第26話 使い魔
「頑張るようで何よりでございます」
へ、返事が……聞かなかったことに、して?
本当に、もうこれ以上俺をいじめないで?そろそろ色々とヤバそうなんだから。
そろそろ人間側がこちらの様子を伺って来てもおかしくなくて警戒を強めなくちゃいけないんだから頑張って仕事しろと言われるに決まってる!人手不足なのは年がら年中だからいつでも人員募集中だ。
政治の方も女の人は出産を終えて、育児がだいぶ落ち着いて戻ってくるという人は多い。また妊娠したらいなくなるかも知れないけど、少しでも居てくれるだけですごく助かる。
人間界ではよくある男女差別。女の人は働いてはならないという謎の考え。この考えは魔族からすると汚い人間の考えで、そういった考えをする人は周りから大層嫌われるそうだ。俺も男女差別なくてよかったと思ってるから。
昔の日本のことも踏まえて考えればこの土地はかなり良い土地なのかも知れない。
ケンカなどが続発してはいるものの「ケンカするほど仲がいい」というし、実際助け合いも多く存在しているみたいだから環境は気に入っている。
俺は部屋のドアを開けて廊下に顔を出す。そこにいたのは一羽のコウモリ。
「何かよう?」
「ご主人からこの部屋を覗くように言われた」
基本的に使い魔は人間に嘘はつかない。そして黙り通すこともしない。例外ももちろんいるが……素直に答えてくれる使い魔は使いやすいが、デメリットが大きいからな。案外頑固者の方がデメリットは少ない。俺はツンデレくんをお勧めする。
からかい甲斐があって仕事はしっかり果たすから。それに見知らぬ相手に面白い反応を見せてくれるから。俺のよく使ってる使い魔がごく稀にツンデレを発揮していて可愛いと思ったのだ。
亜陸はちょっとまだわからないけど、多分俺様系?負けず嫌い?敬語使ってるから……俺的には使わなくてもいいんだけど外聞的な問題で1ヶ月ぐらいは我慢してもらうしかない。流石に出会ってすぐ敬語外すんじゃ周りから注意されるからね。
「中入っていいよ」
そういうと大人しく俺についてきて、その辺に置いてあった木の枝に止まった。俺はそこじゃなくてもいいんだけどと思ったが、口には出さない。本人がいいと思っているんだろうから。多分……?
「君は誰の使い魔なのかな?」
「名前知らない。ご主人様って呼ばれてる。顔も声もわからない。我らのやりとりは全て魔力を通じたものだから」
魔力を通じて会話?そんな高度なことが出来るということは相当訓練されているはずだ。いや、生まれた時から魔力言語を使っていれば使えるのか?
魔力を込めて命令するのと魔力言語を使うのは全く違うことだ。魔力を込めて命令するのはただ単に魔力を込めて命令を聞き入れやすくすることで、魔力言語とは魔力のみで会話すること。
魔力を込めて命令するのはこうだ。
『ここに来い』
そう言うと、素直に俺の腕に止まる。対して魔力言語は魔力の波長、流れ方や強さ、スピードなどを操って交渉する感じ。命令とはちょっと違う。今のは「頑張るようで何よりでございます。と言ったのは君か?」という質問だ。間違っていなかったら伝わるはず……
「私ではない。男だ。魔族の」
魔族以外がこの城の中にいないはずだから魔族なのは当たり前だ。男といえば……クロムか晴樹?他に俺に接触してくる人は少ないからな。それに「頑張るようで何よりでございます」なんて言ってくるのはクロムしか思いつかん。晴樹だったら「そんなに当たり前だ!」と言われていただろう。このことはクロムに報告しておいた方がいいな。そう思い俺は手紙を書く。今現在部屋から出ることを禁止されている以上これ以外に連絡手段がないのだ。簡素な言葉で分かりやすいように書いていく。完成度は我ながら完璧だと思った。
「他にも特徴ない?髪の毛の色とか……」
「そいつは全身真っ黒だったから髪色も何もない。フード被ってて顔すら見えなかった」
