第36話 すみません

 壁を粉砕したのはわざとでは無いのは分かっているのだけど、怒られた。それは当たり前だよね。普通加減するし、加減しないでそのまま普通に振ると思わないもんね。


「ファルヴァント様、聞いていますか?さっきから何を考えているのかと思いきや……反省ではなくて言い訳ですか……はぁ、仕方がないですね。礼拝堂で跪いてきたらどうです?」


「え?」


 レイハイドウ?……礼拝堂なんて物がこの世界にはあるの!?し、知らなかったんだけど……


「あなた様のお父様はよく跪きに行っていましたよ。お陰で長時間跪いてもピンピンしていられる頑丈なお体になりましたよ」


 なにそれ、全然嬉しくないんだけど。そもそもそんな長時間跪く機会なんて晴樹に怒られない限りないと思うんだけど。


「早く向かいますよ。着いてきてください」


 いつの間にか扉の前に移動していた晴樹は俺を急かす。


 聞いた話、お父様は大体3〜5時間ぐらい跪かされていたそう。初めてだから2時間で我慢すると言われたが、魔法を使えばどってことないだろう。あくまで俺の予想だけど。


「ここが礼拝堂です。では、跪いてください。私はここで仕事をしていますので」


 そう言うと晴樹は何処からか取り出した紙とペンを手に机のある方へと向かった。俺は言われた通り神様の彫刻の前で跪いた。10分くらいだろうか?少し時間が経つと流石に飽きてくる。何も考えないでただボーッとしているのは時間の無駄だし……そう考えた俺は礼拝堂の中にあるであろうアーティファクト《魔道具》や、魔法陣を探すことにする。案外沢山あったようだ。魔力反応が大きい物からどのような効果があるのかを探っていく。これが結構楽しかった。今まで見たことのない魔道具や、魔法陣がたくさんあったから。


 俺は呑気に魔法陣の観察をしていたら、礼拝堂の床が突然光った。元々丸い形をしている建物を魔法陣がスッポリと嵌っている。魔力を探る為に少量の魔力を使って居たから反応してしまったのだろうか?俺は不安に駆られつつもその魔法陣を見つめる。晴樹は口をあんぐりと開け、ペンを落としてしまっている。俺はやらかした感満載だな。と他人事のように考えながら魔法陣を眺める。


 この後怒られるかどうかも分からないけど、今から言い訳を考えておこうなどと頭を巡らせる。


「ファルヴァント様!」


 突然入ってきたクロムに俺は跪くのを止め、ガバッと起き上がる。


「何が起きたのですか!」


 俺にも何が起きたのか分からない事を説明し、俺のしたことを全て話した。通りでそうなる訳だ。と言ったクロムの言葉には疑問しか覚えないが、後のことは他の人に一任する事にする。


 未だ何が起きたか分からない。と言った様子の俺に「大丈夫」と声をかけ、クロムはどこかへ向かってしまった。残されたのは訳のわかっていない俺と唖然とした表情の晴樹だけ。使えないな、と内心思いつつ、何をしていいのか分からないのだから仕方がないだろうと慰める。


その後、何だかよく分からない物を握らされ、色々と検査された。何を調べているのか分からなかったけど、調べている時には晴樹も元の晴樹に戻っていて、大丈夫そうだった。相変わらずさっきの事について教えてはくれないが問題はないと言われたからまぁ、大丈夫なんだろう……恐らく……


「部屋に戻っていい?」


「はい、先に戻ってお休みになってください。明日から忙しくなるかも知れませんからね」


「あ、うん」


 何が何だか分からないまま事が進んでいくが、俺は俺のしなくちゃいけないことだけしていればいいよね?そういやさっきまで出陣がどうとかこうとか言ってたけど大丈夫なんだろうか?俺はそこら辺にいた騎士に話を聞いた瞬間耳を疑った。


 その騎士はもう既に人間側は魔王領真近まで迫ってきていると言っている。こんな事が起きているのに俺は呑気に部屋で休んでいてもいいのだろうか?


