第31話 涼牙

「人間の方はここで野宿みたいですね。我々は野宿したくないので一旦帰りましょう」


「あ、待って」


 俺は使い魔の蝙蝠を呼び出す。俺の血に含まれている魔力をあげる為に手の甲をナイフで傷つける。


『視界共有頼むよ』


『わかりました!これは飲んでいいのですか!』


『好きなだけ飲むといい』


 俺は右目を蝙蝠の右目と魔力で繋げる。この際、異質な魔力反応がばれてはいけないので「魔力認識阻害」の結界を張る。魔力で右目を繋げた際、蝙蝠の方に負担がかからないように自分に負担をかける為、俺の目は充血しているが、これは仕方がない。毎度毎度すごい激痛なのだが、頑張って耐えるしかないだろう。


 痛みの具合は他人に眼球を触られている感じとは違い、目のあたり全てが熱を持って痛い。


「ファルヴァント様!?何をなさっているんですか!」


「ん?歯科医共有しただけだけど?代償ですかその目は……」


「右目だけでしょ?右目しか繋いでないし。それに大した事じゃないから大丈夫。それにこれ、結構便利だから」


「今すぐ辞めてください!」


「その願いは聞けない。それに、これは俺の体だ。俺の体だから何をしていてもお前らに文句を言う筋合いはない!口を噤め」


「すみません」


「行くぞ」


『勇者一行の監視を頼む。こっちに来るようなら魔力を通してくれ』


『それでは激痛が走るのでは?』


『そのくらい大丈夫だ。頼んだぞ』


 蝙蝠は『はい』と答えるとその場を去っていった。俺は赤子を抱えたまま帰路に着く。明日の朝何も異変がないことを願うしかないだろう。


 ここから魔王量に侵入してくる分には全く問題がない。なぜならここはリーの領地だから。領地に入った瞬間リーが侵入者に気づく。そうすればこちらも早めに準備を始めることができるし、想定外の不意打ちも可能だ。そう行った面では今回の国が東領偽していて良かったと思う。


 勇者召喚はそれぞれの杭で行うらしく、魔力の貯蔵が出来次第。行われるそうだ。その為、勇者の到来が重なることもあるのだとか……


 うわっ、最悪じゃんと思った……


「先程はすみませんでした……」


「いいよ。俺も言いすぎた。心配してくれたんだもんな。ありがとう。でも、俺は俺の出来ることでみんなに返していきたいから。この身が滅びようとも、みんなを守るから。ま、そんなことには俺がさせないけど……じゃ、帰ろ」


「はい」



〈リーナの城にて〉


「うえぇぇん、うえぇぇん」


「よしよし、ちょっと待っててね」


「うえぇぇぇん!」


「ファルヴァント様、無理です。助けてください」


「俺無理、もう疲れた」


 今何が起きているかというと、赤子の機嫌をとっている。俺が抱き上げたときは泣かずに笑顔だったのだが、クロムやリーナが抱き上げたら大泣きし始めたのだ。もう俺は帰ってくる時ずっと抱っこしていたので肩が壊れてしまい、抱っこできない状態になってしまった。今魔力を送って治癒の最中だ。


「ファルヴァント様以外全員泣かれるんですよ」


「ファルくん!もういっそこの子のお父さんになっちゃえば!」


「いやだ。このこは東領の子供でしょ!」


「泣く子を置いていくのですか?」


「……」


 逃げ場がない。何故、何故なんだ。俺以外のものでもだき方は一緒であろう?それに俺は魔力が強大すぎるからいろんな意味で近づかれないのに……


「ファルヴァント様、ここは引いてください」


「あぁ、もう!食事はクロムね。そのほかの世話は俺がやる!じゃあ、こっちきてほら、涼牙」


「キャハハハハ。うー!아,」


「今なんて言った?」


 あれはな、韓国語だ。なんでこんな赤子が韓国語喋ってんの。意味わからないんだけど……


「涼牙、涼でいい?」


「あーうー!」


 やばい、なんて言ってるかわからない。言語が話せないのは不便すぎる……


「涼、「成長」って魔法使ってみて。魔力は俺の使ってもいいから」


「……」


 ま、魔力が吸われた!?もしかして「成長」が使えるのか!?