何じゃそりゃ。お得意の正体隠し?もうそんなのウンザリなんだけど!ルキアが一番怪しいけど奴は今出張中だ。(ただ単に出かけてるだけ)他の領地の人たちもいるけど人間の縄張りに面してるからなんだかんだ言ってそんな事をしている暇はない。そうなると誰が一番上だかわからない。
「で、目的は達成した?」
「え?」
「俺を監視してたじゃん!」
「あぁ!あれはもう達成しました主人様からオッケー出ました!」
詳しく聞けば、見たものを共有できるらしい。聞いたことや食べたものなどは無理だが、視覚共有だけが可能なようだった。何と素晴らしい使い魔。そして扱う側も相当な実力を持っていそうだ。これじゃあ尻尾は掴ませてくれなさそうだな。詰めが甘ければこちらからでもいけるかと思ったが、結構厳重な守りがあると見た。あらかたこちらから干渉してくるかもしれないと気を張っているのだろう。
「じゃあ、君はこのまま帰る?」
「はい、でも仕事ないので私はしばらくどこにいても大丈夫なんですよ」
「じゃあ、ここにいる?居場所ないんでしょ?」
「宜しいのですか?」
別に構わない。そう答え、俺はクロムを呼ぶために呼び鐘を鳴らす。
「何か誤用で?」
「忙しいときにすまない。この子が俺を監視するように言われてここに来たらしい。しばらく此処に滞在したいと言っているからお願いできるだろうか?」
「そのくらいなら大丈夫です」
「ありがとう。それと送ろうと思ってた手紙手渡しになったが、読んでおいてくれ。色々と書いてある」
「了解しました。夕食は自分で作りますか?」
「あ、自分で作るよ」
そう言うとクロムは助かりますと言って部屋を出て行った。相当忙しいんだろうな。俺も頑張ろ。亜陸も別の部屋で書類を片付けてくれているみたいでいつもより量が少ない。頭のいいペットは嬉しいね。
※一応ペットではなくて使い魔です。
俺の部屋から見える庭そこには植物が生えている。俺が作った結界で植物が育てられるようになったのだ。そこから見えるのは人間界から持ってきた花や木などが植っている。少しずつ花を咲かせる花も、段々と大きくなる木も、見ているだけで楽しい。植物を急成長させる魔法があるらしいが、俺は使わないで育てることにした。案外種子から育てるのは楽しいし……
そして毎日の日課になりつつあるのが花の水やり、時間帯は特に決まっていないけど休憩時間にいつも水をやっている。4階から水をぶち撒けるのはある意味訓練になるし。そこまで広くないが、城の中で数少ない緑がある場所になった。たまに人が寝ているところや読書をしているところを見かける。俺だけではなくみんなも楽しく使ってくれているようで何よりだ。
今日は剣術の訓練はお休みになるだろう。部屋から出るなと言われたし、部屋の中で剣を振り回すわけにいかないからだ。
前世では暇なとき何をしていたか考えたが大概の記憶がゲームやアニメ、プラモデル、YouTubeやTwitter、Instagramなどしかなかった。小さい頃はロボットやプラレール、レゴブロックなどで遊んでいたが、そんなものはこの世界にない。
ゲームはチェスやオセロ、麻雀などが思いついたが、どれも道具がないと諦めた。道具を作ればいいのだが、めんどくさくてやる気が起きない。アニメは電子機器がないから無理だし、プラモデルは材料がないとできない。確かに自分で一から作ればいいと思うが、そんな根気俺のどこを探っても出てこないと思う。YouTubeやTwitter、Instagramは論外。という結論に至った為今はチェスを作ることを決心しそれをちまちま削っているところだ。めんどくさがりな俺には難題。
「ご飯食べないので?」
そう声をかけられ、俺は夕食の準備に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます