろ? あんなのがウヨウヨいる町
に残ろうと思う方がどうかしてるってもんだ。
綿中:逃げたって、どこに? この近くで逃げられる避難所なんてあったっけ?
確か、高校の体育館は避難所だった気がするけど。
式町:それは災害時のでしょ? ゾンビは災害とは違うよ。
綿中:うん。ただの害だね。
三宅:確か、駐屯地があるんじゃなかったかな? よくヘリコプターとか飛んで
るみたいだし、近くだった気がするけど。
綿中:歩いて行ける距離なの? 私達もそこ目指してるの?
上能:行けねぇ距離じゃねぇだろうからな。足を動かしゃ着くだろ。ごちゃごち
ゃ言える体力があるんなら、歩け。昼前には着きたいからな。
綿中:だから、ちゃんと歩いてます!! なんで、そんなに上から目線で言ってく
るの?! 「上能」だから?
式町:玲! あんまり反応すると、またケンカになるからやめて。リラックス!
上能:ま、昼前とは言っても、襲われなければの話だからな。
三宅:ねぇ、みんな。
式町:ん?
上能:あぁ?
綿中:どうしたの、三宅くん?
三宅:ちょっと、聞きたいことがあるんだけど。
式町:うん。
三宅:「平和」になったらさ、何がしたい?
式町:み、三宅くん? (苦笑しながら)ど、どうしたの、急に。こんな時に
そんな話。
上能:それ聞いて、どうするつもりなんだよ。人の考えをバカにでもしたいって
か?
三宅:え? いや、聞いてみたくなっただけで──。
綿中:私はみんなで遊びたい。それだけかな。もう一回みんなで集まって、全力
で遊びたいなぁ。カラオケもいいし、放課後に集まって話すだけでもい
い。もちろん、そこには三人はもちろん、私もいて、「みんな」笑って
る。
式町:私もみんなで遊びたいな。ただ笑い合ってた昨日、一昨日みたいになれた
ら。別にそれ以上は望まないかな。普段通り、いつも通り。それが嬉し
い。
綿中:そうだよね。「みんな」がいてくれれば。
式町:でも、「みんな」集まれるかな。私、「みんな」は集まれない気がして。
誰かが欠けて、心から笑えないんじゃないか、って、そう思う。
上能:何言ってんだお前。そんなの、呼びゃ全員集まるだろ? 一人でも欠けた
ことあるかよ、「七人」。
三宅:集まらないよ、多分。誰かがいなくなってる。
上能:なんでだよ。仲間を信じられねぇのか?
三宅:分からない。でも、そんな気がする。上手く説明できないけど。
綿中:三宅くん。
式町:そう言う上能くんはどうなの? 元に戻ったらまず何がしたいとか、どう
なりたいとか。
上能:俺は今と何も変わるつもりはねぇよ、別に。特にしたいこともねぇし、こ
うなりたいとかも思わねぇから。何不自由なく生きてけるんなら、俺はそ
れでいい。特別な何かなんてのはいらねぇな。今のままでもいいしな。
三宅:神弥。
綿中:意外とちゃんとしてるんだね、上能くん。自分の意見があって。まぁ、自
分の意見はあるか。
上能:あぁ?! お前には言われたくねぇな!! お前に言われるとなんかこう、無
性に腹立つ! お前よりは絶っっ対にちゃんとしてるし、現実的だと思っ
てるが?!
綿中:え?! ほ、褒めたんだけど?! なんで怒られてるの?
式町:ちょっと、こんなところでケンカしないでってば!! 大声で叫んだ
ら。
綿中:大丈夫だよ、万耶。もう誰もいないし、近所迷惑とかにもならないから!
式町:いや、そういうことじゃなくて。
上能:(嘲笑)ふ。お前も叫んでみればいいじゃねぇか、式町。お前も「叫びた
いこと」の一つや二つくらいあんだろ?
式町:え、え? 叫びたいこと?
三宅:ちょっと、何言ってるんだ、神弥。
上能:お前もだ、柊真。お前は特に「叫ばなきゃならねぇこと」があるんじゃね
ぇのか?
