第32話 牢の人間
「ちょっと出かけてくる。クロム……最初俺と一緒にいた人に出かけてくるって伝えておいて」
「分かった。何しに行くの?」
「ちょっと敵を倒しに。30分くらいで戻ってくる。クロムには散歩に行ったって伝えておいて」
俺は急いで部屋の窓から飛び降り、コウモリと視界共有を強化する。両目とも向こうに向けて、感覚で向かう。まぁ、空を飛んでいるから何かにぶつかることはないんだけどね。
「飛翔魔法」それは風魔法を使って行うもの。どうにかして使えるようにした。自分の体重を支えることや空気抵抗の事を考えると簡単な魔法ではなかったけど。一つの魔法陣で「飛翔」が使えるようになった。これは結構使い勝手が良い。まだこの魔法については誰にも秘密。
片方だけ視界を外して自分の今いる場所と共有している場所を見比べる。大体同じ場所だ。森から隠れて魔王領に入ろうなんてなんてズル賢いんだ。ま、ちゃんと阻止させてもらうけど……どうしよっかな?あ、とある漫画で見たことがある固結び、やってみようかな?
片結びとは人間の腕や脚で肩結びをして拘束するものだ。骨がいっぱい折れるから回復に時間がかかる。
俺は人間のいるであろう方向に向かう。上空からまさか魔族が来るなんて思っていないだろうから上空はガラ空きだ。俺は気配をなくして最大限まで近づく。あまり強い隊ではないのか俺には全くと言っていいほど築いていない。違和感すら抱いていないように感じる。
一人一人の腕を掴んで高速で片結びをする。脚は難しかったから腕が終わってからやることにした。ボキボキッと嫌な音がするが、俺は聞こえないふりをしてその作業を続ける。30人余りの隊だったので2分くらいかかったけど、誰1人として攻撃してこなかった。ま、楽だったからいいか。
このあとどうしようかと迷ったが、5人だけ持ち帰って他は人間側に置いていけばいい。俺はすぐに実行することにした。蝙蝠の指示に従ってテントの方向に進んでいく。
「あ、ここ、か。ありがとう。報酬」
俺はまた腕をスパッと切って血を出す。それをペロペロと蝙蝠が舐めているのを見ながら俺はどうやってこれらを置いていこうか、と考える。一番上のものだと思われるものと普通の兵を合わせて5人置きっぱにしているので早く帰りたいが、コイツらもどうにかしなくてはならない。俺はテントの裏。見張の少ないところにそっとゲンコツ結びされた人たちを置くとその場をさり、他の5人を連れて帰ることにした。
「ただいま」
「あ、30分ぴったりだよファルくん!」
「それはよかった」
「その人たちは?」
「拷問にかけようと思って…」
「日本にいたから拷問とか抵抗ないの?僕はあるから……」
「そっか、でも、俺はないよ。それに慣れちゃったからかな?」
涼牙はそういうの抵抗あるかぁ。俺はそれが普通になっちゃったからなぁ。人の性格はそう変わらないけど。そういった事も考えたことがない人間ではなかった。どちらかというといつ犯罪を犯すか。みたいな人間だったから。笑えない、笑えないよ。
俺は人間を牢に入れる為に地下へ向かう。その途中でリーナに会ったので牢の使用許可を貰い。後で情報を得ることにした。流石に人の城で拷問する程非常識ではない。魔力を使えないようにし、舌を噛み切らないように布を噛ませる。手枷を付けてそれを鎖に繋げば完了。後は起きたときに痛くて気絶したら可哀想だから回復魔法をかけて少しだけ傷を癒しておく。元気だろうが元気じゃなかろうがこの檻からは出られないし、出られたとしても魔力を使うことは出来ない。食事与えないと死んじゃうんだっけ?でも食事の時に舌噛まれても困るんだけど……まぁ、閉じ込められてるだけだったら死なないか。大丈夫、だよね?
