第19話 一歳の誕生日2
俺は壁の花を貫いている。なぜなら自分から声をかけにいきたくないからだ。魔王だから踊らなくちゃいけないとかないらしいし?お父様も壁の花だったらしいし?何にも問題ないとは言わないけど、大丈夫なはずだから?多分だけど……
晴樹とクロムに怒られなければ。例えこの場で気に入った女性がいたとしても俺の結婚候補に上がることはないからな。10歳以上年上の女性と結婚するのは反対されるというのは目に見えている。基本同い年か、年下が好まれるし……
ま、俺抜きで楽しんでくれればいいよ。パーティーは立って食べる感じの形式だからとりあえずはじっこで甘いお菓子を楽しんでいればいいだろう。
やっぱり美味しいよね。マフィンとかケーキとか、他にもマカロンとか。なくなったら追加でどんどん来るからさ。今日は城の警備もいつもよりゆるいし……団長とかがパーティーに参加してるからだっていうのは分かるけど、人数が少ないのはおかしい気がする。
多分……俺の予想だけど、棋士の皆さん厨房でつまみ食いしてるんじゃないですか?ちょっと見に行ってみるか。
俺はさらに残っているデザートを急いで食べ、こっそりと抜け出す。魔王城のホールにはテラスがある。そこに行ったように見せかけ、飛び降りて外から中に入ればいいだろう。正面の門から堂々と抜け出すほど馬鹿ではない。
テラスの手すりを飛び越えて外に出る。2階の高さだから対して高さはない。
若干ジンジンとした足をそのまま動かし、裏門からはいる。そのまま廊下を走って厨房まで向かい、入り口からヒョコっと覗いてみる。
やっぱりか。中では武装した魔族たちがにぎやかに何かを食べていた。先ほどの料理の残りとか、新しく作ったデザートとか……作っているのはクロムだった。さっき会場にいた気がしたんだけどな。こっちに来ていたのか。
俺はこれだけ覗くとその場をさる。あまり長居してバレたら厄介なこと極まりないしな。
俺は使い魔の蝙蝠こうもりを呼び、手紙を届けさせる。ミカ宛だ。ミカにはひと段落したら手紙が欲しいと伝えられていた。そろそろ頃合いであろう。俺の手もあいて、上位の領主達も踊り終えていい感じだろう。壁の花を貫いた俺は知らないけどな?しかもパーティー抜け出してるから。
俺はそのまま会場に向かって歩く。さっき出てきたテラスの方へ向かい、そのまま飛び乗る。身体能力を上げれば楽勝だ。
コウモリがそろそろ帰ってくると思うので魔力を指に集める。そうすることによって早く帰ってくるのだ。そうしつけたのは俺だけど。普通のコウモリは魔力を指に集めたからって早く帰ってきたりしないよ。たまたま魔力を感知してきてくれる特殊なコウモリくんだったからできたことだよ。
キィーキィ!
「おかえり、じゃあちょっと待っててね」
声に魔力を乗せて話す。こうすることによって言葉を理解してくれる。
キィ!
そう言って俺の言葉に返事をしてくれる。足についていた手紙を取って俺は中を確認する。
会場の準備は終わっています。そちらの都合次第で向かってもらって構いません。お待ちしております。
そう記されていた。俺はルキア、リーナ、誠、驪妃斗にそれぞれ接触し、周りの酔いが回ってきているのを確認次第指定場所にこいという指示を出しておいた。
指定場所は第三会議室。俺はそう呼んでいる。クロムや晴樹は会談室って呼んでるけど、会議室の方がしっくりくるからね。
大した違いないけどね!
俺は周りに世間話をして、少し席を外す旨を伝えた。ちょっと用事ができたと言えば大体の人は察してくれるから。ルキア、リーナ、誠、驪妃斗、全員が揃ったときは大体会議が行われる。
「ちょっと席を外すからあとは頼んだよ」
話したことのある人や、中の良さげな人に話を通す。俺はそのままこっそりと抜け出し、後のパーティーは楽しんでてもらうとしよう。俺はそんなに長く話をするつもりはないからすぐに終わるだろう。
「待たせたかな?」
「……」
「では会議を始める。俺から伝えたいのは1つ。未熟な俺だけど、よろしく。それ以外は特にいうことはないよ。後はみんなの報告を聞くだけ。お父様からろくに引き継ぎしてもらってないから引き継ぎの剣も兼ねてお願いするよ」
「はい、では報告はこちらを。ファルヴァント様が主催のパーティーですので早く戻られたほうがいいでしょう?」
ルキアはそう言って書類を渡してくる。
「気遣いに感謝する」
「リーナからは特にないよ!前渡した書類を見れば大体わかると思うけど、渡しておくね。私も略で。その代わり終わったあとこの部屋を使わせてほしいな」
「わかった。伝えておく」
俺はミカにこっそりと連絡を入れる。基地に手を当て、咳払いをしたふりをして部屋の使用許可をとる。
部屋の使用許可はすぐに出た。だって四方の大貴族だもんな。そりゃ信頼されてる。
「では私も書類だけで我慢します。後ほどお時間くださいね?せっかくですからお話もしたいです」
「ああ、の血ほど話そう」
そう言って書類を渡される。ちなみにここ五年間の記録が入っているそうだ。多い……
「はい」
そう言って渡されただけだった。
「ありがとう」
「驪妃斗、その無口直したらどうだ?お前だってまだ14だろ?そんなに長く生きてないんだから癖でも治せるだろ!人間不信みたいなの治した方あいいんじゃないか?」
「まぁ、まぁ、いいじゃん?それも個性なんだしさ?それにここで喧嘩したらリリーは泣いちゃう!」
「驪妃斗はそのままの口調でいいよ。俺はそんな驪妃斗も好きだから」
「ありがとう。魔王様」
俺の名前呼んでくれない……自己紹介したから名前知ってるはずなんだけどな……なんか寂しい。魔王様でもいいけど、それが驪妃斗の個性だから。
「じゃあ、個人個人で面会予約すればいいんだな?」
「それで頼む。俺は大体暇……ではないけど、時間開けられないこととかほぼないから日時指定してくれればそれに出来る限り合わせる。連絡は使い魔で。こちらから特殊な個体を渡すからそれで送るか、直接頼む」
「わかりました。ファルヴァント様」
「わかったよ〜!ファル様!」
「了解です」
「ん」
ほんと、みんな返事でも個性が出てるよ。なんか棘のあるルキアにフレンドリーなリーナ。肩っ苦しい誠に超簡素で無口な驪妃斗。
「じゃあ、ここはそのまま使って。紅茶は入れ直しておくから」
そう言って俺は重力魔法で入れ替える。
「ま、魔王様に直々に入れて貰えるなんて……」
「ファ、ファル様!?」
そんな声が聞こえるが俺は無視をする。これは使用人の仕事で俺がやるべきことではないのは分かっているが、なんせルキアの息のかかった民が多いものでな。使用人が新しく雇えない。その埋め合わせに騎士が使用人になっているので紅茶は入れられない。貴族出身のミカくらいだよ。全く……
ま、騎士だから剣さえできてくれればいいんだけどね。今日みたいに茶を入れる技術なんてそう使うものでもないし。
「後で」
そう言って。俺は部屋を出る。おそらくだが、ミカが盗聴しているはずだ。何が起きていたかは後でわかる。
俺は会場に戻って宴を最後まで楽しんだ。やっぱりデザート最高〜!
このあと食べ過ぎだからダイエットだと走らされることになると言うことをこの時の俺はまだ知らない。
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