第24話 毒を盛った犯人の黒幕

 俺が休んでいる間、クロムは忙しく働いてくれていたようだ。俺の机には紙の束がたくさん置かれていた。それらは俺の一存でどうにでもなる書類達だと思う。中には今回の件について書いてあるものもある。俺は中を確認したら判子を押して確認済みであることを示す。


 それとは別に紙の束があるのだが、それは恐らくクロムと晴樹がまとめてくれたものだろう。簡単に言えば資料みたいなものだ。よくこんなにいた候補の中からここまで絞ったな。


 俺に毒を盛った犯人は色々な人と接触しすぎていて候補が多すぎた。ざっと300位いた。その中で派閥ごとに分け、俺の味方をしてくれている者、平和条約的な物を父上の時代から繋いでいる者を除くと50人くらい減ったが、まだ、250人は疑いがかかったまんまだった。そこで、嘘をつけなくすると言われる「嘘の天秤うそのてんびん」や、心の声を読む能力などで真実かどうかを確かめたみたいだ。


 「嘘の天秤うそのてんびん」の置いてある部屋で、それぞれの心の声を聞きながら質問をしていったらしい。


 最初は俺によく関わっている者から行われ、だんだんと関わりの薄い人物に質問をしていった。理由は簡単。俺に関わっている人物が信用できない状態ではまともに仕事も頼めないからだ。晴樹はちょうど2日前に帰ってきたのでそのときに彼もその検査をクロムと俺によって受けている。


 そう、この時だけ、本当にこの瞬間だけ外に出られたのだ。


 「嘘の天秤うそのてんびん」とは特殊な術式の詰まった魔道具だ。これに関しての記述は少ない。なぜなら大大魔王が隠し持つことが多いからだ。この「嘘の天秤うそのてんびん」は色々な悪事を暴くことができる便利なものだが、この世に一つしかない。だから、相当大きな事件または大きな裁判にならない限りこの魔道具が使われることはない。


 今回「嘘の天秤うそのてんびん」が使われたのは俺に毒が盛られたからだ。本来多くの人の目に貴重な魔道具を晒すことは良くない事。だが、それが魔王の命に関わることならそんなことは厭わない。


 この世界、(正確にはこの地だが……)では魔王(王)の命が一番重い。あらゆる者から命を狙われる立場上こうなるのも仕方がないと言えた。


 魔族とは争いを好むものが多く、気象が荒い。女子供含めてそうか?と、聞かれれば確実にそうとは言えないが争いを好み、気性が荒い者は人間より多い、確実に。


 前世と比べてもそうだ。クラスで2〜3人確実にヤンチャな奴がいるだろう?物を壊したり、よく喧嘩したり……それって30分の3だから、10分の1くらいの確率でヤンチャさんがいるということになる。その割合が魔族の場合は3分の2くらいになるといった感じだろう。結構多いな。


 まぁ、そんなだから報告書に喧嘩しただの何だのという言葉が書かれているんだな。些細なことで挑発し合う幼い心の持ち主だけがこのように喧嘩をして魔王直々に手紙で説教されるのだ。


 文句なんだが、いちいちそんな手紙を俺に手書きさせるな!って思うのよ。その辺皆さんどう考えます?喧嘩なんて至る所で起きているし、俺からの手紙コレクションにしてる人もいる。魔王の手紙なんて貴重なものが喧嘩をしたら貰えるという感覚なのだろう。反省は全くしていないと思う。おそらく……中には真面目に返事まで書いてくれる人もいるが、ごく少数だ。返事来た時は反省しているようで何よりと思う。


 急に話を変えるが、今度は残っている候補者……というより、共犯が多すぎて目が回りそうだ。今回の事件薬から、俺の日程、何から何まできちんと調べて行われたものだったらしい。この事件を起こしたのはルキアの部下である。ルキア自身は何もしていないけど、何らかの手を使って協力したのには間違いない。この事件の事があるからルキアをここで罰することもできる。だが、北部の人たちには信頼されており、戦闘能力も高い。そんな人材を安易と消せるほど魔王領も潤ってはいない。


 魔王だって生まれて一年と5ヶ月しか経っていない赤子なのだ。それに部下も前回の戦争でだいぶ失っている。ものすごく強い人材は生き残っているが、ある程度戦える。人間100人くらいなら頑張って相手にできると言ったまだ戦闘力が安定しないものたちは何十人とこの世を去った。大魔法で生き返らせられた者もいるが、それはごく少数だ。