三宅:え、なんで僕まで? いや、僕は別に叫びたいことなんて──。
綿中:三宅くんってほら、いつも何か鬱憤が溜まってそうな顔してるから、発散
になって丁度いいんじゃない? 叫んでみたら? こんな機会、もうない
と思うし。ほら、誰も聞いてない、私たちだけの町だよ?
上能:柊真が叫ばねぇなら、式町が叫ぶぞ? な、式町?
式町:なんで?!
三宅:あーー、僕は、いいかな、叫ばなくて。
綿中:じゃあ、「まず」は万耶からだね! ほら!
式町:ちょっと、なんで私が?! 勝手に話進めないでって!! 別に私は今したい
なんて言ってないんだけど!!
上能:文句言うなよ、うるせぇな。たった「一言」柊真に言うだけでガキみたい
にごねてんじゃねぇよ。
式町:はぁ?! ごねてるわけじゃない!! 玲も何とか言ってよ!!
三宅:一言って、何?!
綿中:え、三宅くんは気付いてないの?! 万耶のこと。
三宅:え? 式町さんのこと?
式町:ちょっと、玲!! それは。
綿中:万耶は──。
式町:待って、待って、待って!!
式町:自分で、言うから。
三宅:式町、さん?
式町:(深呼吸)えっと、三宅くん。あの、私、三宅くんのことが好き。えっ
と、いつも、誰かのことを気にかけてて、先頭を走ってくれる三宅くんの
ことが、好き! わ、私と、私と!! つ、付き合ってください!! お願い
します!!
上能:式町。
綿中:よく言った、万耶!
三宅:え? 僕のことが、好き、なの? あっと。
式町:うん。
三宅:な、なんで? よく分からないんだけど。
式町:え、なんで、って。それは。
上能:好きになるのに、理由なんかあるかよ!! お前、ケンカ売ってんのか、式
町によ。お前がテニスを好きになった理由、あんのかよ。
三宅:それは、昔からしてたから。
上能:ずっと自分の近くにあったから好きになったんだったら、それは好きにな
る理由としては不十分だ。自分が分からねぇことを人に押し付けてんじゃ
ねぇよ。
三宅:いや、そうだけど。
綿中:そうだよ! 早く、万耶のに答えてあげてよ! どうするの?! 万耶の
こと、好きなの、嫌いなの? どっちなの?! 早く!
三宅:そ、そんなこと、急に言われても。なんで、今なの? 急すぎるって。
ぼ、僕は。
式町:三宅くん。
三宅:僕は「誰も守れない」よ。深瀬や佐熊、津田も守れなかったし、僕が式町
さんを好きになる資格はないよ、きっと。好きになって、そばにいたっ
て、迷惑なだけだよ。
綿中:資格? 好きになるのに「資格」が必要だなんて、聞いたことないけど。
上能:律儀にも程があると思うぞ。好きになる「理由」とか、好きになる「資
格」とか。お前、何様なんだよ、柊真。
式町:なら、私「は」守ってみせてよ。
三宅:え。
式町:私一人守ることくらい、三宅くんならできるんでしょ? ね?
三宅:え、いや。あの。
式町:「できる」の!
三宅:え、でも。
上能:どうするんだ?! ハッキリしろよ!! 優柔不断なやつは嫌われんだよ!!
守んのか守らねぇのか、今決めろ! 今だ!!
綿中:上能くん、急かしちゃダメだって! 三宅くんの心からの答えを待たな
きゃ。
上能:だからって、答えねぇのは違うだろ!! 他人からの期待ってのは答えるも
んだろ? 違うのか?!
綿中:そうかもしれないけど。
三宅:わ、分かった。守るよ。
式町:え。ほんと、に?
三宅:守るよ。絶対に、守る。僕も、その、(小声)す、好きだから、さ。式町
さんのこと。
式町:え、(小声)あ、ありがとう、ございます。
上能:あああ?! なんだって?! 小せぇ声で喋んじゃねぇよ! 聞こえねぇだ
ろ?! あー、なんだってこうやりにくいチームになっちまうんだろーー
なぁ!! お前ら! 俺の足手まといになったら置いてっからな!!
三宅:あ、うん。(笑いながら)わ、分かったよ。
上能:笑うな! 気持ち悪ぃな!!
三宅:え、ええ?
綿中:おめでとう、万耶!!
