第29話 娯楽中毒
床で寝てしまった事件の次の日、俺の腰は完全に回復していた。若いのにも関わらず腰痛に悩まされるなんて……と思ったが、おばあちゃんやおじいちゃんの言っていた意味がわかった気がする……そして腰痛は辛いね。こんなのに毎日襲われてたら何にも出来ない。俺はこれに毎日耐えている人を尊敬するよ。俺には耐えらんないから。
そして昨日チェスのコマを削り切った。板の方もまず目を削ってインクで色を付けてあるからいつでももう遊べる状態になっている。駒を削るのは使い慣れないナイフで行った為若干手を切ってしまったが、指が取れなくてよかった。駒の方は色を塗らなくても問題ないように黒に限りなく近い色の木と、白い色の木を使った。この世界では紙もインクも高価だ。ほとんどの市民は触れる事なく生涯を終えるだろう。
インクは油を多く使用している。動物から油を取るのも、植物から油を取るのも困難なこの世界では油は高価なのだ。没食子もっしょくしインクの主成分は「タンニン」と「酸化鉄」。
没食子から作られるから没食子インクと言い、「タニタン」は没食子に多く含まれる。酸化鉄は酸化鉄、酸化した鉄のことだ。
因みに…没食子とは、ブナ科の植物の若芽が変形し瘤になったものである。
発酵した抽出物を硫酸鉄と混ぜ合わせ、濾過する。出てきた薄灰色の溶液にバインダー(アラビアガムが最も一般的)
を加え、羊皮紙などの紙に使用する。簡単に言えば、硫酸鉄(FeSO4)を没食子酸(C6H2(OH)3COOH)に加えると調合出来る、という事である。
タンニンとは、植物界に広く存在するポリフェノールの一種で、収れん作用を持ち、口に入れると強い渋みを感じることが特徴。日本では肌につけることで、毛穴を引き締める効果を持つという理由で、化粧品などに配合されていた。抗酸化力も持っているので、動脈硬化を防ぎ、生活習慣病予防にも効果を発揮する。ちなみにこれは誰かさん(胡桃)から貰った知恵だ。俺が生活習慣病なのではと疑いを持たれた事が始まり。
没食子インクは一般的に硫酸鉄(FeSO4)を没食子酸(C6H2(OH)3COOH)に加えることで調合出来る。ただし、硫酸鉄は、鉄イオンを生ずるものであれば何でも使用可能だ。(例えば、釘、鉄くずなど)。没食子酸は普通、没食子から抽出されるが、他の種類の木の虫こぶからも抽出することが出来、没食子の抽出物に発酵や加水分解を行うことで没食子酸が遊離し、より濃い黒インクを得ることができる。
まぁ、前世(日本)ならアブラヤシ,ココヤシ,ダイズ,ワタ,トウモロコシ,アブラナ,ヒマワリ, ベニバナ,オリーブなどの植物から油を採取することができたが、この世界で油を採取できるのはダイズとヒマワリ、オリーブのみ。それらしか採取することのできる植物がない。俺が知らないだけかも知れないが。
因みに、インクが時間の経過とともに濃くなるのは空気中の酸素による鉄、{イオン(Fe2+)}鉄イオン(Fe3+)への酸化が原因だ。そのため、液体のインクはしっかりと密閉された容器に保管される必要があり、時間が経つと使用できなくなることがしばしばある。
時間と共にインクの色が濃くなっていくというのはこういったことが自然に行われているからという事だな。
とここまでインクについて語るつもりはなかったが、そろそろこの話は終わりにしようと思う。だってつまんないでしょ?俺はまだまだ語りたいことがいっぱいあるけど……例えばインクの歴史とか……これも面白いからね。ま、機会があったら教えてあげる!やっぱり今語る。俺が話したい!知りたい方はどうぞご覧あれ!