先ほど食べたもう冷めてしまった夕食の残りを5人分持って牢に行く。
牢に入ると物音がしたもしかしたら起きているかも知れない。そう思った俺は人間の姿になるように羽と角を隠して目的の場所に向かう。
「あ、起きたんだ。それ取ってあげるからこれ食べて。お腹空いてなかったらいいけど……」
俺は口につけていた布を外す。
「Why is a human child here? Why are we here?(なんで人間の子供がここに?なんで我々はこんな場所に?」
「eat fast.I don't have time(早く食べて。俺は時間がないんだ。)」
「Do you get it.(分かった)」
英語は苦手だ。事情説明なんて俺の頭でできるわけないじゃないか。ま、そっちの方が楽だし……兵士の方にも言っておかないとかな?俺の事、人間だと思ってくれているみたいだから。そっちの方が扱いが楽だろう。
「Thank you.(ありがとう)」
そう言ってお盆を渡してきた。俺はそれを無言で受け取るとそのままそうから出る。人間のいる3号等の牢には近づかないように騎士に伝え、どうしても行く場合は魔力と姿を隠して完全なる人間の姿でいくようにということも伝えた。それを素早く回してもらい、上部の人間にも手早く連絡を行う。
部屋に戻った俺は涼に英語を教えて貰っていた。涼は韓国語、中国語、日本語、英語。の4ヶ国語が話せるからだ。日本語を完全にマスターしているのだ。もちろん英語も話せる。と、本人が言っていた。
「じゃあ、これは?意味わかる?」
「お前の企みを言え?」
「そう、出来るじゃん」
「日常会話ができないんだよ。俺、英語の異世界小説はいっぱい読んでたからね」
「いや、英語の本が読めるのになんで日常会話ができないのさ」
「分かんないものは分からないんだよ。仕方ないだろ?」
普通に会話しながら英語を教わる。だいぶ復習できた。これなら自分で話すことができそう。見た目は10歳だけど、中身はちゃんとした高校生だから。この位なら楽勝だよ。
「もう、大丈夫じゃない?スラスラ読めてるし、作文もできてる。問題ないと思うよ」
「ありがとう。えっと、俺はそろそろ怒られに行ってくる……」
「え?僕言ってないけど……?」
「いや、バレた。ちょっと遠くから魔力反応を感じる……」
俺は未だ頭にハテナを浮かべている涼牙を部屋に置き去りにしてクロムの居るであろう部屋へ向かった。
「で、バレたのに気がついたから自首しに来たと。ま、そんなに怒られたいのなら怒って差し上げますけど、功績を挙げたのに怒れるわけないでしょう?」
「え?怒られたくない!なら怒らない?やったー!」
「ただし、生誕祭が終わったら1週間書類漬けにしますよ。それが罰です。多少は労働もしてください」
お、生誕祭が終わったら?1週間、1週間耐えればいいんだね。俺頑張る。
そして少しだけ怒り気味なクロムと話して部屋を後にする。その事を涼牙に話したら笑って慰めてくれた。優しい…v
「じゃぁ、寝よ。この布団大きいから2人でも狭くないよ」
「そうだね。日本じゃこんな大きな家じゃ無かったからちょっと違和感ある」
「それはそうかもね。俺は六寸間だったよ」
「そうなんだ」
日本での話をしていたらいつのまにか眠りについていて、目を覚ましたら外は明るく、鳥が鳴いていた。急いで着替え、食事の席へ向かう。涼牙は俺の服を着ている。魔王の紋章が付いていないやつだけど。
「頂きます!」
「で、向こうの様子は?何かあったんでしたよね?」
「あぁ、人間の姿で人間の前に行ったら脅されている子供だと思われたみたい。そっちのほうが都合がいいから誤解したまんまにしてある」
「それがいいよ〜!やっぱファル様は天才だね!」
「涼牙様も頭いいですよね。先ほどのお考え、とても良かったですよ」
「ありがとう」
涼牙も馴染めたみたいでよかった。
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