式町:え、う、うん。ありがとう、玲。でも、三宅くんにとっては重荷になっ
ちゃったかも、私のこと。
綿中:大丈夫だよ! 三宅くんに限ってそんなことはないと思うよ? 絶対に守
ってくれるよ。
式町:そうかなぁ。
上能:おい! 女子会は避難所に着いてからにしろ、バカ共!! まずは足を動か
せ! 歩け!! とっととな!!
式町:分かってるよ、バカ!!
綿中:バカはそっちでしょ、バカグヤ!!
上能:あぁ?! 気安く名前呼んでんじゃねぇよ!! 殺されてぇのか?! いや、綿
中は殺さなきゃならねぇことがあったような気がするな!!
三宅:ケンカも避難所に着いてからにしようよ、神弥。そこでなら、僕も参戦す
るよ?
上能:は? 二度とするかよ、こんな下らねぇケンカ。行くぞ! まだここはゾ
ンビがうろついてる町の中だってこと忘れんなよな。
三宅:──ゾンビ。そうだ、ゾンビが──。
式町:あの、み、三宅くん!
三宅:──あ、何?
式町:絶対じゃなくていいからね。その、私を守るっていうの。重荷になっちゃ
ったかもしれないから。
三宅:大丈夫だよ。守るからには、絶対に守るから。
式町:え、(照れながら)う、うん。分かった。
三宅:ほら、行こ──。
上能:柊真!! 大変だ!! 周りを見ろ!!
三宅:え、神弥? 周り?
綿中:ゾンビに囲まれてるの!! どうしよう!! このままじゃ、私たち全員食べ
られるよ!!
式町:え、囲まれ、てる? なんで?
上能:お前が大声なんて出すからだろ、式町!!
式町:え、私が? だって、それはみんなが。
三宅:式町さんは悪くないよ! 僕が悪いんだ。とりあえず、行動しよう。「同
じこと」は繰り返しちゃダメだ!! 走ろう!!
綿中:走るって言っても、どうするの?! 囲まれてるんだよ?! もう逃げ場なん
て!!
三宅:「みんな」で助かるんだって約束しただろ! 絶対に助かるんだよ!! ほ
ら、走って!! 僕らはもうこれ以上、欠けちゃいけないんだ!!
上能:おい。待てよ、柊真!! そっちにもゾンビの大群がいるんだ!! おい、柊
真!! 置いてくなよ、柊真!!
綿中:三宅くん!! 待って!! そっちは危ないの!
式町:三宅くん!! 私だけは守ってくれるんじゃなかったの?! ねぇ、柊真!!
柊真!!
三宅:あれ? この感覚、どこかで。
三宅:式町さん? あれ、だんだん遠くなって。
上能:ゾンビ映画にありそうなシーン
上能:(小声で)柊真。おい、柊真! 起きろ、柊真! 柊真!!
三宅:ん、んん? どうしたの? 見張りの交──。
上能:(小声で)シッ! 声がデケェんだよ、バカ!! 状況考えろ!!
三宅:え? 状況?
上能:(小声で)よく聞けよ? 扉越しにだが、小さく悲鳴のようなもんが聞こ
えた。アイツら、近くまで来てるかもしれねぇ。俺らだけでも──。
式町:どうしたの? ゾンビ?
上能:し、式町、起きてたのか。ちょうどいい。お前だけなら──。
綿中:起きてたんじゃなくて、上能くんの声で起きたんだって。緊張と恐怖で深
くなんか眠れないし。で? 何の話をしてたの?
上能:──。(溜め息)柊真に聞けよ。俺は疲れてんだ。
三宅:えっと、外から人の叫ぶような声が聞こえた、ということらしいんだけ
ど。
綿中:叫ぶ声? それって、
三宅:んー。確かに、神弥の聞いたのが悲鳴だったとすると、ゾンビが近くまで
来てると考えても良いような気がする。でも、そうじゃなかった時のこと
も考えると、まだここにいた方がいいような気もする。
上能:優柔不断だな。
三宅:え、う、うん。
綿中:外はまだ暗いし、逃げるには悪条件すぎると思うよ? かえって危険が
多くなるんじゃないかな?
三宅:そうだね。こんな時間に外でゾンビと遭遇しようものなら、それこそ全滅
は避けられないよ。暗視ゴーグルでもあれば話は別なんだけど、そんなも
の、こんな倉庫にはなかったよね?
