第35話 反乱

 誘拐した涼牙と書類を片付ける事3日目。あまりに溜まった紙が雪崩を起こしている。亜陸は育児中でこっちを手伝う暇がなく、クロムと春樹に至っては書類にまで手が回っていない。


 魔王領は今、深刻な人手不足に陥っている。もともと人手不足で手が回りきっていなかったが、今はその比ではない。


 何故なら騎士団が駆り出されているからだ。いつも城の警備をしたり、家事のできる騎士は家事をしていたり、していた者たちがほぼ全員戦場へと駆り出された。王国に報告がされたのだろう。大群がこちらに攻めてきている。これは先ほど知った出来事で、ほんのつい先日までのんびりと過ごしていたのだ。状況が昨日の今日でこんなにも変わると思っていなかったので。


 魔王領を奪うのは簡単だ。何故なら聖属性の魔力で満たせばいいのだから。この世界は魔力によって具現化されていて、元々は具現化されていなかった。それが、ある創造神によって具現化された。その神の名は伏せられているが、力のある神であったことは窺える。


 基本具現化していないものを具現化するのには膨大な魔力と繊細な魔力操作が必要だ。その一つ一つに時間をかけて作らなければならない。具現化は人間が行うと1センチ単位のもので数年、あるいは数十年と言う長い時を要す。らしい。魔族の方は記述がされていないからなんとも言えないが、同じくらいかかるか、それより少し短いかくらいではないだろうか?


 具現化していないものを具現化するのはそれほどまでに大変なことなのだ。


 話を戻すが、これらの理由から人間界側からすると、魔王領を奪うのそう難しくない。ま、こっち側も奪うの難しくないんだけどね。同じような方法で奪う事が出来るから。それには問題が一つあって、魔力が足りない。今まで騎士たちが使わない魔力を毎晩毎晩土地に注いでくれていたけど、今はそれが出来ない。その為、俺1人でこの領全体を魔力で満たさなければならないのだが、流石にそれは困難だ。なので、各領地の魔力に関しては各領地で賄ってもらうことになった。リーナは俺の魔力が多いのは気がついていたけど、「1日で中央の土地を魔力で満たせるほどだとは思わなかった」と、言っていた。まぁ、確かに補おうと思えば補えるんだけど……俺も戦わなくちゃいけないわけで?一応魔王という立場なので前線へ向かわない訳にはいかない。


 民を戦場へ向けておいて上部の人間は城に閉じこもっているなど許されることではない。元々そういう風習であり、それがルールなのだから従うまでだ。それにこのルールに何の異論もない。


「ファルヴァント様、追加でございます。それと、数日後には出ることになるかと……涼様に関してはまだ戦いに慣れていないので今回はここで待機していてもらいます。万が一の魔力供給者としてもお願いしたいので」


 戦いに慣れていないのではなく、魔力供給が本来の目的だろう。お前、人をこき使うな?


「俺が不在の間、頼んだよ。それと、魔力供給はすればするほど魔力量が増えるから強訓れるよ」


「あの、また僕に死ねと?」


「死んでないでしょ?気絶しただけでしょ?俺のせいじゃないからね?絶対違うからね!」


 俺は根を押しながら書類を確認していく。結構な量の紙が今日だけでこんなにも……それだけ民の心が不安定ということなのだろうか?


「そろそろきてください。準備しますよ」


「すぐいく」


 俺は涼牙に「行ってくる」と告げ、その場を後にする。そのまま俺は軍部の武器保管庫(俺が勝手に呼んでるだけ)へ向かい、クロムはどこかによってから来るそうだ。


 俺はあまり重い防具は装備したくないのだけど、そうも言っていられない。常時展開している結界でもあれば安心して送り出すが、それがまだ難しい俺は安心して送り出せないと言われてしまった。確かに丸腰のまま戦場へ行くのはよくないかもしれなけど、鎧を着ての訓練はした事がない。と言うことは鎧を着ての実戦に近い形の模擬戦も行うことなく戦場へと向かうことになる。正直なところ心配だ。重そうな鎧を着て動くなど慣れていなければ不可能。それに感覚だって多少異なるはずだ。


 倉庫を開け、中に入る。中にはいろいろなサイズの鎧があって、自分に合ったものを選べるようになっている。その中から俺は自分の体に合いそうな鎧が収納されているエリアへと向かう。そこに置いてある鎧には全てに綺麗な装飾がされており、とても豪華だった。その中から俺の目に止まったのは全身漆黒の金属に所々魔法石が嵌め込まれた鎧だ。その隣には剣も置いてあり、それも真っ黒だった。剣の素材には黒曜石と言う光に当たると紫の光を放つ希少な鉱石が使われていた。


 とても硬く、綺麗な色をしていることから人気があり、装飾品で用いられることが多い。


 よく見ると鎧と剣には魔法が刻まれており、何らかの効果がついているようだ。強力な結界と高度な隠蔽魔術により術式を確認することはできないが、この鎧は良さそうだ。俺は剣を手にする。そして一度振ってみる。いい振り心地だ。俺は他のと比べる為一旦剣を置き、他の剣も振ってみる。だがやはり先ほどの剣の方が振りやすい。もう一度試してみようと剣に手をかけようとした時だ。晴樹の声が響いた。


「それは触らないほうがいいと思いますよ?」


「何故だ?」


「強大な魔力で弾かれるからです。一度触ってみてはいかがですか?代々魔王様となられるお方が触るのですが、毎度毎度弾き飛ばされています」


 え?何それ何それ何それ!触れないの?みんな触れないの!マジで言ってます?え?俺s割れちゃったんだけど?普通に触れたんだけど?


「一度触ってみればいいじゃないですか。試してみるのはいいと思いますけど……あ、それとも臆してます?」


「いや、お、臆してなんかないけどさぁ」


 ねぇ、触れちゃったし?まぁ、吹っ飛んだフリでもすればいい、よね?俺はそんな簡単な気持ちで剣に触れ、適当に吹っ飛ばされた演技をした。


「はぁ、やっぱり触れたんですね。あの時から変だと思っていたんですよ」


 え?何?何か俺変なことした?マジで!俺何もしてないって。ね、ねぇ?何もしてないよね?


「その防具を使うといいですよ。それはある一定の者だけにある効果を宿します。それは使ってみてのお楽しみですが、その剣には破滅という意味が込められています」


「へ、へぇ……」


 あ、圧が……俺、本当に何かした?何もした記憶ないんだけど……


「あ、ファルヴァント様、鎧いいの見つかりました?」


「うん、これで」


 な、何にも知らないフリをして振る舞おう、そうしよう。


「え!?あ、はい、それでいいのですね」


「うん」


 俺は無知、俺は無知、俺は無知……


「ではそれを持って外に来てください。慣らしますよ」


「うん」


 俺は晴樹とクロムに付いて訓練場へと向かった。そこで鎧に着替えたのだが、どうやら勝手にサイズが変わるらしい。どれもぴったりのサイズに変わった。魔法石に魔力を注げばだんだんと鎧に魔力が満ちていき、本来の力を取り戻す。剣に流れる魔力は俺の魔力よりもさらに密度が高くなり、漆黒の魔力を纏わせる。


「ちょ、ちょっとタンマ、それで戦う気?」


「えっと……慣らすのでは?」


「魔力を宿すか普通!」


 そうなのか。でも、魔力通さないと着れなかったし……


「まぁいい。とりあえず振ってみて」


 俺は言われた通り剣を振る。するとすごい勢いで魔力攻撃が放たれ、壁が見事粉砕した。


ドッゴォン!!!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る