第20話 運動しなさい

「はい、後20周!」


 俺は今城の周りを走らされています。身体強化なしの俺の後ろに身体強化ありの晴樹がついてきています。助けてください。


 無事に一歳の誕生祭が終わったと思ったら次の日いきなり……いきなり執務室に現れ、連れ去られ、この様だ。昨日俺が食べたものは全て記録されていたらしい。どれを食べるな!とか、何個以上食べるな!とか言われなかったから誕生日くらい良いかな?と思って食べすぎたのがいけなかった。


「食い過ぎだから走れ!剣の訓練はそれからだ!」


 といきなり告げられ、何が何だからわからずに今に至る。午前中はこれで全て潰れてしまいそうだ。まだやることがいっぱいあるのに……何が何でもいきなりすぎるよ……


「スピードが落ちてるぞ!オールで叩かれたいか!」


「ひっ、叩かれたくないですぅ!」


「なら真面目に走れ!」


 ま、真面目に走ってるからこんなに疲れてんだよ!


「なんか文句でもあんのか?あぁ?」


「な、ないですぅ!」


 は、晴樹が不良になった。ヤクザになった。


「不良とはなんだ?それにヤクザも意味がわからん!」


「不良は不良で、ヤクザはヤクザだよぉ」


 意味がわからんと言っている晴樹を無視し、俺は黙って走る。4時間くらい飲まず食わず。服は運動用ではなく、社交用のキッチリとした感じのもの。靴も革靴だ。夜に誠との面会予約がされていたから正装のままだったのだ。走りずらいし、喉乾いたし、疲れたし……


 そんなことを思いつつ、晴樹に何とか返事をし、俺は晴樹の心を読む能力が鬱陶しいと感じていた。盗聴では役立つ能力だけど、こういう時には俺の敵にしかならないからだ。


 この時感じたことは魔族の体って人間の体よりずと強いとういこと。人間は城の中を80周走って無事でいられると思わない。だからだ。魔族の体でも疲れるけど。


「ファル様あぁぁぁ!どこに行ったのです〜!書類が終わってないではないですか!それにもうそろそろお昼ですよぉ!」


 大声で叫ぶクロムの声が聞こえる。俺は角を曲がり、クロムに見えないくらいのスピードで走り、それに晴樹もついてくる。


「ファル様っ!」


「ファルヴァント様、止まらないでください。ちゃんと百周走ってくださいね?」


「あ、あぁ、わかっている」


 そう言って俺はさっきよりスピードを緩める。


「晴樹ぃ!ファル様の邪魔をするな!走りたいなら身体強化を外せぇ!どうせお前が走りたいだけだろ!ファル様は止まってください!」


 土地を信じていいかわからない。晴樹に従えばクロムが爆発するし、クロムに従えば晴樹からの課題が……ど、どうしよう……


「どうしていいかわからないからとりあえずクロムも一緒にあと20周走らない?そのあと書類とかやるからさ。二十週ならそんなにかからないで走り切ると思うし」


「却下です!」


「でもお前は知ってるじゃん!www」


「春樹は黙ってろ!」


 もーいーや。2人で争っててもらって……


 4時間で80周走れたんだから1時間で20周走れる。これなら12時半くらいには走り終わるんじゃないか?さっきよりペース上がってるし、もっと早く終わる可能性も……


「って、わっ、何!?」


 いきなり全速力で走り始めた晴樹とクロムに驚きを隠せないが、俺も何とかついていく。正直80周も走ったから俺の体はもうくたくただ。晴樹もクロムも「身体強化」を使って走ってるから俺も魔力を隠蔽して使てっいこっと。


「身体強化」


 おー、体が軽い。追いかける。これなら追いかけられる。


〈30分後〉


「はあぁぁぁ」


 盛大なため息をついたのは俺ではなく晴樹だった。


「文官に負けるなんて何という屈辱……」


「よっしゃー!」


 クロム、何故かとても体力がある。そして足が速い。身体強化を使っているとはいえ、早すぎる。クロムの心をこっそりと聞く。


『やっぱり魔力量では勝てますか』


 ま、魔力量!?魔力をたくさん使えば使うだけ早く走れるってこと!?こりゃたまげた。


「やっぱり無理かぁ。魔力量では勝てない、ねぇ」


「心読むな!」


 あ、心読んでたんだ。でも、魔力量って魔法使うのに関係あったんだ。


「そりゃありますよ?だって魔力が燃料なんですから。燃料が多ければ多いほど力は発揮できますしね」


 へぇ、ってことは車のガソリンと同じような感じか。


「ガソリンが何だかわかりませんが、理解できたようで何よりです」


「じゃあ、お昼にしよっか。たまには3人でどう?」


「たまにはいいのではないですか?」


 と、クロム。


「たまには、な」


 と、晴樹。


 そして3人で食事となった。今日のメニューはハンバーグとパン、欠かさない豆腐と、トマトのスープだった。


「今日もおいしいよ」


「光栄でございます」


「気に食わないが、お前の飯は美味い」


「それは良かったですね」


 なんかクロム怒ってる?まぁ、いっか。そのうち治るだろ。それよりこれから待っているであろう書類をどうやって片付けるか考えないとだなぁ……俺のクローンでもいてくれたらいいんだけどな。


 ん?待てよ。クローン?自我を持った人間を生み出す!?それならどこかの魔導書に描いてあったような……


 俺は急いでご飯を書き込む。


「ご馳走様!」


 確か俺の自室の本棚に置いてあったはず。俺は気おきの中からどの辺にあったかを引っ張り出す。背表紙のない一番古い本。魔王の血が通っていないと開けられない謎の本。それだ!


 その本を開いて目次を見る。49ページだ。49ページに魔道人形の術式が載っていたはず。魔導人形は命令のみを遂行するとても扱いやすいもの。俺は早速その魔法陣を空中に描いて魔法を発動させる。その魔法陣からだんだんと小動物のような生き物の形が形取られる。


「ご主人様、初めまして使い魔として呼ばれた者です。名前をつけていただければなんでも致します」


「な、名前!?な、なまえかぁ……うーん、タスマニアデビルだから、ニアとかどう?」


「あの、一応男なので男っぽいものでお願いします」


「わ、分かった」


 この子は男だったのか。だからリーでいいかなとか思ったんだけど……獅鬼とか?流鬼とか?


「じゃあ、いくつか名前言うからその中から選んで、獅鬼しき、流鬼るき、亜陸ありくはどうだ?」


「じゃ、じゃあ亜陸で」


「ん、分かった。こうから君の名前は亜陸ね!早速で悪いんだけど、俺と一緒に仕事してくれない?仕事一緒にしてくれたらご褒美あげるから」


「はい、どこまでもついていきますよ」


 ということなので俺はそのまま執務室へ直行し、仕事を一緒にやった。俺の執務室ということで、同じような書類を処理している人も一緒にやっている人もいない。そう、寂しい部屋なのだ。なので誰を連れ込もうと問題ない。それに亜陸は使い魔だし!魔族……人間型のものを持ち込まなければそんなに問題にならないだろう。


「ご主人、これをやればいいのですか?」


「そう、インクでかける?」


「はい、亜陸は有能ですので!」


 そういうと亜陸は器用にペンを握って字を書き始めた。お、ちゃんと読める!と言うか、読めないと困るんだよね。まぁ、多少かき慣れてない感じはあるけど、読めるからいいか。


 そういう結論に至った俺はそのまま任せることにした。その結果仕事は思ったより早く終わり、今日の分を何とか終わらせることができた。


「ご褒美!」


「何がいいんだ?」


「肉!」


「じゃ、厨房に行くか。ついてこい」


「はい、ご主人!」


 俺は厨房へ亜陸を抱えて向かった。そしてクロムに肉をくれと言って肉をもらい、執務室に戻った。亜陸に肉を渡せば美味しそうにそれを頬張る。うん、これはこれでいいかも知れない……


「このあと夕食もあるから食べすぎないようにな」


 そう言って俺は机の上を片付け、夕食の時間までのんびりとすることにした。


 そのあと無事に夕食を終え、寝る支度をし、亜陸と一緒に寝た。


 こうして俺の今日という長い日が終わりを告げる。明日は亜陸を紹介しないとだな。

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