綿中:懐中電灯なら。
式町:全滅は誇張しすぎじゃないかな、三宅くん。
上能:息を潜めてここに残るか、危険を顧みずに安地を探して飛び出すかだ。二
つに一つだ。結局どうするんだよ、柊真。
綿中:でも、今はここが安地なんでしょ? そりゃあ、窓はないし、出入口も一
つで危険なところもあるけど、入ってこられないようにすれば。
三宅:そうだね。でも、もっと安全な場所が外にあるなら、そっちに移動する
方が──。うーん。
式町:三宅くん? 安全な場所なんてゾンビがいる限りないんじゃない? 私は
安全を確認するためにも、一回外に出てみるべきだと思う。いざとなれ
ば、そのまま逃げられるわけだし。
上能:柊真。悪いが、俺も式町と同じ意見だ。いつまでも同じ場所に留まるより
は、移動しながら、それこそ転々としてその場その場を凌ぐ方が賢明だと
思うぞ。
綿中:え、ってことは今からこの真っ暗闇の中を四人で逃げるってこと?
上能:懐中電灯があるじゃねぇか。
綿中:でも、この一つだけ──。
上能:ねぇよりマシだろうが。先頭が持ってりゃ、先導できんだろうし、問題ね
ぇだろ。
三宅:ごめんなんだけど、僕はまだ様子を見るべきだと思うんだ。
三宅:ゾンビが外にどれくらいいるかも分からないし、無防備で飛び出すのはあ
まりにも危険すぎるよ。綿中さんが言うように、光も少ないし、もし、ゾ
ンビが群れでいた時には勝ち目がないよ、僕らには。
式町:でも、私は今のうちに距離を取れるなら、取る方がいいと思う。今ここで
この場所が見つかって、倉庫を取り囲まれて耐久戦になったとしたら、人
間とゾンビ、勝つのはゾンビなんじゃないかな?
三宅:それは確かに。ここにある食料だけで四人がどこまで生き延びられるかな
んて、分からないよね。
綿中:私はまだここに残って体勢を整えるべきだと思う! 今、目前まで危険が
迫ってるわけじゃないんだから、急いで飛び出すよりは必要なものをまと
めたりした方が──。
上能:お前の提案は宛にならない。それに、様子を見たとして、その最中にここ
が襲撃されたら、柊真はどうするつもりなんだ? 責任取れんのか、俺ら
の命。
三宅:せ、責任って。それは神弥にも言えるよ。もし、ここを今すぐ飛び出して
全滅したらどうするのさ。
式町:結局、五分五分ってことだよね。どっちが正解かなんて分からないってこ
となんだったら。
三宅:いや、ここには少し武器になりそうなものもある。「この前」よりは充実
していると思うし、それなりに策は講じられるんじゃないかな? それ
に、みんなの士気も──。
上能:シッ! 悲鳴が少し近くなったぞ。襲われてるのはグループかもしれねぇ
な。複数の人の声が聞こえた気がしたが。
綿中:私、聞こえなかった。
式町:私は聞こえた。三宅くん、やっぱり移動しよう? 誰かが今ゾンビを引き
つけてくれてるんなら、もしかしたら、今が逃げるチャンスなのかもしれ
ないよ?
三宅:そう言われても。様子を伺ってからでも遅くないんじゃないかな。まだこ
こが安全な内はここにいた方がいいよ。それに──。(と言って、式町の
方を見る)
式町:三宅くん、なんで。
上能:(溜め息)だから、安全な場所なんてねぇって言ってんだろ、柊真! 何
で、それが分からねぇんだよ! 大体なぁ!!
綿中:ちょっと上能くん! 声が大きいよ。
上能:(あえて大声で)構うかよ! なぁ、柊真。これはリセットしたり、リス
タートしたりできる「ゲーム」じゃねぇんだよ! 一回きりの選択で全部
が決まる、失敗は許されねぇんだぞ! いつまで、そんな呑気なこと言っ
てやがんだ?! 優也たちのこともあるんだぞ?! 忘れたわけじゃねぇんだ
ろ?! 「みんな」で生きるって言い出したのはお前だろうが!! 「みん
な」が生き残れる選択をしろよ!!
