第33話 やはり英語は苦手……

「ファルヴァント様、今日も向かうのですか?」


「あぁ、飯やんないと人間はすぐコロっと天に召されるからな」


「そうですか、お気を付けて……それと今日の分です」


 そう言って手渡してきたのは普通に俺らが食べているのと同じようなご飯。お前らは牢の人間なのにこんなにいい飯食えて幸せだな。俺らとほとんど変わらないじゃないか!


 ま、これも一つの作戦だから仕方がないだろう。俺と牢の人間が仲良くならなくちゃならないのだから。


 遡る事数日前……


「闇の神、アイエティス。其方の力が我々の世界まで届く時、新たなる闇の力の誕生に祝福を、そして永遠の闇に飲まれ続けているこの地をどうかお救いください」


「「「「「「わああぁぁぁ!!!!」」」」」」


 初代魔王の生誕祭という行事で重度な厨二病の祝詞を言う為に一度自領に戻り、屋台を少し楽しんですぐ帰った。涼牙も付い来たいと言ったので連れてきたはいいけど、俺は連れてこなければよかったと思った。涼牙は屋台を回って結構遊べたみたいだけど、俺は少ししか回れなかった。そのあと俺を待ち受けていたのは会議。言うまでもなく牢に居る人間の事についてだ。クロムと晴樹、リーナと涼牙で話し合った結果俺が向こうの信頼を得て、情報を少しずつ開示させるつもりだ。勇者一行に着いて来ていた者達なのである程度の実力があり、情報も持っている。これはここ数日俺が話していて思った事だ。


 で、食事を上質な物にしたり、暖かさを保ってみたり、口枷を外したままにしたり、色々とやった。俺が人間に支えているかのように見える筈だ。向こうからは好印象がもらえているし、情報を開示してくるのも時間の問題だ。世間話もまにしている。見回るの時間帯は無い事になっているが、それは元々なので嘘は言っていない。立場的に俺は忙しい身ということになっているので、会う時間はかなりと言っていいほど少ない。長くて30分、短い時は5分も話さない。


 俺は現在進行形で忙しい。何度も言うが、嘘は言っていない。


 と言う出来事からいい料理が出される様になった。俺からすると不満。人間はあまり好きになれなかった。


 理由その1、英語で喋るから。

 理由その2、話し方の癖がすごいから。

 理由その3、食べ方が汚いから。

 理由その4、ギャグがつまらないから…………


 まだまだ理由はあるけど、この辺に留めて置く。どうしても日本人と比べてしまうからだろうか?嫌に感じてしまう部分が多い。


 これから朝食を届けに行く。俺はクロムに目配せをし、高速での着替えを頼む。すると僅か5秒ほどで着替えが終わる。これは忙しい父の世話をしていたらいつの間にかこうなったシリーズの一つである。これに関しては後に語ろう。結構面白いと思うから聞いてほしい。


 俺は憂鬱な気分で向かった。会話は最低限だ。英語を話したくないから。


「I brought you lunch.(昼食を持ってきたよ)」


「Thank you.(ありがとう)」



 俺は昼食を食べ終わるのを見計らいつつ会話を持ち出す。情報はいくらあっても嬉しいからね。


「What kind of magic can you use?(どんな魔法が使える?)」


「fire, water and earth.(炎と水、土)」


「What kind of magic can you use?(どんな魔法が使える?)」


「I can use almost everything.(俺はほぼ全ての魔法が使える)」


「Really!(マジ!)」


 ………この様に会話をしている。疲れた。俺の能力を開示することに異論はないし、力があるから奴隷のように首輪で支配されているとでも言えばいいのだが、それはそれで面倒だ。仲間なのだからこの檻から出せとか言われてもそれは許容出来ない。俺は魔王だ。最終決定者は俺だけど、それを自分の立場を弁えて許可を出す、出さないと迫られれば間違いない後者を選ぶ。それが最善だからだ。情報を得る面でも、こちらの情勢を知らせない為にも。


 外に出たら、ここが人間界ではないことなど容易に判断できる。恐らく俺が魔族に囚われている人間か魔族だと思われるだろう。結局魔族側に情報が回ったのには違いがないのでこちらに攻め入って来るかも知れない。


