第21話 亜陸の紹介
「あの〜、話があるんだけど……この後空いてる?」
「少しでしたら」
「私はいつでも暇ですよ」
「晴樹は少し仕事しようか。しばいて差し上げますから」
クロムはそう、怖い顔で言った。頑張れ晴樹!ま、いつも仕事しないのはよくないと思うけど、一応俺の護衛だから。魔王に護衛は普通つかないらしいけど。
俺の護衛の件については晴樹がただ騎士団で仕事したくないだけだったみたいで、クロムが文句を言っていたのをよく覚えている。晴樹とクロムは小さい頃から一緒でなんだかんだ言って仲が良い。ケンカもよくしてるけど。
「じゃあ、朝食の後にではなく、直食の前にお願いします。場合によっては食事が増えますので」
「うん?今なんて言った?」
「はい、食事が増える、と言いました」
「へぇ……」
はぁ、怖い。この機嫌の悪そうなクロムは怖いんだ。
「あ、あの、それで何ですけど……こ、この子が亜陸で、タスマニアデビルです」
俺が下向き加減に亜陸を紹介するとクロムは言葉を失った。
「あ、あの〜?」
そういうと、晴樹は呆れ気味に教えてくれた。タスマニアデビルとは数100年に一度出会えたらラッキーレベルの悪魔で、絶滅の危機に陥っているタスマニアデビルは魔族に懐かないらしく、お父様はタスマニアデビルを使い魔として使っていたらしいが、相当珍しかったようだ。まさか、俺までタスマニアデビルを使い魔にするとは思っていなかったらしい。
「ファルヴァント様!いくらでもお料理お作りいたします。タスマニアデビルのメスでしたらこの城にいますので数を増やしましょう!」
何を考えているのかわからないが、それは亜陸次第だ。
「亜陸、クロムがこんなこと言ってるけど、どうする?」
「別に子を成してもいいですが、大変ですよ?食費増えますし、どんどん増えますし……そもそもタスマニアデビルが絶滅しそうなのは子供が食べられてしまうからなんですよ?」
そ、そうだったのか。そろそろその話、終わりにしないか?
「じゃあ、とりあえず僕はこれで、今からは自由に動かせていただきます。何かあったらこれで呼びください」
そう言って渡されたのは犬笛。何で犬笛なのだろうかとも思ったが、それで呼べるなら何の問題もない。
「じゃあ、しばらくゆっくりしてていいよ。昨日は助かったからね」
「ありがとうございます。では、僕は僕で僕の仕事を済ませてきますね!」
仕事、仕事かぁ。昨日あれだけ頑張ったけどまた今日も仕事あるんだなぁ。城下町、思ったより頻繁に問題起きてるし、書類っていうか、その問題をどう処理するかの命令書だよね。部下たちがやった……使い魔だけど、書類は確認しなくてはならない。再度見直ししなくてはならないものなんかは俺が代案を考え、使い魔に返し、再度考え直してもらわなきてはならない。俺はめんどくさいからあまりにひどくない限りはスルーしている。
無くしものなどは街の落とし物カゴの確認と無くなったものの掲載。それだけだから楽だけど、使い魔がいなくなっただの、誰と誰が喧嘩してるだの、もうそれどうでもいいよね!?みたいなものは多い。
使い魔は能力によって使いを頼んでから戻ってくるまで時間がかかる子も多い。それと、喧嘩は魔王軍の下っぱ兵が片付けることになっているから大ごとにはならないようにしているし、誰と誰がギクシャクしてるなんてこっちじゃどうにも出来ないわけで、頑張って和解してくださいとしか言いようがない。
そもそも喧嘩は……と言うかギクシャクしてるのは自分たちでどうにかしなさいな!俺に頼まれても何も出来ないわ!その報告を出した人は一体何がして欲しいのか……
中には魔物がウロウロしてて森に出かけられない、とか畑が魔物によって荒らされる、とか真面目な相談もある。そういったのは魔王軍、または俺が直々に出かけることになるだろう。俺はまだ一度も指名されたことないけど。悲しい……多分クロムあたりが忙しいので魔王様以外の方でやってください的なこと言ってるんだろうね。