三宅:神弥──。
綿中:そんな大っきい声を出したら、ゾンビに──。
上能:ゾンビに気付かれちまうって言いてぇのかぁ?! それがどうしたんだよ!!
もし、気付かれたんだったら、「移動」すりゃいいだけじゃねぇか!! 俺
の声が大きかったことで、選択肢が一つ消えて、進みやすくなるんなら、
良かったじゃねぇか、なぁ、柊真?!
三宅:神弥は昔から強引だよね、本当。
上能:(落ち着いて)こうでもしねぇと、お前はいつも動かねぇだろうが。お前
はいつも「優柔不断」だからな。俺が選択肢を消してやらねぇと。
式町:い、移動してくれる気になったの、三宅くん?
三宅:うん。というか、もうここには居られないからね。ほら、神弥が大声で騒
ぐし、もしかしたら見つかったかもしれないから
上能:俺のせいじゃねぇだろ! 俺らの環を乱す優柔不断な「リーダー」がいた
からだ。
綿中:せ、折角の安地だったのに。
式町:玲! ここよりも安全な場所が外にはあるはずだから、一緒に探そう?
で、そこに着いたらまた恋バナの続き、話そうよ。そこでなら、私の好き
な人──。
綿中:もし、安全な場所がなかったら? 私たち、死んじゃうかもしれないんだ
よ? 今日が最期になるかもしれないのに──。
式町:玲!! そんな先の知れないことは今考えないの! 「みんな」で生き残る
んだってことだけを考えてみて! 希望を持つの! 絶対助かるよ! だ
って、
式町:三宅くんが守ってくれるから。
三宅:(驚いて)ッ?!
上能:(呆れて)俺は?
綿中:わ、分かった。そうだね。「みんな」、生き残るよね。
式町:うん!!
上能:とりあえず、役に立ちそうなものは持ち出せ。そのリュックに詰め込める
だろ。これを使え。俺は外の様子を見に行く。頼んだぞ、柊真。
三宅:え、僕も行くよ! 中のことは二人に任せて──!
上能:お前はここにいろ! 絶対にだ!
三宅:え、なんで? 外の様子を見るにしても、二人の方がいざと言う時の対応
はできると思うんだけど。
上能:二人もいたら指揮が執れねぇだろうが。「俺のせいでお前に何かあるの
も、お前のせいで俺に何かあるのも、両方嫌なんだよ」俺は。だから、来
るな。ここにいろ。
三宅:──わ、分かった。無理はしないでね、神弥。
上能:あぁ。辺りをグルっと見て回るだけだ。
三宅:これ、はい。懐中電灯。
上能:サンキュー。助かるぜ。
綿中:ここにある賞味期限の保ちそうな食料品はとりあえず詰めてみたけど、こ
れで大丈夫かな? あまり重すぎたら持てないかな?
式町:タオル、これなんかも使えそうだね。というか、どうしてこんなに倉庫に
物が溢れてるんだろうね? まるで、以前にもシェルターとして使われて
たみたい。誰かが避難してたのかな? あ、これ、カイロ?
三宅:実際に使われていたのかもね。シェルターとして。
式町:あ、三宅くん。上能くんは?
三宅:神弥なら、外の様子を見に行ったよ。
式町:一人で?
綿中:ねぇ、万耶?
式町:ん?
綿中:先にここに人がいたんだとしたら、その人達は上手く逃げられたのかな?
死んでないよね。
式町:うーん、見る限りは血液痕とかもないし、逃げられたと思うよ。無事だと
いいね。私たちもその人達の後に続こうよ!
綿中:そうだね! 私達も上手くいくよね。っと、もう入らないかな。案外、こ
のリュック、物詰まらないんだね。見た目大きいのに。生地が厚いのか
な?
三宅:このリュックも使う? まだ一応スペースはあるけど、どう? あと、水
くらいなら入れられるんじゃないかな?
式町:じゃあ、この水とか、数本入れても大丈夫?
三宅:いいよ。
式町:なんか、水分ってもうペットボトルからじゃないと飲むのも怖くない?
綿中:水道水からゾンビに感染しないとも限らないもんね。
式町:そう。
上能:柊真!! 今なら出られるぞ! 周りにはまだゾンビはいねぇみてぇだ!!
急げ!
三宅:分かったよ、神弥!! よし、行こう式町さん、綿中さん!
