第22話 謎の書庫
意識がだんだん覚醒していく。目を開ければ目の前には紙の束。そしてそこに座っている亜陸がいる。
「あ!書類!」
「そんなもん終わらしておきました。それとこれを預かってますよ。ファル様悩んでましたねぇ……とか言って……」
「ありがとう、亜陸ぅ〜」
「だ、抱きつくな!気持ち悪いぞ!」
「照れてる、うふふ〜」
「もう知らん!」
そう口にした亜陸は頬を膨らませ、そっぽを向いてしまった。そんな亜陸も可愛いけど。照れた亜陸や拗ねた亜陸は口調が崩れるのか。そんなところもあるんだな。人間みたいだ。今は魔族みたいだ。の方がいいか?元人間である為なかなか人間であるという意識が抜けない。それも仕方ないのだろうか?
亜陸をいつのまにか強く抱きしめていたのだろう。苦しそうな声を出している亜陸が視界の端に映り、慌てて力を緩める。
「苦しかったのです!」
そう涙目で訴えられると弱気になっても仕方がないだろう。と思えてしまう。なんせ体が小さくて小動物みたいな感じだからだ。
「ごめん、ごめん」
俺は素直に亜陸を開放し、お肉を貰いに食堂へ向かった。今日のご褒美を貰いに行くのだそうだ。あくまで頼むのは俺だけど。亜陸が所望したのは魔物の肉と何故か薬。何の薬だかわからないけど、何かに使うのだそうだ。まだ生まれて1年2ヶ月しか経っていない俺は知らなくていい薬らしい。何だよ。俺だけ省けもの感がすごいんだけど!
透明で特に特徴もない液体だった。これじゃあ、調べても何にも出てこないじゃん。透明の薬なんて山ほどある。俺たちの敵となる聖水や痛みを和らげるためのものなどなど様々だ。
ちなみに痛みを和らげる薬はカロナールと同じ働きだった。中枢神経に働きかけて様々な痛みを緩和する薬で、体温調節中枢に直接作用し、熱を下げる効果もある。この薬は風邪を引いている時に使ってはいけないやつ!
そう、俺は熱を下げるという効果のせいで風邪をひいている時にカロナールを飲めなかったのだ。2022年俺はコロナとかいう謎のウイルスにかかった。喉が痛いからカロナールを飲もうとしたら母親に止められた。「熱下げちゃうからダメでしょ!」って。
熱を上げる事でウイルスをやっつけようとしているのだ。それを阻害するな、と手短に言われた。
なので異世界でもカロナールと同じ効果の透明な薬は風の関節痛や喉の痛みに飲んではいけない。異世界だからって言って風邪も魔法で治せると思うなよ?怪我だけだぞ?一部の者は病気も治せるとかいうチートを持っているみたいだが……
そんなチート、俺は使えない。魔法だって普通に訓練して使えるようになったんだから。剣術だってそうだ。
それで、透明な薬の話に戻るがこの世界に存在している透明な薬は約2683種類。その中から同じ効果を見つけ出すのは2683分の1の確率だ。当たるとは思えない。だが、俺に服用したことのある薬を抜けば2675分の1。当たる確率が相当なのは変わらない。それにその薬を用意させたってことはこの城になかった可能性が高い。という事で捜索は諦めるしかないだろう。
俺は亜陸の食事と一緒に俺の分ももらい、その場を後にする。何やらよからぬことを考えているのか亜陸はニタニタと不気味な笑みを浮かべていた。流石タスマニアデビル!悪魔っぽいぞ!
「じゃあ、部屋で食べる?」
「そうする」
俺の部屋で食べるとのことなので机を片付けそこに食事を置く。
「なぁ、あの薬って何なんだ?」
「閨を知らないお子様にはわからない事です」
へぇ、閨事ねぇ。お前それ媚薬でも貰ったんか?俺だって高校生だったんだ少しは興味あったよ。調べたさ。周りがその話するもん。一回だけだけど。調べて一回でやめた。正直これのどこに興奮する要素があるのかわからないし、そんな感じだったのでやっぱりファンタジーしか勝たん!となった。
「何だその微妙な顔は、知っているのか?」
俺は知っていると答えづらかったので首を振っておいた。気づかれてはいないだろう。亜陸は俺が転生者だって知らないもんね。
「で、その閨ってのに使うってこと?」
「うん」
はぁ、もういいや。なんかすごい変なこと話してる気がするし……気がするじゃなくて話してる。だけど。
「あのさ、あの書類。魔物関連の書類入ってなかった?」
そろそろ向こうから届くはずなんだけどまだ届いてなかったんだよね。
「入ってましたけど?それがどうかしました?」
「いや、それ俺の書類だから持っていっちゃ困る」
「ああ、あの説明文みたいな本か」
説明文みたいな本?そんなに分厚かったの!?読みたくないなぁ
「あれは結構ちゃんとまとめられてて見やすかったですが、読む気失せますねぇ」
それは……ちょっと読みたくないかもしれない。わかりやすくても飽きちゃうような本って面白くないって事でしょ?ただの知識吸収だと思えば苦ではないが、話を聞く限りなかなかに読みづらそうである。
「それってどこにあるの?」
「ここです」
そう言って指したのは俺の普段全くと言っていいほど使わない来客用の机だった。そこには資料という資料が積み重なり、来客用テーブルに見えない。まともに整頓されているのは自身の机だけ。そろそろ片付けなくちゃかな?そう思い、本棚を一瞥する。した場所はない。いらない本や奥に詰めても問題ないものは奥に詰めてしまおう。そう思い、奥に押せる本はないか一冊一冊確認する。
今の所本が儀っちると詰まっている。一冊一冊確認していると後ろが空いている場所があった。それを後ろに押して新しい資料を入れようとしたら「ガコン」と音がして本棚が勝手に動き出す。大規模魔術が動いたみたいだ。魔力はこの部屋一体から感じられる為、何処が中心なのかわからない。
やがて本棚の動きは終わり、部屋が現れた。埃とインクの匂いがする。そこにはたくさんの資料が置いてあった。
「何だろ?」
「何かいいものでも見つけたんですか?」
「うん。これ、凄いや」
そう言って俺ははやへ踏み出す。俺は問題なく入れた。だが、亜陸は入ることができない。何故だ。魔力量で言えばそんなに変わらない筈。人間であるか使い魔であるかなんて魔法では見分けられない。
「魔力不足なようで入れないです」
魔力不足!?俺と同じくらいの量のはずなんだけど!?
「魔力量はファルヴァント様の方がずっと多いですよ。僕は使い魔ですから」
「え?でも魔法あんなに打てるのに」
「ファルヴァント様の魔力の使用効率が悪いだけだと思います」
なんか馬鹿にされた気分なのだが……でも、練習あるのみだ。精神が削られる関係上魔力量と関係なしに疲れる。
「この部屋について知らないか聞きに行かない?」
「行ったほうがいいと思う」
俺は亜陸の意見に従い、クロムと晴樹に聴きに行ったところそのような部屋は知らないと言われた。さてどうしたものか。あの部屋の書物は相当に古そうだ。もしかしたら昔の記述なんかもあるかも知れない。それが見つかったらこれからに役立つだろう。勇者について調べてみるのがいいかも知れない。どっちみち俺は勇者と戦うことになるんだ。歴代勇者を知ってた方が戦いやすいと思う。
魔王は倒されなくちゃいけないのかも知れないが、俺はそんなお決まり展開はごめんだ。俺は倒されるつもりもないし、魔王領を守るだけでもない。
あの残酷な人間界を支配する!
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