まぁ、忙しい身って言ったらそうかも知れないから助かってる?のかなぁ?とは思いつつも、俺だけやらないのは周りに悪い気もする……
亜陸は何故かどっか行っちゃうし、いつの間にか届いていた確認書類は相当な山になっている。今日の書類は全部終わってないけど、こっちを処理するのが先かなぁ。なんせ先に出された問題解決の書類だから早めに出さなきゃまずい。それに前の書類見た感じだと魔王軍の第一を動かさなくてはならなそうだ。第一騎士団はミカ達のところだったはずだから。早めに知らせたい。
俺は必死にその書類を読んで必死に頭を回転させた。無我夢中で取り組んで築けば外は真っ暗。夕食の時間も近づいてきているだろうか?そろそろか?と思いつつ俺はまた書類に意識を向ける。食事に来ないときは大体誰かが呼びに来てくれるからそれまで待ってることにした。
しばらくすると慌ただしい音がして部屋のドアがノックされた。
「夕食か?」
「す、すみません遅くなりましたが、夕食でございます。時計の方は見ないで頂けると幸いでございます」
時計を見るなと言われては気になるではないか!そう思いつつ俺は時計を見た。そしたら何と時刻は午後9時夕食がいつも6時だったから、3時間も遅れてしまっている。ま、クロムも忙しいときだってあるからね。俺は手短に潤ぼを整え、部屋を出る。
「じゃあ、夕食食べよっか」
「はい、遅くなり大変申し訳ありません。休養がたくさん出来たもので……」
「その様子だと尋常でない何かが起きたみたいだけど、何が起きたんだ?」
「少々部屋の片付けをしまして……その言いづらいのですが、あの二匹が交わるために部屋をよこせと申しまして……」
亜陸……大分無茶を言ったな。魔王状の部屋なんて大体どこも使われていないが、客間になっているか、倉庫になっているかだ。その様子では早急にと言われたに違いない。全く。ま、好きにさせればいいが……
「まぁ、ありがと。あいつの無茶にはちょっと耐えてもらいたい。少しだけ我慢してくれ。その代わり俺も手伝う」
「その言葉嬉しく存じますが、ファル様の邪魔をするわけにいきませんので」
「無理そうなときは俺も頼ってほしい。それだけ伝えておきたかったんだよ」
「お心遣い感謝致します」
俺はそれに頷き、夕食の席につく、いつもより静かな食事だった。なんせ2人とも疲れ切っていたから。いつも自分の自慢ばかり話している晴樹もおとなしかった。
「2人ともなんかごめん。大変だったでしょ?」
「気にしないでください」
「ちゃんとご褒美は貰いますよ」
「そこはちゃんともらうんだ」
「はい!勿論です!」
「じゃ、クロムもなんかあげるよ」
「恐れ入ります」
「何がいい?」
「「ファル様にお任せ致します」
え?2人とも自分で選ばないの!?え?俺が選ぶの!?
はぁ、何渡そう。2人の好みわからないんだよね。ほしいものなんて自分で買えちゃうんだろうな。
今宵は寝られなさそうだな。と覚悟したのだった。
ちょっと主人公っぽくなかった?さっきのセリフ!そうだよね!
考え事をしていては落ち落ち寝て入れれないのはみんなも同じなのではないだろうか?今回はどうも解決できない出来事だもんな。あしたねぶそくだ〜!
《次の日》
ね、寝られなかった……一晩中クロムと晴樹の好きそうなものを挙げてみたがピンとくるものがなかった。
「おはようございます。すごいくまですね。何かおありで?」
そうニヤニヤと尋ねてきた。はぁー!こいつわかってるだろ。もう知らん!俺はそう思ったのでクロムを無視して執務室へ向かった。そこはもう先客がいた。それは亜陸だったが、俺は軽く挨拶をして昨日の残った書類に目を通す。
鏡で見た姿は思ったよりひどかった。何でこんなクマすごいんだろ。前世じゃ2日間寝なくても生きていられたのに……
「ファルヴァント様は眠った方がいいですよ」
「もういいもん!」
そうして書類を片付けている間にいつのまにか俺は意識を手放していた。
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