式町:うん! これ、三宅くんに任せてもいい?
三宅:分かった!
式町:ありがとう!
上能:おい、何やってんだ、アイツは?! 綿中! 早くしろよ!!
式町:え?
綿中:んーー! あれ? ちょっと荷物詰めすぎたかなぁ? 持ち上がら
な──。んーー!!
上能:(舌打ち)馬鹿が! 柊真と式町は先に行け!! 俺が綿中の面倒を見る!
走れ、ボサッとしてんじゃねぇよ!!
三宅:わ、分かった! 走ろう、式町さん!
式町:うん! 上能くんも急いでね!
上能:分かった!
綿中:んー!! あ、上能くん、ごめ──
上能:貸せ! それは俺が持つ! ほら、走れ、バカ野郎が!
綿中:ご、ごめん、上能くん。
上能:うるせぇ! 謝る暇があるなら、さっさと走れ! 荷物はこれだけで十分
だ。お前は「荷物」じゃねぇんだろ?! 俺らは「みんな」で生きるっ
て決めたんだよ!
綿中:うん! ありがとう、上能くん!!
上能:んなこた、いいんだって!! ほら、早く走──な?! おい式町、お前何
してんだよ!! こんなところで止まってねぇで、早く──!
三宅:か、神弥。
上能:柊真まで?! 何してんだよ!!
式町:囲ま、れてるの。
三宅:あの時と、同じだよ。僕らのこと、見てる。今下手に動くと、巻き込まれ
るよ。ゆっくり戻って。体勢を立て直そう。あの扉、鍵、かかるんだよ
ね?
綿中:ま、また。また私のせいで、こんな。ごめんなさい! また私が!
上能:(舌打ち)ったく!! 無能しかいねぇなぁ、このチームはよぉ?! 俺に続
けよ、無能ども!!
三宅:ちょ、神弥! ダメだって、戻って!! 無茶だよ!! 武器なんて──!
上能:オラオラぁ!! 邪魔だ、退け! 人間様が通るぞ、ゾンビども!!
式町:リュックで、蹴散らしてる?
綿中:あ、あの中には確か食料の缶詰が。
三宅:缶詰で重たくなったリュックを利用して殴るなんて、無茶苦茶だよ、神
弥は。でも、綿中さんがたくさん缶詰をリュックに詰めてくれたおかげ
で、この道が開けたんだ。
綿中:私が?
三宅:続こう! 先に走って! 式町さんも!
式町:分かった! 行くよ!
綿中:う、うん!
上能:早くしねぇと、また囲まれちまうぞ!? クソ! 柊真もそのリュックで戦
え!!
三宅:分かってるよ!! (リュックでゾンビを殴りながら)うっ!! 式町さんも
急いで! こっち来るな、ゾンビめ!
式町:ありがとう。
上能:どんだけいんだよ! 邪魔だ! 人間様に平伏せ、ゾンビども!! ゾンビ
は所詮ゾンビ──!
綿中:上能くん!!
上能:しまっ──!
三宅:神弥!! 危ない!!
式町:え? 上能くん。
綿中:上能くん!!
上能:(舌打ち)危ねぇなぁ!? 残念だよなぁ?! 所詮、お前らはゾンビなんだ
よ!! くたばれ、雑魚が!! おらおら!!
綿中:大丈夫?! 上能くん! う、上能くん?
式町:上能くん、そ、その目。
三宅:神弥! お前。
上能:あァ?? 何だよ、目って。ん? あぁ、なるほドナ。さっきの攻撃はフェ
イクだったってわけか。やるじゃネェか、ゾンビのくせして、俺にウイル
スを盛ったってわけか?
三宅:やっぱり、防げてなかった、のか?!
綿中:上能くんはどうなるの?! 私が手間取ったから、私のせいで。どうしよ
う、万耶!
式町:玲のせいじゃないよ!! タイミングが──。
綿中:違う! そんなんじゃない!!
三宅:僕のせいだよ。僕がしっかりと先導しなかったせいだ。ごめん。
綿中:上能くん! 今行くから。ちょっと待って!
上能:俺に近寄ルナ、綿中! 来タら、頭ぶっ飛バスぞ!! ヤメろ!! 来るな
よ!!
綿中:「みんな」で生きるんだって!! 約束したじゃん、上能くん!!