 蘇生魔法そせいまほうとは術者が魂を呼び出し、魔力によって肉体を復元させなくてはならない。そのためにはその者の一部、DNAが残っていなければならない。この世界の戦争は第一次世界大戦や第二次世界大戦の比ではないくらいに激しい。敵味方、どちらでも攻撃が当たれば肉片すら残らない。全て燃え、灰やチリになる。


 だからこんな時代には蘇生魔法が使えても、蘇生魔法に必要な死体が残らなかった。


 蘇生魔法にはいくつか条件があるみたいで、それをクリアしないと蘇生魔法を使っても意味がないらしい。それについては詳しくは知らない。人間との戦争が近くなったら教えてくれると言われたが、多分教えてもらえないだろう。


 っていう理由で色々とことが進まない。今の派閥は魔王派と反魔王派に分かれているといえよう。


 権力に言えば俺が一番強いはずだが、それは表だけ、実際はルキアの方が強い。自身が強く、部下を直々に鍛えているからか個々の能力が高い。ルキアの領地、北部は個々の能力が高いのが長所だ。


 俺、勇者を3人相手にしなくちゃならないみたいだ。勇者は3人で一つのパーティーのような構成になっているから3人で協力して1人の強大な敵を倒す。その為俺は1人で勇者の相手をしなくてはならない。


 基本的に前衛1人と後衛2人の構成で、剣士と魔導士(魔法使い)、援護魔法&弓術がそれぞれ1人ずつ。


 バランスはとてもいいと思う。


 勇者は魔王にしか太刀打ちできないし、普通の人間も魔王に太刀打ちできない。両者の力は強大すぎる故に起きた戦争でもある。自分の味方をするかどうか分らない者は即座に切り捨てるのが人間だ。大方向こうから仕掛けてくるだろう。今までもそうだったらしいからな。


 仕掛けてくるのは時間の問題勇者が人間からしてとても強くなったと思えば全勢力でこちらに攻めてくるだろう。それを防衛戦で耐える。


 攻めるより守りの方が簡単だ。こちらの状況の方がずっといいから。魔王領に来てまともでいられる人間が何人いるかだよね。俺の魔力は特に闇属性が強いみたいだからここら周辺の魔力もずっと濃くなっている。


 人間はこの環境、体に悪いらしいし……


 唐突に話を何度も変えるが、実行を企てたものと実行したものは減給処罰が与えられることになった。他にも罰が与えられたみたいだけど、それは教えて貰えなかった。処刑されないのは今大事な勢力を失うのはキツイから。


 恐らく何らかの重めな罰を受けたはずだ。


 ちなみに第一騎士団の人員は入っていなかったと思う。第四が一番多かったかな?確か……


 クロムも晴樹も頑張ってくれたみたいだな。それに応じた褒美でも出そうか。そんなことを考えているときだった。


「ファルヴァント様!そのお飲み物飲んでいませんか!?」


「うん……飲んでないけど?」


「この城の食器や茶器など様々な物に毒が塗られています!」


「またおんなじ人?」


「それはまだ……なので部屋の警戒度を強め、この部屋から出ないでください。この部屋はそのまま自室にもつながりますので大丈夫ですね?」


「うん、はいこれ」


「私達はもう少し動きます。飲み物入りますか?」


「いや、いいよ。俺は何にもできないから書類でも片付けてるよ」


 そう言って俺は机に視線を向ける。俺はミカに助けを求めることにした。


『ミカ、聞こえる?緊急だ』


『はい、何でしょう?』


『この城で何か起きている!食器に毒を塗った人物がいる。そいつを探せ!毒を持っている犯人に心当たりはあるが確実ではないから内密に事を運んでくれ』


『分かりました。これは私に適任ですね』


 そう言って通信が切れる。俺は自分の仕事を済ませる。五日間もサボったから仕事が溜まっている。


 魔力の供給もまだ済ませていない。


 魔力の供給はこの城を守るのに必要な燃料なので俺はそれを真っ先にすべきことだと判断し、寝室へと向かう。そこにある隠し部屋へと足を運び、魔石に魔力を注ぐ。だんだんと魔石の色が白から紫色へと変化する。これのおかげで魔力量もだいぶ増えたように思う。この世界での魔力は使えば使っただけ量が増える。増えるのにも限界があるが、まだ限界は来ていない。


 だんだん意識が朦朧としてきて、危なくなってきたので魔力の供給を止める。


 そしてそのまま供給の間から出て、執務室に戻った。その後はひたすら判子を押した。


 10時くらいに適当に作ったトマトスープを食べ、風呂に入り、寝た。


 俺は次の日も部屋から出られないのであった。そしてミカからの連絡も当分来ないのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る