「ただいま」


「おかえりなさいませ。今日は何かありましたか?」


「いや、特に変わった点はない。だが、俺は勇者一行をいじめたい欲に駆られている。すごく深刻な問題だろ?」


「深刻には見えませんけどね。それが深刻でどうしたいんですか?」


「ちょっといじめてくる!」


「ま、待てー!こらー!勝手に行くでない!」


 俺はそんな静止の声を無視して「飛翔」で窓から退散する。書類なんてやりたくないし。ただでさえ1日に3回の食事を運ぶと言う仕事で疲れているのに、普段の仕事まで出来ない。


「あ、見えたよ!」


「見えたよ!じゃありません!戻ってきなさーい!」


 カンカンに怒っているクロムを振り返ると結構後ろにいた。俺は今全力で飛んでるから追いつけないだろう。ふっ、俺は強くなったんだ!俺は止まって考える。今日はどうやって虐めようかと。


 取り敢えず魔物に無駄に増えた魔力を供給して強くさせる。で、最後は何を進化させようかなぁ……


 最近わかったことだが、魔物は魔力を膨大に摂取することで進化する。魔力を与えることで強くなると言うのは知っていたが、過度な摂取では進化するらしい。驚いた。


 俺は魔物の種類を見て、面白そうな物を見つけた。「魔物スポナー」もう既に朽ちていて使い物にならない物だが、時間の流れに干渉して時を戻せば何かしらに使えるだろう。俺は「魔物スポナー」に触れ、時間を戻す。時間を戻す物によって魔法陣が異なる使うのが困難な魔法だが、別に格段難しいわけでもなく普通に使うことができる。


 時が戻った「魔物スポナー」はまた光を宿し、起動する。そこから湧いたのはとても厄介で知られる魔物だ。その名もキメラ。


 キメラとはありとあらゆる魔物を繋ぎ合わせ、人工的に作られた魔物だ。簡単に言えばつぎはぎの魔物。それぞれの良い所を継ぎ足しているから強い。


「これに魔力をいっぱい注げばいっぱい出てくる筈……」


 俺は魔力をたくさん注いだ。そして少し奥に行ったところに蛇の魔物。コブラが居たので魔物化しておいた。そろそろこの辺に着く筈だ。俺は上空に上がり、様子を観察する体制に入った。体を強化するのと同じように目だけを強化して視力を上げる。人間……魔族が耐えられるくらいの上空で止まり、観察を開始する。


〈SIDE胡桃〉


※実際は英語で喋っています。


「ま、魔物の反応が沢山!戦闘準備お願いします!」


「「はい!」」


 私は今魔王領の近くに実戦を積む為に来ています。いきなりよくわからないところへ連れてこられ、いきなり英語での生活を強いられるのはなかなか難しいことでしたが、一年経った今ではだいぶ慣れてきました。私は前衛ではなく後衛なので皆さんの戦闘の補助を行います。


「聖域結界」


 今回はお忍びという事で着いてきている殿下がいるので、結界を使います。殿下は剣の腕も、魔法の腕も凄いです。なのでこんな魔法いらない気もしますが、万が一のためです。戦える殿下はとても不満そうですが、戦わないことが一緒についてくる条件だったので仕方が無いのです。


「キ、キメラ?」


「え?」


 キメラ、ですか?あの凶暴で知られている……そんなものが何故この森に?この森は安全ではなかったのですか!?魔王領に近いけど魔物があまり強くないからと言ってここに来たんですよ!


 坂井くんが勇者の力を解放します。膨大な魔力を使い、周りの魔力濃度を上げてしまう為、迂闊には使えませんが、今は使ってもいい時です。


 殺さないと死ぬこの世界では生き物をこの手で殺すのは当たり前です。でも、それは少し…いいや、普通に抵抗があります。


「うおおおぉぉぉ!」


 一体一体の魔物に集中できるように周りの魔物を魔法で倒します。私は勇者の力を常に使っている状態になっているそうで、力の解放は必要ないと言われました。


「なっ!これ、どんどん奥から湧いてくるぞ!」


「いったい何が起きているんだ!」


 私は素早く魔力感知の魔法を使い、魔力反応を調べます。原因を探るようにどんどん距離を伸ばしていきます。すると、ある場所に大きな魔力反応が一つ…………上空に、も?


「カハッ、ゴボッ、ゴホッ」


 あ、だんだんと意識が遠のきます……何が起きたのでしょうか?周りで何か言っているけどよく聞こえません……


 これを最後に私は意識を失いました。

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