三宅:綿中さん! 離れて!!
式町:玲!!
綿中:(吐血)あ、あれ?
式町:れ、い?
三宅:「触手」だ。あ、あの時と同じ──。
上能:え、こ、コレは、何ダ?
三宅:か、神弥。お前。
上能:ち、違ゥ! コれは俺じゃネェ!! 俺はコンなノ知ラねぇッテ!!
綿中:う、えの、ぐ。
上能の近くに倒れ込む綿中
上能:綿中! しッカリしロ! 綿中ァ! おい!!
式町:上能くんの身体から、触手が。
三宅:津田や深瀬、佐熊を引きずり込んだのと、同じだよ。神弥もゾンビ
に──。
上能:待て! 俺はマだゾンビじャネぇよ!! 柊真、式町。俺は、「ミンナ」と
同じ、で。
三宅:神弥──。
綿中:上能、くん。最後まで、足引っ、張って、ご、めんね?
上能:綿中。
式町:ゾンビが集まって来てる。どうしよう!! 早く、私達だけでも逃げない
と、三宅くん! どうしたの!? 三宅くん!!
三宅:か、神弥を置いていけないよ。
式町:え、そんなこと言ってる場合じゃないよ!! 玲みたいに、私達まで串刺し
にされるかもしれないんだよ?! 逃げなきゃ!!
三宅:(声を張って)神弥はまだゾンビじゃないよ!! 神弥は僕の親友なんだ!!
ゾンビになんてなるもんか! 昔から、神弥は強いんだ!!
式町:待って、ダメ!! 私達が生きなきゃ!! 三宅くん!! 待ってよ!!
上能:あレ? コンな所二、美味ソウな人間が。
綿中:うう、えの、く。やめ、ああ。
三宅:やめろ、神弥! 神弥ァ!!
上能:いっただっきまああああず!!
綿中:(恐怖の)ヒッ?! や、ヤメ。ああああああああああああ!!
式町:上能くん。
綿中:(口から空気だけが漏れるような音)
三宅:式町さん。ここは一人で逃げてくれ。僕が神弥を止める。
上能:ウめぇナァ、美味ぇナァ!! 友達ッてノハウメぇなァ!! 極上ダなァ!!
最高だなァ!!
式町:何言ってるの、三宅くん! 私、一人じゃ逃げられないよ!! 三宅くんも
一緒じゃないと!! お願い、三宅くん!!
三宅:ごねるなよ、式町!! 今は逃げてくれよ!! 後で「追いかける」から!!
式町:イヤだ!!
三宅:式町──。
式町:嘘だ!! 絶対に嘘だもん! 三宅君が来ないなら私もここに残る!! みん
なと一緒に──!!
綿中:(口から血の塊が出る音)
上能:アレぇ? おーイ、綿中ァ? ナンだ、死んジマったノカァ? 流石に顔
ノ半分ナきゃ無理か。カハハ。
三宅:僕は、「式町は守る」って決めたんだ。
式町:え? 何を言って。
三宅:分からないよ!! でも、守んなきゃいけないんだよ!! だから、お願い
だ、式町。逃げてくれよ!! 後で必ず「追いかける」から!! 生きて会う
って約束するから!!
式町:でも。
三宅:式町!!
式町:あ、ああ。(歯を食いしばってから)分かったよ。分かったよ! 分かっ
たよ!!
三宅を振り切って走る
上能:ァ、逃ゲた。
式町:そうだよ。「みんな」なら、生き残ってくれるよね!! 信じてる。信じ
てるもん。三宅くんも玲も、上能くんも、みんな、生きて、もう一度みん
なで「集まれる」って。
三宅:ありがとう、式町。それでいい。全力で逃げてくれ。前を向いて、絶対
に振り返るな。(雰囲気が変わって)フフ。それじゃあ、僕はメインディ
ッシュと行きましょうかねェ?
上能:ト、ゥま。助げ、テ。
三宅:神弥、今までありがとう。僕を信じてくれて。こんな僕ヲさ。(みるみる
皮膚が形を崩していく)
上能:ォ前?!
三宅:じゃあネ、僕の「友達」。絶対に「追いかける」から、フフ。
三宅:「追いかける」完
式町:次回、第四話「君の手の中」
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