第27話 亜陸の子供

「ファルヴァント様?朝です。クロムが呼んでます」


 そう言われて俺は目を覚ます。布団から起き上がり時計を確認すると6時を過ぎていた。昨日、夕食を食べて風呂に入った後クロムから色々と渡されてそれが早急だというから昨日のうちに仕上げようと頑張ったところ夜が明けそうになっているのに気づき、そのまま布団へ直行した。その為寝るのが遅くなり、寝坊したのだと思う。


 早く着替えなくちゃ。俺はまだふわふわする頭で頑張って着替え、支度を整えて部屋を出る。まだ中途半端な書類も手に持って筆記用具と共に持っていく。


 恐らく食堂ではないだろう。外に出るなと言われたのに外に連れ出すのは相当な用事がある時だけだ。こういう時、大体クロムは自室にいる……


「おはようございます。ファル様?」


「おはよう……」


 あ、寝坊したのバレた?寝坊したの怒ってる?だよね。怒るよね。でも、緊急で書類を渡す人がいたからこうなったんだよ?分かる?


「で、書類は終わったのですか?」


「後10枚くらい」


「左様でございますか。では早く終わらせてください。この後はもっと忙しくなるでしょうから……」


 え?今ここで?直ぐに?


「直ぐにですよ?今すぐに」


 わ、分かったからそんな怖い顔しないで。怖い。


 俺はすぐそばにあった小さな台に書類を置いて手早く済ませる。昨日沢山終わらせたこともあり、直ぐに終わらせる事ができた。


「終わりました?では行きますよ。急ぎの用事です。付いてきてください」


 そう言って連れてこられたのは亜陸と名前の分からないタスマニアデビルが住んでいる物置だった部屋だった。ここに何の用があるか分からないが、何か起きたのだろうか?


「えっと……何が起きている?」


「亜陸の子供が生まれました」


「………。」


「で、俺に何をしろと?」


「魔力が枯渇して死にそうなのですが、魔力の波長が合わないので分け与えられないのです」


 それで俺にやってみろと?そもそも魔力の波長って魔力のわずかな揺れのことでしょ?それを合わせればいいんじゃないの?故意に魔力の波長を動かすのはあまり良くないけど少しの間なら頑張れる。


「魔力の揺れって小さい?大きい?」


「ものすごく小さいので合わないのでしょう。おそらく。我々にはそもそも魔力の揺れを感じ取ることすら出来ませんでした」


 あー、それで色んな人がぶっ倒れてるのか。簡単に言えば疲れて休憩中といったところだろうか?みんな寝てるが……


 俺はなるべく揺れをなくすようにそしてごくわずかな量を少量ずつ手に集める。波が大きい時より小さい時の方が反応がいいな。という事はもっと小さくか……む、むずい。


 少量ずつだが、なるべくまっすぐな魔力を体内に入れていってあげる。すんなりと魔力を体内に入れて行っている様子を見るに恐らく波長は大丈夫だったのだろう。あとは魔力濃度だが、こればかりは何とも言えない。適合してくれればいいけど……


「ファルヴァント様、成功したのですか?」


「多分。わからないけど、目が覚めたら成功してると思う。じゃあ、俺はそろそろ部屋に戻るよ」


「朝食食べませんか?」


「あ、じゃあ食べてく」


「じゃあ、コイツの世話頼む」


 そう言って渡されたのはタスマニアデビルの赤ちゃんだった。いや、子守り押し付けるなよ、と思いつつ俺は祝いの言葉を口にする。


「出産おめでとう」


「ありがとう」


「で、この子は?可愛いけど何で俺に?」


「手が足りない」


 まぁ確かに手が足りないだろうね。三つ子だからね。大変そうだよ。育児がんばれ!俺は自分のことだけで精一杯だから、まだ一歳だし。


「じゃあ、飯食い終わるまででいいから、ちょっと食ってきます。1日以上食えてないんです」


「そういや、亜陸って敬語無理な感じ?」


「そうですね。苦手です」


「もうタメでいいよ。きついでしょ?」


「うん」


 えっとじゃあ、早く食ってきてね。マジで早くね!俺は3人の子供を抱っこする。まだ生まれたばかりだという事で目は開いていない。だが、手や足は元気に動いているし、顔も殴ってくる。