「う、あ、아빠?」


 な、なんで韓国語、でも、この世界に韓国語操る国ってあったっけ?うーん……記憶を探っても出でこない。


「俺はファルヴァントだ」


「あ、ファルヴァント?」


「君は一体何者?」


「韓国という国に住んでいた者です。現在は日本に住んでいます。ですが、ここは日本ではありませんね。どこでしょう?気がついたら森の中にいて、あなた方に抱き抱えられておりました。泣くのも笑うのも己の力といかず……」


 そう言って10歳ほどの見た目をした涼牙は恥ずかしそうに頬を染めた。


「まぁ、それは分からなくもないな、うん、俺もそうだったしな」


「ということはあなたも転生者ですか?」


「あぁ、日本人な。この世界について何もわからないだろうから俺が教えてあげるよ」


 俺は涼を連れて帰る為に周りに許可を得ようとしたが、周りは唖然としていた。うん、色々なことが起こりすぎて理解できていない模様……


「生まれてまだ間もないようだったが、誕生日は?11月21日との事です。それ以外の詳しい情報はあまりありません。まだ赤子だからでしょうか?」


「其方は今日が何日か知っているのか?23日だぞ?」


 生まれてから2日って、それで母親はるか高みに登ったの?それちょっと複雑なんだけど……そういや12月4日って初代魔王の生誕祭じゃないの!マジ?まだ俺祝詞覚えてるかな。


「え?では生まれてまだ2日ですか?」


「そうなるな。まぁ、お前のことは俺が守るから安心しろ」


「はぁ」


 俺は周りの意識が戻るまで話し続けた無理に現実世界引き戻しても楽しい事はない。なのでほったらかしにしておく事にした。俺に非はないからな責めるなよ?


 どうしたものか勇者一行を追わなくちゃならない反面コイツもどうにかしなくてはならない。やる事が多くて天に召されそうだ。おまけにこの後生誕祭も待っている。ま、頑張れ俺。


「そろそろ夕食にしないか?腹が減った」


「……」


 返事が返ってこない。流石に現実世界に引き戻した方が良さそうだな。


「みんな?おーい!帰ってきて!」


「あ、すみません。なんでしょう?」


「そろそろ食事にしないか?と言っているのだ。例のものたちの動きも怪しいからな」


 ジンジンと痛む目の方に意識を向け、口の動きをよく見る。英語は苦手だが、ある人並みは話せるので簡単な会話だったらわかる。特に異世界系の単語はバッチしだ。何故なら外国の小説をちょくちょく読んでいたから。韓国語も読むだけなら出来る。


 うーん、勇者抜きで魔王領に来るのかな?それを俺は阻止しなくちゃいけないね。俺は多分上からの密かな指示だ。公にされたくないだろうけど。これを見逃すわけにはいかない。大きく分けて行動班は2つ。テントに残る組とこっちに来る組だ。おそらく暗闇に紛れて来るつもりなんだろう。面倒だ。夜目が効くから人間より夜活動には向いているかもしれないけど、なんとなく眠いから寝たかった。それに今日こそは寝られると思ってたから前日あまり寝ていない。そのせいで眠いのだ。


「食事の準備をしてきます」


「頼んだ」


「涼は俺と話そ。色々と聞きたいことがある」


 俺は涼を連れて別室へ向かった。日本でのことや韓国でのことについて聞き、ある程度情報を交換した。転生した時期は約一年程差があった。殆どこちらの世界で生まれた時間と同じ。だから思考の違いがあまりなかった。それに前世は23歳の大学生だった為、好みなどの違いも少なかった。涼は俺の信頼できる友人になれる。なぜだかそう思った。


「そろそろ夕食の時間です」


「あぁ、すぐ行くよ。涼も一緒に行こうか」


「はい」


「敬語じゃなくていいよ。涼の方が年上なんだから」


「うん、そうする」


 そして俺たちは楽しく夕食を摂った。

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