第23話 父上の日記

 晴樹とクロムに聞いたがそんな部屋に覚えはないという。お父様が小さい頃からこの城にいるけど、そのような話は聞いたことがないそうだ。


「どうしよう。でもあの書物の中身は見ておきたいよね。何かしらこの部屋についても記述があるかも知れないから」


「そうした方がいいでしょう。僕は入れないので外で書類でも処理しておきますね」


「それは助かる。頼んだよ。俺はちょっと向こうに行ってくる」


 そう言って俺はさっきの部屋に入り、新そうな本を手にとる。書物が古すぎる場合、内容が読めないことも考慮し、新しいものから内容を拝見していくことにした。


 最初に手に取った本は題名がついていないただのノートだった。俺はそれをパラパラとめくって中を見ていく。すると1ページだけ綺麗な文字が綴られているページがあった。そこには手紙らしきものも挟まれている。俺はその内容を確認すべく手元にあったペーパーナイフを用いて封を切る。


 中から出てきたのは青色のラインの入ったシンプルな便箋だった。これも綺麗な文字が綴られ、文頭にはリューレリアへと描いてあった。お母様の名前……これ、お母様に渡すはずだったものなんじゃ……それを渡さずにこの世から去っちゃったって事?


 中を読んでみる


リューレリアへ


 私の好きなところ言ってと言われた時答えられなくてすまない。あれは、なんというか、人が大勢いる場でこのような事を言うのは気が引けたのだ。そなたの照れて赤くなった顔など誰にも見せたくなかっただけでそれ以外の意味なんてない。

 リューレリアの雪のように白い肌も、その赤い唇もほんのり赤くなった頬も全て大好きだ。其方が好きすぎてめちゃくちゃにしたくなる。触れるだけで体温が上がって心臓の音が聞こえないか心配になる。

 それくらい大好きだ。だから城に来て欲しい。


ウェルフォードより


 俺の感想……


リューレリアへ


 私の好きなところ言ってと言われた時答えられなくてすまない。あれは、なんというか、人が大勢いる場でこのような事を言うのは気が引けたのだ。そなたの照れて赤くなった顔など誰にも見せたくなかっただけでそれ以外の意味なんてない。

 リューレリアの雪のように白い肌も、その赤い唇もほんのり赤くなった頬も全て大好きだ。


 俺はここまで読んでやめようかな?と思った。正直お父様の恋文なんて読みたくなかった。これクロムと晴樹に見せてやろうかとも思ったが、俺がやられたら耐えら得ないので秘密にすることにした。


 手帳にも似たような恋文が書かれていた。


 そして次に手に取ったのは鍵のついた箱。これもまだ新そうだ。その箱は鍵がかかっているけど、魔王の血が流れていれば問題ない。簡単に開く。


 その中には魔道具が入っていた。画像を数録するものだ。それに魔力を流し、電源をつける。映し出された映像はどれも若い男女が楽しそうに映っていた。お父様の肖像画もお母様の肖像画も見たことがないから確信できないけど、多分お父様とお母様だ。クロムと晴樹に聞けば分かるだろう。


 それをそばにあった机に置いて他の本の中も見てみる。どれも日本語で書かれているが、所々英語で書かれているものが混じっていた。


 本棚に収められている本は年代ごとに並んでいる事がわかった。左から順にだんだん新しくなっていく、というルールみたいだ。それで、魔王になったらみんな何かしらここに収めているみたいで、歴代の魔王たちの大切なものと思わしき物が入っていた。


 まぁ、どれも流石というべきか、字が綺麗で誤字もない。それに文芸書などを書いている者もいる。そこには勇者に関する記述もある。伊能忠敬が日本語に直した、ヨハン・アダム・クルムスの解体新書。あれに似たものも置かれている。書かれているのは人間の体だ。魔族の体ではないらしい。これを見ると筋肉の動きで次どんな撃破が来るのか予測できるようになるらしい。だからジャンケンも負けることがないのだそうだ。


 筋肉の動きを観察する、か。これは頑張ればできるようになるかな?


