第38話 紙の気まぐれ
神の気まぐれとは本当に予測ならないことである。世界を止めるも動かすも自由自在に行う事ができる神は人や魔族にとってとても驚異的な存在に見えるだろう。でも、そうではない。全ての神が人や魔族に危害を加えるわけではないし、争わせようとする訳でもない。
神だってちゃんと自分の意思があるのだ。だから、神自身の都合を優先することだってあるし、神の気まぐれで大きな雷が落ちることだってある。それは神にとって気まぐれかもしれないけど、人は神が人間に対する怒りだと思い込み、魔族は神からの祝福だと思い込むだろう。
住んでいる世界こそ違うものの人間や魔族とそう変わらない思考回路を持っている。
イコール、神は自由気ままで、我儘で、傲慢で、実に呑気な生き物である。
そんな神に対するファルヴァントの怒りはとてつもなく膨れ上がっていた。
何故かだって?そんなの簡単な話です。
「何で元の場所に戻れないんだよ!!!!」
と言う事件が起きているからです。あれからどのくらいこの不気味な場所に止まったかわからないがかなりの時間このままである事は間違いない。この状態が早く終わって欲しいと願う。
紙の束とは随分と場所をとるものだと思う。これは執務室ではなく、一種の書庫状態になっている気がするのは気のせいだろうか?これらの書類の中にはファルヴァント以外に処理できないものも含まれている為、全部処理する事は不可能にしてももう少し量を減らす事はできると思う。
掃除は何故か女性騎士が行ってくれ、食事はクソまずいのを抜きにすれば男性騎士が心を込めて作ってくれている。その為、クロムと晴樹は書類仕事に集中できる。だが、またその状況も良くないのだと思う。書類ばっかり眺めていてもつまらない挙句、時間が経てば経つほど処理効率は悪くなっていく。その気分転換にしていた家事……城の管理を騎士に奪われてしまったのだ。掃除や料理も騎士だって出来ないと困る事もあると思う。料理が出来なければ野宿する時に調理していない肉や薬草……などなど恐ろしいとしか言いようが無い食事になってしまうのだ。
一応、仮でも料理ができるに越した事はない。一方女性陣は各個々の実家で料理や裁縫といった基本的な教養は学ばされていることが多い為男性陣の様にとてもまずい食事になる事はほぼ無い。料理が出来ないメンツが集まったら男性陣とそう変わらない料理だと思うが……
まぁ、城にファルヴァントが居ないだけで随分な損害を受けてしまっている。この状態で人間側に攻められればひとたまりもないが、恐らくそれは無いだろう。てか、あって欲しくない。
一方人間達は上層部の人間達によって会議が開かれていた。
「魔族……魔王はまだ生まれて間もない筈だが、10歳程度の容姿をしている…こんなの前代未聞だ」
「そうですな。異常な事態であることに変わりはない」
「魔王が成長し切る前に葬り去るのがベストだが……」
「今の勇者達では力不足であろうな」
「ふむ。では新たなもの達を召喚し、新たに育て、数で攻めてみてはいかがでしょう?」
「それもいい案だが、それには多大な魔力が必要になる。今のこの状況を考えると更に召喚をするのは得策な意見とは言えませんな」
「ですが、それ以外に確実に魔王に勝つ方法など……」
「幸いまだ魔王は未熟だ。数年経ってもそう大して変わらない。魔族は成長が人間と違って遅いからな。数年など我らの一年より短いに決まっている」
「それもそうか。では、勇者達を成長させるのが今は一番大事か。無闇に向こうを威嚇させてもこちらへの警戒をより一層高めるだけだと思うしの」
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おじさん達の会議はまだまだ続く。
一方その頃勇者達は……
「魔物ってあんなに強いのね」
「よくそんな普通で居られるな。命を奪う事がどれだけ重苦しい事かよく分かったよ」
今度からはなるべく降ろさない様にしないとな。俺たちと同じ様に生きているのだから。
「うーん。まぁ、生き物の命を奪ったって言うのは自分の手が汚れたみたいで少し罪悪感はあるけど。それでもそうしないと生きていくことができないんだもの。仕方がないと言って仕舞えば仕方がないわ」
「それもそうだよね。今回の討伐はどこか私を本気にさせてくれたと思う。戦わないと死ぬこの世界で力は自分の盾であり、武器であり、自分を守る最大のガードでもある。そう言っていた団長の言葉をより一層実感させられた様に思う」
「命を奪ったこの手では日本なら生きていけないな」
「そんなことないと思う。ちゃんと人々を救ったのならそれは許されてもいいと思う」
「うーん。考え方は人それぞれだからよく分からないけれど、無事に戦争が終わっても日本へ帰れる確証はないのよ」
「は?召喚で来るんだから返せるだろ?冗談じゃない」
「事実私たちが帰ることまで話されていないのだから帰れない可能性だってない訳ではない筈だわ」
勇也くんは結構暴走しがちだからなぁ……初めて魔物殺した時なんか自己嫌悪で死にそうになってたし……なんだかんだ言って正義感が強すぎてどうにもならないことだって多々ある。それも含めて勇也の良い所なんだろうけど、幼馴染兼世話係の私からしたらちっとも良いところには見えないし。
勇也くんは正義感強いよね……私なんか逃げたくてしょうがないのに……
胡桃と奏から視線を感じる……2人とも何を考えてるんだろう?ま、俺の使命はこの世界を魔王の魔の手から救うこと!俺なら絶対できる。
「なんか謎の自信あるよね」
「それは同感」
「ん?何の話?」
「「何でもない」」
奏と胡桃、2人はアイコンタクトで無意識に会話をしていた。そのことに気がつく勇也ではなかったが……
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