第37話 神

 魔法陣を光らせてから3日。クロムに俺が戦場に出なくても勝てるように何か策を考えろと言われた以外はいつも通りの日常を送っている。


 俺が居ても居なくても大して変わらないだろうし、あまり思いつきが良くない俺なんかが考えた策が採用されるとはとても思えない。チェスなどを使って兵の動かし方を学んでみてはいるけどそれが役に立っているかどうか、という面で言えば微妙だ。元々戦争などと無縁な生活をしていれば戦場の様子などそう易々と思い浮かぶ筈もなく、結局こっそり戦場を見に行ったのはヒミツだ。


 で、俺が立てた作戦は防衛を強化する方法だ。城の周りに堀を作る事や、人間界とこっち(魔王領)の境に壁を作る、などなど昔日本で使われていた戦法だが、多少は役に立つと思う。


 他には武器の強化などをする事になった。焼き石をなげる、やただの矢を火矢にする。など。まぁ、前世の記憶様様だな。そんな相手からすれば鬱陶しい策をつらつらと紙に書き並べれば、意外といい案が思いつく。さて、そろそろ食事かな?最近はこちらに回ってくる書類の枚数が減り、城を出入りする魔族が増えたように思う。俺にくっ付いてる使い魔も結構いるので城の中は最近賑やかになったように思う。今日も平穏無事な生活を行なっているけど、中には生活が苦しい民もいる。その、生活に苦しい特定の住居を持たない人々に食事の配布を行う、という政策の予定がたっている。まだもう少しかかりそうな案件ではあるが、一年後にはこの政策も安定して行えるようになるだろう。今問題になっているのは民の平等がどうだ。という事だ。貧しい民だけに食事を与えるのは平等ではないとの声が上がっている。確かに俺もそれはそうだと思う。だから、食事が必要、または欲しいと感じる者が貰いに来ればいいと考えているのだが、それでは食事が足りないときどうするだの、人が来なかったらどうするだの。めんどくさいわ!それやってから変えればいいだろ!というか俺が訓練でぶった斬った肉が城には大量にあるだろ!有り余ってるんだから分けてやれや!


 ま、戦争は貧困問題を引き起こす引き金でもあるからな。貧困に対して何かしらの政策を練っておくのは悪いことではないだろう。今の所、リゾットとスープの提供を考えている。魔王領の中央には空き地がたくあんある。それらを利用して学習のための施設や訓練場、コロシアムや遊技場……などなど民の為に行いたい政策はまだまだある。提案書はまだ俺の手元にあるが、これらはそのうちクロムに提出するつもりだ。おそらく反対される。今の国家状況から考えて時間が足らない、人手が足りないだろう。建物を建てる程度なら俺だけでも行えると思う。魔力で作る建物は建物の核となる魔石さえあれば簡単に作ることができる。


(それは何処かの誰かさんだけだろ、ぶぁーか)←誰かの心の声。


 建物を建てて、それはどのように活用するか?だ。何かの施設を運営させるのにも金や人、物が沢山必要になる。それに、その施設を常時運営するとなると更に必要なものが多くなる。今の所考えているのはコロシアム。これは民の訓練場。また、魔王軍の育成機関と言った施設にする予定だ。これで少しでも戦力があがればなぁ……とか考えているけど、たいして変わらないと思う。多少護身術を習っておくだけでも民の生存率は上がるし、最悪小さな子供でも仕事をすることができる様になるし……(小さい子が働くのは不本意)


 ま、俺らにとってもみんなにとっても為になる施設で、現時点で作成可能な物となれば、これが一番かなぁ……なんて考えていた時だった。


 足元が突然光り、謎の魔法陣が出現する。


「え?え?えぇ〜?」


『……久々だったから失敗したかと思った。お前、ファルヴァントだな?加護授けてやるから勇者を暗殺して来い。不幸中の幸いか。お前には頭脳がある。ちなみに今の軍政では人間に勝てない。だから早々所して来い。あんなヘナチョコでイライラする勇者は初めてだ。早く抹殺しろ。いいな?』


「あ、え〜と?はい?……うん、誰?」


「何にも考えないで俺の魔力を受け入れろ。大人しくしてろよ?」


 疑問符を掲げるも何の問いにも答えて貰えない。一体全体何が起きたと言うのだ。この容姿からして闇の神、アイエティス様?祈ればいい?何の祝詞言えばいい?


『おい、何も考えるなと言ったよな。大人しく従え』


「は、はい……」


 あれは何だろうか?よくわからない光が降ってくる。光と言ってもドス黒い何かだが……その光は俺の体に降りかかった。え?


「うぅ……いっ、た……うあぁ、嗚呼ああぁぁぁ!」


『祈れ、何でもいいから祝詞を口にしろ』


「我に力を…闇の神、アイエティス……大地を貶し……自然を、葬るっ魔をこの手に宿せ!永遠、不滅の魂に…一時の…っ安らぎをっ!隠いん!!!」


「いっ、たいっ!」


 体が軋む、骨がギシギシと音を立てている。こんな痛みを味わったのは久々だ。体の内部から沢山の熱が湧き上がってくる様な何とも言い難い痛み。


『これを耐え切るか……もう少しいけそうだな』


 何の事だかわからない。もう少し、とは?痛みでバラバラになりそうな体をわずかに動かし、蹲って耐える。


『もう少しだ。耐えてもらうぞ?』


 その声は先ほどよりもより近く、先ほどから感じていた魔力はより大きく感じる。俺は本能的に分かった。彼が、いいや、このお方こそが闇の神、アイエティス様なのだと。


「うっ、ああああああああぁぁぁ!っ……!い、った」

『ほれ、抵抗するでない。体の力を抜け、ほーら、リラックスだ。はいリラックス〜』

「………はぁっ!う、うぅ……っ!!!」


 か、神様の鬼畜……痛かった。痛かったんだからぁ!神様の手前口には出さないけど、どうせ心の声聴かれてるのだ。声に出そうが、心の中で言おうが変わらないけど……声に出さなかっただけ偉いと思って。

 と言うか、神様、「ほーら、リラックスだ。はいリラックス〜」なんて言ってたよね?そんなキャラだった?喋り方変わったよね?


『あ、しまった。素が出てしまっていたか……うむ、この事を公害しない代わりに先程の無礼な発言を許してやろう。我は寛大な心を持っておるからな』

(無礼な発言ってさぁ……確か無礼だけど、神様も神様で酷いと思うんだよね)

『言い訳するでない。神に向かってなんたる無礼。さっさと帰れ〜!我は疲れた。寝る』


 おぉ……すごい……ワープしてるみたい……そして思ったこと一つ。俺はいつ俺の部屋に戻れるのだろうか?ワープ位しては長くない?


『言い忘れておった。1時間位そのまんまだ。しばらく耐えろ。世界の理を超えてるからな』


 え?しばらくこのまんま?嘘でしょ。俺もう寝たいんだけど……さっきの出来事のせいでなんかすんごく疲れた。痛みで体が軋むし、頭はパンクしそうだし……


 俺はいつの間にか意識を落としていた。





「いつ起きるのでしょうか?」

「さて、神様の気まぐれなのでしばらく帰ってこないのでは?」

「それもそうか。俺らは仕事を頑張らなきゃなぁ……」


 ファルヴァントの机に積み上げられている書類の山を見て2人はそう思ったのだった。

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