 ヨハン・アダム・クルムスの解体新書と同じような本の中に召喚された勇者の事について書かれたページが1ページだけあった。これは貴重だと思い。紙に写し、別の場所にまとめることにした。


 内容は要約するとこうだ。勇者は神の力を有している。そして魔王は邪神との繋がりを作れれば勇者より強い。


 勇者は召喚されるときに神と対面し、自分に合った能力を見つけるそうだ。それに比べ、魔王の場合は自分で邪神のいる神界まで行かなくてはならないらしいから根本的なスタートが違う。勇者のスタートラインは魔王の邪神に会ったところだからだと記されている。実際この本を書いた人は邪神に会ったことがあり、能力も与えてもらえたが、その力に飲み込まれて亡くなったそうだ。それを後から書き足したのは彼の息子だと名乗る人物であった。


 俺は何冊かの本を読み終えると謎の部屋を出た。謎の部屋の名前はルユン(Ruin、英語で破滅という意味から取った)だった。


「もういいのですか?まだ4時間しか経っていませんけど?」


「ああ、毎日ちょくちょく読んでいくつもりだ。あの本の量は多いから1日では無理があると思ってな」


「左様で」


「あのさ、昼食ってクロム言ってた?そろそろ時間だと思うんだけど……」


「ああ、ファルヴァント様が部屋から出てきたら昼食へこいと伝えておけと申しつかっています」


「じゃあ、行ってくる」


 そう言って俺はそのまま食堂へ直行した。そこにはもう既にいい匂いが立ち込めており、俺のお腹を鳴らせた。


「あ、ファルヴァント様、早かったですね」


「数冊読んで切り上げてきた」


「そうでございますか。昼食を食べた後に晴樹特製の訓練チョコレートを食べるようにと渡されているのですが、食べますか?個人的には食べなくてもいいんじゃないかな?とか思ってしまうのですが……」


「初日くらい食べるよ」


 俺はそう返事をした事を後から後悔する事になるだろう。


 今まで欠かさず出た豆腐は今日も献立に入っている。パスタというイタリア料理に豆腐はあまり合わないので豆腐を食べてから飲み物を飲んでパスタを頂く。量もきっちりと計算されているのだろう。お腹がいっぱいになるくらいのちょうど良い量だ。そして食後に出されたのは色々な色をした丸いチョコレートだ。一見普通のチョコレートに見えるが、これには何かしら仕掛けがあるらしい。俺はそれを一つ摘んで口に入れる。


 チョコレートはほんのり甘くていい感じだ。ところが、全て食べ終えたときに異変を感じた。


「ガハッ」


 毒!?毒の効力を弱くする魔法を掛ける。万が一の時にと教わっておいて良かった……


「ファルヴァント様!」


「ゴホッ、ゴホッ」


「ファルヴァント様!」


 だんだん意識が遠のいていく、あ、ダメなのかな?俺、このまま死んじゃう?


「ファルヴァント様!」


 最後に聞いたのはクロムの慌てた声だった。


「クロムから渡されたのは聖属性の魔力を含んだものだった筈なのだが……それに作っているところは見ていたから毒を入れているところは見ていない。それに、味見をした時は大丈夫だったはずだ。晴樹のチョコが原因でないとなると誰かがチョコを入れ替えた可能性が大きいか。生憎晴樹は出かけていてあと数日は帰ってこないから大掛かりな創作は後回しになりそうだ。それにしても予備の魔道具を持っておいてよかった。俺がなかったら危なかった」


 そのような独り言?が遠くから聞こえる。その声に引き戻されるかのように俺の意識は覚醒していく。


「んっ」


「ファルヴァント様!起きましたか!」


「ああ」


「まさか毒だとは思わず…‥すみません」


「クロムのせいじゃないんだろ?それならいいんだ。入れ替えた人間には心当たりがある」


「それはどなたで?」


「アーレイだ。甘いものは好きか?と尋ねられたのがつい昨日」


「それに好きだ。と答えたのですね」


 俺はそれに黙って頷いた。視線を彷徨わせると俺の足の上で寝ている亜陸が目に入った。疲れて寝ているようだ。


 それから体調が回復するまでは書類はやらなくていいと言われた。まず、体を治すことが最優先だ。と。


 なので5日ぐらいずっとベットの上で退屈することになるのは未来の俺しか知らない。

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