没食子インクの最初のレシピはプリニウスによるもので、漠然としたものでしかなく、多くの著名で重要な写本が没食子インクで書かれている。現存する中で最も古い完全な聖書で、4世紀半ばに書かれたと考えられている。シナイ写本もその一つ。製造の容易さと耐久性、耐水性の高さから没食子インクは地中海周辺だけでなく、ヨーロッパの写本筆写者にも人気だった。ルネサンスや中世から残っている写本の多くが没食子インクを使って書かれていて、残りはランプブラックやカーボンブラックを用いて書かれていることが証拠だ。同じ時代に、イギリスやフランスでは王室や法的な記録を全て没食子インクで書くことを規定した法律が制定されてもいた。
没食子インクの人気は植民地化時代以降世界中に広がり、アメリカ合衆国郵便公社は没食子インクの公式レシピを持っていて、インクはすべての郵便局で客の使用のために用意されていた。
没食子インクは耐久性と耐水性がある為、ヨーロッパでは千年以上、アメリカではヨーロッパによる植民地化以降、標準的な筆記用インクとして用いられてきた。
20世紀後半に、化学的な方法により耐水性のある(紙上の筆記により適した)インクが発明されて初めて没食子インクはその使用・生産が減少し、一般的に利用されなくなってしまう。
これは俺からすると悲しい過去……
今では、没食子インクの古い手法を復興することで、芸術家によって製造され、使用されている。また2017年、プラチナ万年筆より、ブルーブラックではない没食子インク(古典インク)が発売された。
これはもちろん俺も買った!発売日に!東京の本屋まで行って……なんとなく東京観光がしたくてね?観光つでにお土産として買って来たのよ。
という事で、インクの歴史は以上だ。簡単の説明できていたかどうかわからないけど、頭の隅にこの知識を入れておいてくれたら嬉しい。俺完全に覚えてたら俺の仲間だね!
ま、俺はそんな高価なインクを使って玩具おもちゃを作ったわけだ。インクも自分で作ればコストが下がるけど、手間が凄いのでやるつもりは今のところない。その代わりこのチェスは相当な金額がかかっている。ちなみにオセロの駒も作ろうと思っているのでその内オセロもできるだろう。今はまだ無理だけど。削るのは疲れたらしばらく休憩。
「ファルヴァント様、お仕事は終わっていますか?そろそろ昼食の時間ですよ」
「あぁ、今行く」
俺は昼食のために食堂に向かった。毒を食器に塗った犯人は捉えられたらしく、俺は外出することを許された。お陰で剣の訓練や魔法の訓練も再開し、外で伸び伸びと…ではなく、コテンパンにされるまで訓練を行えるようになった。
前よりもスピードや威力を上げた晴樹に敵うはずもなく俺はお腹を蹴られて気絶するのがお決まりになってしまった。
そして毎回毎回腹ばっかり蹴られたお陰で俺の腹は内出血で紫色になっていた。痛いは痛いのだけど、慣れて最近はもう気にならい。
食堂に着いたので、席に着くと食事が運ばれてくる。チェスを持ってきたので俺が食べている間にクロムと晴樹でチェスをやって貰おうと思う。
「クロム?このゲームやてみない?」
「なんですかそれ?」
「簡単に言えばコマの動かし方に沿ってコマを動かしてキングを動けなくするゲーム、かな?」
「面白そうですね。晴樹を呼んできます」
「うん、いってらっしゃい」
俺は食事をしながらルールの紙を読んで漏れがないかを確認していた。正直な話、ルールの漏れがないか確認するのは今更だと思うんだ。
「お待たせしました。ルールを教えてください」
「ん、これ読んでやって。俺はおいしい昼食の最中なので…」
「はい」
俺は晴樹とクロムがチェスをしているのを眺めていた。クロムの方が頭はいいんだけど、先を読むのが上手いのは晴樹なんだよね。瞬時にパターンを思い浮かべることができるのはいいんだけど、相手の心を読むのが下手。それに比べて、晴樹は運任せでありながら、先を読むのが上手いので2人の実力は互角だ。
そのあと、クロムと晴樹はチェスにハマってしまい、チェス板の前から離れられなくなってしまっていた。
そして次の日……
「寝不足そうだね」
「はい」
「昨日徹夜したでしょ?」
「そうです。徹夜しました」
「これに懲りて徹夜はしない事、いいね?」
「はい」
そうは返事をしたものの、晴樹とクロムはまた時間を忘れてチェスに取り憑くことがあったのだった。その度に俺はクロムと晴樹に注意をした。何度も同じ事を言うのは疲れる。のだと今知った。
だから俺は何度も同じ失敗をしないようにしようと思う。
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