〈10分後〉


「うおっ!待て待て!引っ張るな!殴るな!」


「ほっへほふはふな(ほっぺを摘むな)」


「クロム、便乗して俺をいじめるでない」


「いいではないですか。というか、懐かれましたね」


「羨ましいだろ?」


「今の状況で羨ましいとはとても思えません」


 そうだな。俺もクロムの立場だったら思わないだろうなぁ。


 俺の今の状態は3人の子供にジャングルジムにされている。一匹は右腕、もう一匹は左腕、まぁ、ここまでは普通だろ?何も違和感ないんだよ。でもな、最後の一匹が何故か俺の顔面に張り付いているのだ。俺の顔は爪で引っ掻かれた跡がたくさんある。今は頭の上にてご就寝中だ。何故そこで寝る!と思わなくもないが、起こすのはかわいそうなのでそのまま頑張って耐えている。


 一方俺の左右の腕はお猿さんかな?って感じの子達がよじ登って遊んでいる。やはりこちらも引っ掻き傷だらけだ。そんなに重くないから大変じゃないんだけど、ヒリヒリする。


「ファルヴァント様、魔王様なのに使い魔に傷だらけにされてますね。面白いです」


「こっちからしてみれば全くもって面白くないね。それに、ヒリヒリする」


「面白いですよ。かわいいですね」


 可愛いというのはわかるが、面白くはない。


「すまない時間がかかった……ブッ!なにその顔」


「お前の息子と娘にやられたんだよ」


「面白いな!またこもり頼むわ。で、ありがとう、そいつら預かる」


「そういや名前決まってないのか?」


「あいつが考えてたみたいだからあいつが起きたら聞く」


「そうか」


「それと、あなたの奥様起きましたよ」


「マジ!」


 そう言って走って行った。なので邪魔者は退散するとしよう。という事なので部屋を出る。


「ではファル様、仕事をちゃんとなさっていてくださいね。こっちはこっちでやることがたくさんありますので」


「わかった」


 俺は1人寂しく部屋に戻り、1人寂しく部屋で仕事をした。そして剣の訓練に外に出たのがバレ、晴樹にこてんぱんにやっつけられた。それを見たクロムが俺を説教し、部屋から脱走したタスマニアデビルの赤ちゃんたちに遊んでもらった。


 午前中は寂しかったが、午後はそんなことを考えることもなく終わった。その後はわかるだろう。疲れた俺は部屋に戻った瞬間意識を失うように倒れ込み、床に寝た俺は朝腰が痛くて起き上がれなくなった。


「うぅ……クロム呼んできてくれない?」


「分かった。というか何で起き上がれないんだ?」


「床で寝た」


「何とひ弱な体なんだ!」


「そんな事で感心すんな!一応これでも魔王だから!剣使えるから!魔法使えるから!」


 俺は涙目になりながら訴える。


「こ、腰痛い……」


「無理すんな。クロム呼んで来っから」


 床に寝そべったまま俺は魔法を使って体を洗う。そして自分の体を風で浮かせてソファーまで運ぶ。正直な話これでも結構腰が痛い。



「ファルヴァント様?どうしたんですか?」


「助けて。クロム……」


「何をしたらそうなるんです?」


「床で寝た」


「バカですか?」


 あの、バカとか言わないでくれません?これでも一応魔王なんですよ?


「そうですか。そうですか。そうですよね」


 絶対今どうでもいいと思ったって。


「思いました」


 正直に話さなくていいよ。


「じゃあ、今日は大人しく寝ててください。これはクロムからの贈り物です。つけて寝てください」


 そう言ってベッドに運ばれ、指輪をつけられた瞬間聖属性の魔力が体の中に流れ込んでこんできて苦痛に顔を歪める。


「ぐっ」


「頑張ってくださいね」


 そう言って出て行ったクロムはイタズラが成功したような顔をしいていた。


 もう耐えられない。

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