第34話 勇者の成長

「なっ、こんなところにまで「探知」が……」


 俺は「探知」によって自分の魔力反応を知られたことに気づくと即座にその術者を気絶させる。魔王領の魔力がギリギリ届かない範囲にいることからまだ魔力を体に受け入れることに慣れていないのだろう。その為、その弱みを使うことにした。本当は使わないほうがいいのかもしれないけど、ちょっと厄介だからね。「探知の」薄く広げた魔力を一部乗っ取り、俺の魔力を凝縮させて術者の体に一気に送り込む。姿は見えないが、結構な魔力量だった為、騎士団長クラスか勇者だろう。俺はさらに高度を取り、視力強化を行う。この辺に魔力反応が届いたと言うことはキメラにはもう遭遇している筈だから。俺は闇属性の「暗黒奏あんこくそう」で人間には聞こえない音を出し、雲を少し動かす。


 暗黒奏あんこくそうの本来の使い道は音による攻撃だ。暗黒というのは暗闇の中で使うと効果が増幅し、光の差している場所で使うと効果が減少するからである。人間がこの魔法を使わないのは単に闇属性の魔力を体に流すことが難しいからだ。


 人間は神から生まれており、神の加護を授かっていると言う。その影響だろう、人間の体には闇属性の魔力はとても馴染みづらい。


 魔族の体にも馴染みづらいが、とてもがつくほどではない。多分進化したのだと思う。歴代の魔王が聖属性によって命を落とすから耐性がついた。俺はそう考えている。人間がそうだからね。少しずつ進化したり退化したりする。


 俺は気絶している人間を見て少し心が痛む。


「よりによって胡桃だったなんて……なんか罪悪感……ま、あれだけ根暗だったから両思いだったなんてことは絶対ないと思う」


 俺は半分吹っ切れた。胡桃が後援で守られている為、後からどんな魔物か来ようと問題ない。問題はあるけど、俺の心は傷つかない。


 したで頑張って戦っている勇者は強いけど、弱かった。魔力放出量は半端じゃないし、正直な話あの攻撃を喰らうとなるとちょっと苦しいところがあるが、避けるのは楽そう。その証拠にキメラに逃げられてばかりだ。騎士団長らしき人はちゃんと攻撃を当てることができているけど、魔力は持っていない。そう、全く魔力を感じられないのだ。


 あの身体能力は魔道具か何かを使っているか。後方支援にそれ系のブーストを掛けられるものがいるかのどちらかだ。人間に出せる速さではない。勇者に引けを取らないほどだ。流石騎士団長(恐らく)。


「さてさて、そろそろくるかな?魔力を喰らいに。大きく、強くなりたいもんねぇ。あはは」


 我ながらこの笑い方は悪魔だと思う。


 ギエェェェ!けたたましい叫び声を上げながらキメラが絶命する。あ、来た来た。


「ファ、ファルヴァント様ぁ!早く戻ってください!魔物の目撃情報が……S級です」


「は?今?間が悪い。出直せ」


「そんなこと言っていられません!このままでは城に、街に来てしまいます」


「だって、あれでしょ?あれ俺が作った魔物だから暴走しないよ?正確には暴走しても止める権利が俺にはある」


 そう、魔力を分け与えた魔物はお使いを頼むことができる。(蝙蝠にお願いしてたのと同じ状況。少々一方的ではあるが、先に代償を払っているのでこれでも成立する)人族や魔族でいう「貸し」「借り」と言う関係に近い状態だ。


「あ、あれですね。と言うか、ど絵だけ魔力込めたんですか?」


「俺の魔力総量の3割くらい?」


 だいぶ化け物になったと自分でもわかっている。その理由は、毎日毎日魔力が切れるまで魔法の練習や打ち合い(模擬戦)をしているからだ。恐らく。常備している魔道具から魔力を一時的に体内に取り込み、体内の魔力を回復させることで、意識を失っても数分後には意識を取り戻す。この魔道具のおかげで意識を失ったことがクロムにばれずに済んでいるが、本心はこれがクロムにバレて晴樹が怒られればいいのに。と思っている。そうすれば地獄の訓練が少しは緩くなるはずだから。保証はないけど。クロムが守ってくれる筈。でも、この訓練のおかげで強くなっているのは確かなので、この訓練を辞めたら成長速度が落ちるのではないかと思っている。


 晴樹は少々乱暴だったり、手加減がなかったりするが、それは不恰好な心配である。そのことに気がついたのは最近だ。そういやこう言ったし性格のやついたなぁ。みたいな感じで思い出していたら、はるきもそうなのではと言う結論に至った。


 やけに俺に戦闘力をつけようとしているのは俺が今後困ることのないようにと言う優しさからだろう。聖属性を体内に入れるのだって俺の為だ。人間界も統一しようとしているのを知っている。織田信長と同じ目標だ。「天下統一」いつかは必ず人間界に行く機会もある。それに勇者と出会った時に聖属性の魔力に耐えられないのでは話にならないからな。


「あの〜、このままでは人間が全滅するのでは?」


「このくらいの魔物も倒せないのなら勇者ではない」


「殺さないでくださいね。色々と面倒なので」


 なぜか魔王は引き篭もることを推奨される。(晴樹とクロム以外から)何故だ?俺は謎で謎で仕方がないのだが……それに関してはどうすることもできない。ま、自由に動いても何も言われないけど。外に出ようとすると喜ばれる。(晴樹とクロムにだけ。騎士団からは何にも関与してこない。仕事をするだけ)


「死にそうになったら勇者の奇跡とでも名付けて倒せばよかろう?」


「良くないですが、早めに助けてあげてください。かわいそうです。みてるこっちが痛いですよ」


 そんなに言うなら仕方ない。最悪勇者は生き返る。教会の大神官というこの世界に1人しかいない神官は「蘇生魔法」が使えるらしい。勇者になら使ってくれるだろう。詳細的なルールは知らないけど。


「我に力を…闇の神、アイエティス。大地を貶し、自然を葬る魔をこの手に宿せ。永遠不滅の魂に、一時の安らぎを。隠いん」


 この魔法は槍を空中に出現させる魔法だ。「アイテムボックス」の中から槍を取り出して、それを敵の頭に落としたようなイメージでいいと思う。


 槍には黒や紫の宝石や黒に近い金属などが施してある豪華な槍だ。これは神滅兵器である。闇の神アイエティスが作ったとされる神装で、神をも簡単に滅ぼすことができる化け物じみた武器だ。


 その武器をまともに食らった魔物は跡形も残らずに消滅している。地面には大きなクレーターが残り、木々が薙ぎ倒されているが、神装による攻撃なので勝手に修復する。


 土埃が落ち着き、魔物の姿が見えなくなっているのを悟った人間どもは歓声を上げている。お前らが倒したのではないのだが……と思いつつも口角が緩むのを感じる。


 ふっ、このくらい倒せない魔王など、魔王ではない。


 そんな厨二病じみた言葉をその場に残し、立ち去る。城に戻るつもりだ。気晴らしはできたからな。では、工務を頑張るとしよう。


「ま、待ってください〜!」


 叫んでいるクロムの手を引っ張りながら飛行し、城の客室のバルコニーへ降り、涼牙の出迎えを受ける。先ほどまでは少しばかり心配そうな顔をしていたが、俺の姿を見つけると、全力で手を振ってきた。なので俺も全力で振り返した。


「じゃあ、今日は涼も一緒にやる?」


 その問いにもちろん「うん」と答えないが、俺は無理やり連れ去る。決して誘拐ではないので通報しないでね?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る