「俺、ここに居たらヤバくない?」


「ヤバいですけど、あっちの緊急事態みたいなのでなんとも言えないですね」


 緊急事態とはなんだろうか?さっきの出来事なら大丈夫だと言われたのだが……まさか大丈夫な出来事ではないのだろうか?不安を感じつつ俺はある物を取り出す。


 魔力探査機まりょくたんさき。人間か魔族かを調べる魔道具だ。人間が魔族に変装する術なんて沢山あるのだからしっかりと調べておく必要がある。なんか怪しい……


 何が怪しいかって?それはね。言動だよ。騎士はみんな、ほぼ全員と言っていいほど俺に敬語を使わない。それは俺のことも戦友として思い出して欲しいから。俺がただ指揮をしている記憶なんて必要ない。周りからの評価はいいものが欲しいんだ。なんせ、俺は世界を支配する男なんだからね。絶対に手に入れて見せる。この領地も、人間界も……


 俺は決意を固めるようにその言葉を発し、魔力探知機を見た瞬間側頭する事になる。


「は?お前人間?なんでこんなところに人間いんの?」


「あれ?バレちゃいました?では逃げまーす!あはは、あは、あはっ!」


 あ、ま、待てぇ!ちょ、おいコラ!


 俺はもう誰もいない廊下で全力疾走するのだった。


時は遡り、クロムの自室にて……


 クロムは検査結果を見て頭を悩ませていた。先ほど起きた事件…礼拝堂の魔法陣の件だ。普通あそこにある魔法陣は光を発さない。魔力を注いだせいでもあるのかもしれないが、それが理由とはなんとも言い難い。本人曰くそんなに多くの魔力を注いでいないらしいので、光ることはない筈なのだが……それを調べる為に行なった検査、その結果に今、頭を悩ませている。


 検査結果は何にも問題なかった。むしろいい方だった。だが、問題なのは魔力濃度と神との相性。魔力濃度は単に闇属性魔力の濃度を測るだけ。神との相性は神の魔力にどれだけ近いか?だ。


 ファルヴァントの魔力は濃度97%、神との相性は異常な程に良かった。それはファルヴァントの魔力がそれだけ神に等しいことを指しており、それだけの能力を秘めていると言うことになる。今後人族との戦争は多々起こるだろう。それを考慮すればこちら側の戦闘力が上がるからこちら側の利益にはなるのかもしれない。


 神との相性がいい以上、これから何が起こるか分からない。いつ神の呼び出されるかも予測できないのだ。迂闊に外に出すことは出来ない。大体魔法陣を光らせてから神の元へ行くまでは3日〜1週間。その期間内に神に呼び出される。


 さて何から準備を始めようかと全力で頭を回転させる。何から準備を始めるのがいいのか分からない為、儀式に必要な物を全て取り揃えておく必要があるだろう。


 さてどんなデザインにするか?などと考えていれば戦争のことなど頭から吹き飛んでしまいそうだった。だが、そうはしていられない。今回の戦争、ファルヴァントが参加できない可能性が高い為、戦力的な問題が発生する。そちらの面に関しても対策を練らなければならない。ま、これはファルヴァントに任せても問題ないだろうと考えるクロムではあった。


 場所は戻り、ファルヴァントの寝室にて。


 俺はなかなか寝付けないでいた。流石に寝るに至らない。何故なら先ほどまで全力疾走していたからだ。犯人は無事に捕まえられたものの、目が冴えて寝られないのだ。人間がここにいたと言うことで当の本人は拷問を受けることになるだろう。それに俺も参加したかったのだ。普段拷問というものには近づかせてもらえない。どんな道具を使ってどんな事をするのか知りたかったのだ。場合によっては新しい拷問器具の開発もできるかもしれない。


 地球であれば、異端者のフォーク、つまみねじ、叱責のブライドル、ユダの揺籠、鉄の処女……などなど沢山のものがある。それらをこちらの世界風に変えればいいと考えている。それを成す為に先ずはこの世界の拷問風景を見ておきたかった。この領地、この世界を発展させるのにはちょうど良い知識をたくさん持っている。


 だからこそ、この世界をより科学的に解明できないのか?と、考えてしまう。

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